シュネルと加護縫い
見せたい物があると言って、シュネルはアージットとエンデリアを宿部屋へ招いた。
置きっぱなしの荷物の中から、一枚のシャツを取り出す。
「僕がこの国に来るまでに貯め込んでいた、お金のほとんどを使って頼んだ加護縫いの・・・・・・・・結果が、コレだ」
赤い糸が、汚く胸ポケットの上を這っていた。
「うわぁ」
「精霊の力が宿ったからと、追加料金をとられてかえってきたのがコレだ」
「・・・・・・・・待って下さい、コレ背中側も縫いつけてますよ? 着れないじゃないですか」
「着れても、着ないけどね、こんな穢らわしいの!」
シュネルは歯ぎしりして、ソレを指先で摘まんだ。
「何が精霊の力が宿っただ! 奪った精霊の力じゃねーか!」
「シュネル、精霊の力の種類が分かるのか?」
「本当の所、あんたに声かけたの、あんたの服の制作者がコレと同じ手だと分かったから、だったんだよね」
「ヌィール家、前当主か」
「いや、現・・・・・・・・もしかして、下ろされた? お前の今着てる服の手の人、か?」
シュネルは破顔一笑して、手を叩いた。
「ざまぁ! あのクソブタ野郎! 祝杯あげなきゃ」
いそいそとベッドの下の鍵付き物入れから、結構良い蜜酒を取り出すシュネルを、アージットは慌てて止めた。
「シュネル、俺達を忘れるな」
「あ、悪い悪い、つい。・・・・・・・・えーと、そうそう、アージェット明らかに貴族だろ? それも結構高い地位の。だから家訓で、ヌィール家の服しか着れないのかなぁって。でもさぁ、俺のコレとは違って奪った力は付いてなかったじゃん? なんでかなぁって思ってさ」
名残惜しそうにお酒をテーブルに置いて、付属の椅子をベッド前に二脚並べた。
シュネル自身はベッドに腰掛け、二人に椅子に座るように示した。
「確認だけど、アージェット・・・・・・・・精霊が見れる?」
「ああ」
「僕も一応見れるよ。凝視すればだけどね」
目を細めて、シュネルは自分に寄り添う精霊をじっと見る。
目つきはますます悪くなったが、表情は軟らかい。
「なるほど、彼女は君に見やすくなるように色をまとっているのだな」
「色をまとう?」
エンデリアの問いかけに、アージットは頷いた。
「初めて会った時は、高位の炎と風属性の精霊だと思った。だが、次に会った時は土と風属性」
「ああ、お前変な顔になってたものなぁ」
「そして、風以外の属性色はだんだん薄れて、近場の精霊と力を取り引きする瞬間を見た。あの時は水だったな、今は緑か」
「うん。元々の力意外は、あまり留めておけない。加護縫いの蜘蛛の糸が、特別なんだよ。」
後付けで、ずっと精霊の力を宿していられる糸だなんて・・・・・・・・と、シュネルは羨望の色を声に出した。
「でも奪った力なら、その力が抜ける前までに縫いつけなきゃならなかったんだろうな」
縫いつける前から、精霊が力を与えようと順番待ちをしているようなユイの縫い物風景が浮かんだが、アレは始祖以外ではおこらないはずの現象だ。
精霊は始祖以外の蜘蛛には、近づかない・・・・・・・・なかったからだ。
奪った力を蜘蛛に食わせて、あの男は精霊の力を宿した加護縫いを・・・・・・・・糸を作り出させたのだろう。
しかし、長い間縫っている間に、精霊の力は抜けてしまった。本人も気づいてないのかもしれない。高額な依頼だからと、自分で全て縫っていたことがかえって価値を下げていたことを。
「・・・・・・・・なるほど」
「または、魔眼に精霊の力の種類を見分けられる恐れから、控えたのかもしれませんね」
エンデリアの言葉に、その可能性も高いと思った・・・・・・・・が、首を振った。
アレは目先ののことしか考えない馬鹿で、強欲な人間だ。
シュネルに渡した服を台無しにした代物でも、恥知らずに追加料金を請求する・・・・・・・・こんなゴミの縫いつけでも、奪った力を留められたのが珍しいくらい能力無しだったのだろう。
「そこまで考える頭はアレには無いだろう。これまでアレが当主でいれたのは、蜘蛛との契約があったからだ。」
「・・・・・・・・ああ、ですね」




