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針子の乙女  作者: ゼロキ
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ギルドにて

 それはとても、線の細い男性だった。緑色の肩よりやや長い髪は艶やかで、濃い針葉樹の葉の色に似ている。

 瞳も若草色で、容姿も神経質そうな鋭い三白眼が目につくが、森の民の血が入っているのでは? と、囁かれるくらい整っている。

 後ろ姿は細身の女性のようにも見えるため、ギルドに併設された酒場では、彼に絡んだ酔っぱらいが蹴り落とされて転がっていたりする。

 「彼・・・・・・・・が?」

 「うむ、珍しいな・・・・・・・・朝から、飲んでいるとは」

 拠点を移していなかったことには、安心したがと、アージットは呟いた。

 アージットの目には、うっすらと緑をまとったほぼ透明な精霊の姿も見える。

 見事なドレス姿の、男性とほぼ同サイズの精霊は、アージットに気がつくと彼の耳元に唇を寄せた。

 「あぁ?」

 通常より三倍はガラの悪い気配と声で、彼は振り返りアージットを見た。

 「久しいな、シュネル」

 「・・・・・・・・アージェット?」

 アージットの偽名を訝しげに呟いた彼、シュネルは目を細めて、ジロジロとアージットを凝視した。

 カウンターがゴンッと音を立て、続けてシュネルの手の中のグラスが、ビシッとひび割れる音を立てた。

 「てめぇ、あのクソ装備はどうした? 家訓でアレしか着れないんじゃなかったっけ?」

 眉間に深いしわを刻んで、超絶不機嫌な声が響いた。

 「どっかの貴族が没落でもしたか? 加護縫いの超一級品、今じゃ家宝物だろ。さらに自分ぴったりサイズだと? 色男め、死ね」

 「・・・・・・・・機嫌悪いな、どうした? 朝から酒なんて」

 「うっせぇ、コレは祝杯なんだよ! あの粘着野郎から解放されたな!」

 空になっているひび割れたグラスを、シュネルは乱雑にかかげた。中身が入っていたら周囲に撒き散らしていただろう。

 「シュネルさん、今朝まで粘着されてましたから。マナーのなってない新顔に仲間になれって」

 そっと通りすがりのギルド職員の男性が、アージットに告げ口して去っていく。

 「・・・・・・・・そうか」

 ある意味、タイミングが悪かったなと、アージットとエンデリアは顔を見合わせた。

 「で? 何の用だ?」

 「実は俺たちも勧誘でな」

 「か~ん~ゆ~うぅ?」

 地の底を這うような声で、シュネルはアージットを睨んだ。

 「ある精霊を助けるために、切断系の能力者か魔剣が必要なんだ」

 「切断」

 シュネルは自分の両腰を見た。

 いつもの装備がある。鞭とダンジョン産の撲殺用の紙ハリセンである。

 ダンジョン産武器には、当たり外れ、そしてシュネルの持つネタ武器という物が出る。材質は紙、突っ込みに使うと良い音が響く。衝撃で人を叩き倒す事も出来るが、武器として使うと大抵の魔物を撲殺出来るのだ。

 ネタ武器には、神の加護が多く付与されているらしい。

 ・・・・・・・・が。

 「僕の装備に切断能力はないよ?」

 「知っている」

 「だよなぁ」

 警戒の眼差しを向けられ、アージットは苦笑した。

 「報酬として、これレベルの加護縫い装備を、オーダーメイドで用意」

 「ちょっと待て」

 アージットの言葉をさえぎって、シュネルはカウンターに金を置いて席を立った。

 「ヌィール家に隠し子でもいたのか? それか、魔物の蜘蛛の聖獣化でも新たに見つけ出した?」

 肩を抱いて、囁きかけるシュネルは酔いが覚めたかのように真剣だった。

 「詳しいな? 今のヌィール家の腕を知っているのか」

 「言ってなかったか、僕がこの国に来たのは、ヌィール家の加護縫い目的だったんだ」


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