願い
「なあ、今のアージェットの服を縫った人は、どうやって蜘蛛を手に入れたんだ? 僕は呪霊師がすごく汚く感じる。その服はすごく綺麗だ。精霊が自ら望んで力を付与した以上に」
だからどこかの貴族が没落して、伝説の始祖の作品でも手に入れたのかと思ったと呟くシュネルに、二人はゾワリと鳥肌が立った。
感覚の鋭さは能力の高さと結びつきやすい。なのに、シュネルは中級の冒険者だ。
高位の精霊の守護を受けていながら、その力を十全に扱えていないこと自体は珍しくない。人間の能力が精霊の力を扱いきれないことは。
「シュネル、お前なんで、精霊の力を扱いきれないんだ?」
「あぁ? 精霊に釣り合わない人間で悪かったなぁ、なんだよ! 唐突な蔑みっ! 人の話聞いてんのかぁ?」
凶悪な目つきになったシュネルに、アージットは慌てて首を振った。
「違う違うっ! お前の話を聞いたから、お前の能力の高さで精霊の力を扱いきれない違和感が凄いんだ!」
「へ?」
「アージット様、シュネル様をユイ様に見ていただいた方が良いかと思われます」
エンデリアは提案した。
ストールの鎧、センリのどうやら神に関わる関係・・・・・・・・大なり小なりユイは何かと周りに影響を与えている。
アージットも少し視線を上空に泳がせて、エンデリアの根拠はないが感に引っかかるものと同じことを連想したのだろう、頷いた。
「ユイさま? アージェットやっぱり偽名か・・・・・・・・アージット? ・・・・・・・・どっかで聞いたような?」
首を傾げたが、思い出せなかったのかシュネルはため息をついて、身を乗り出した。
「そのユイ様が、縫い手か? 何でも協力できるものならしてやるから! 会わせてもらえるのならば、会わせてくれ!」
「シュネル?」
必死な表情に、二人は困惑の視線を合わせた。
「落ち着け、どうした? まだ酔っているのか?」
「酔ってないし、落ち着いている!」
叫んでから少し息を詰まらせて、両手で顔を覆ったシュネルは唸り声をこぼした。
そして呼吸を整えて、両手を下ろした。
シュネルは一見無表情のような、真面目な顔になっていた。
「ずっと、諦めて、自分をごまかしていた。だが、諦めるなど、無理だ。僕は、加護縫いが」
声を詰まらせながら、言葉を紡いでいるシュネルを見つめる精霊は微かに身を震わせた。
その身に纏っていた力が、内側から押し出されてしまうのを、アージットは見た。
透明になっても、押さえきれずに溢れる気配に、エンデリアも顔色を変える。
珍しい上級精霊だと、普通の精霊だと思っていた。
そう、よく考えれば、アムナートとハーニァの守護精霊のように、精霊同士のやり取りならば、分けた力は相手が受け入れれば定着する。受け入れて定着しない、この風属性の精霊がおかしい。
精霊の変化には気づかずに、シュネルはその言葉を大切に形にした。
「僕は加護縫いが、『したい』んだ。針子に、なりたいんだ」




