迷宮温泉
懲りないミマチさんが、漫画のようにこちらに飛び込んでくるが、ストールさんは予測していたので華麗によけた。
ミマチさんから逃れるのに、ダンスのようになるのが楽しくて、意識して足先や指先を伸ばす。
貴族の一般常識として、幼児期に基本は習ったが・・・・正直ほとんど忘れている。
ストールさんのリードがなかったら、自分の足が絡んで転んでいただろう。
踊る時に見栄えの良いドレスを考えるのは好きなのだが・・・・
湯浴み着は、自分で作った物で、一般的な物よりも布が多い。
従来の物が、普通の服とあまり変わらなくて、体を洗われることが面倒だったのだ。
婚約が決まる前までは子供扱いで、全裸だったけどね。
婚約が決まると、同性でもむやみに肌を晒さないんだって。
ちなみに庶民は普通に全裸らしい。
着替えとかではめっちゃ晒されて、今更感だけどね。
貴族の無駄なこだわりだ。
少しずつ湯浴み着をはだけて洗われ、着せ直され・・・・って、工程は本当に面倒だった。
だから簡単に、胸元と腰を結ぶ構造にして、両脇にも大胆にスリットを入れて、洗われやすくした。
あまり無防備に見えないように、たっぷりの布である。
くるくる踊ると布が広がって綺麗。
でも夜会で見た平均的なドレスは、たっぷりの布が重そうだったなぁ、やっぱりある程度軽やかで動きを魅せられる物がいいよねぇ・・・・そんなことを考えながらも、ストールさんのリードのおかげで、あまり疲れもなくミマチさんの手から逃れ続けた。
そしてひょいと抱き上げられ、エンデリアさんとすれ違う瞬間に私はストールさんからエンデリアさんの腕に移されていた。
ミマチさんはそのままストールさんを追いかける。
私はエンデリアさんに、桶や椅子の用意された洗い場に運ばれた。
「まだまだ未熟」
「重さの変化も感じとれないとねぇ」
メイド姉さん達の中で、いつもほわわんな雰囲気の青髪姉さんが、おっとりと言いながら私の髪を洗い出した。
「ふぁァ」
ロダン様の屋敷では時間が合わなくて、一緒にお風呂は初めてだが、誰よりも丁寧で素早く気持ち良かった。頭がとろけたみたいになって、エンデリアさんの豊満な胸を枕にしてしまう。
「ぁァ」
地面に足を着けないように、エンデリアさんに抱っこされたまま体も洗われる。
青髪姉さんは髪を洗い終えると、エンデリアさんが洗った後を追いかけるようにマッサージしてくれた。
極楽である。
「これは、洗いやすくて良いですね」
馬車で移動中に作っていたので、この湯浴み着は本日初御披露目だったのだ。
エンデリアさんに誉められたので、
「みんなの、も、作る」
「フフ、ありがとうございます。でも、いくら手が早くとも今日はもうダメですよ」
「?」
「ユイ様は、ちゃんと基礎体力をつけるため、私が泳ぎを教えることになります。泳ぎはあまり疲れを感じることなく全体的に鍛えていけますので」
私は地底湖のような温泉を見て、のぼせてしまうのでは・・・・と、不安に思った。
「あ、大丈夫ですよ、ここは手前の向かって右側は温度が高いですが、奥に行くと温度は低いのです」
そしてエンデリアさんが、奥の柱を指差した。
水晶の柱だ。幻想的でわくわくする。
「あの柱から先は、急に深くなってますので近づかないように」
「えぇ」
思わず残念な声が出てしまう。
「まあ、近くで見たいですよねぇ」
「ルゥルゥーゥと、一緒ならば構いませんが」
「ルゥ?」
「あ、そういえば名乗ってなかったですねぇ、私です。ルゥルゥーゥ・ルルー」
「ルルー?」
青髪姉さんが手を上げて言う。
「ユイ様、この娘は人魚族なので、ルゥルゥーゥが名前で、ルルーが種族名です」




