新たな生活
引っ越しした。
場所は迷宮のある都市、ストールさんの実家の領地らしい。
引退なされた王の隠居地のひとつでもある。
勿論、その屋敷もあるそうだけど、そっちにはまだ行ってない。
風系統の迷宮は、とても少なくて国内にはここにしかないという話だ。
半年。
アージット様達が呪いと戦うための修行と、切断系の迷宮武器を得るため、風の高位精霊を見つけるため、それかそういった武器を持っている冒険者、風の高位精霊の加護を得ている冒険者を見つけ、協力を得るため迷宮近くに拠点を構えたのだ。
夜会から2日後、ロダン様の家で皆さんに別れを惜しまれながら婚姻を祝福され、旅立つことになった。
今世で、親しくなった人達との別れに、号泣してしまう。
こんなに泣くのは、久しぶり。
生まれ変わって、前世の友人達や決まっていた職場のこととか、残してしまったことを思い出しては赤ちゃんということもあって、我慢出来ずに沢山泣いて振り切った時以来。
うん。常識や色々と教えてくれた家庭教師との別れは、能無しとして隔離された日で、聞かされた話では私の扱いを、流石に我慢出来ず抗議してクビになったらしい。
あの時は唐突で実感が湧かないまま、ほとんど奴隷生活に突入したため、悲しむタイミングを逃していた。むしろあの家から縁が切れて、良かったね! 先生! と、ほっとしてたもの。
今頃になって、そう言えば先生にお別れ出来なかったなと、連想的に思い出して先生に対しても寂しい悲しいと、いう思いはあったんだなぁ~と、涙を増量してしまった。
「ユイ、大丈夫か?」
迎えに来てくれたアージット様は、泣いてる私を抱き上げて苦笑した。
「すまんな、お前を親しい場所から連れ去る」
「だい、じょうぶ、また会える、でしょう?」
「そうだな」
気持ち的には寂しくて、でも旅路は比べようもなく楽だった。
ヌィール家周辺の土地って、あまり整備とかされてなかったみたいで、正直家を追い出される直前まで仕事を詰め込まれ、寝不足と空腹、初めての馬車なのに悪路ということで、気絶していたのだと思う。何日かかったか記憶がない。
新しい拠点は、アージット様の馬車で3日ほどかかった。
ロダン様の屋敷はこれから初夏、といった気候だったのだが、2日ほど進んだ頃にはちょっと肌寒くなり、外の木々は紅葉に染まっていった。
夏をすっ飛ばしてしまったよ?
ヌィール家からロダン様の屋敷に運ばれた時とは違い、ちゃんと夜には宿屋に泊まった。
私の容姿は晒さないように、ツバの広い帽子にレースを付けた物を身に付けて。
前、街へ布を買いに行った頃は、まだ成長期が容姿に影響してなくて、貧相な子供だったから普通に買い物に行けたが・・・・・・・・今の容姿では、禁止されている。
うん。変態ホイホイだものね。
宿のご飯が美味しかった! モツの煮込みとか! うどん? ホウトウ? っぽいのとか!
あと、卵かけご飯!
前世友人達との会話で、卵かけご飯の話題になって・・・・・・・・それまで食べたことなかったから、帰ってこっそりやってみて、凄く・・・・・・・・むしろ両親と一緒じゃない時の、ご飯の美味しさに感涙した記憶が蘇ったわ。
初めて口にする味も、色々あった。
何の肉か分からないけど、角煮のようなとろける肉と芋の煮付けとかね!
後で聞いたら、肉は肉でも魚肉と聞いて驚いたよ!
これまで、今世でのご飯は洋食中心っぽかったからね、和食と言うか居酒屋メニュー? 前世の友人のお母さんが作ってくれた夕飯みたいな、あったかいお母さんの味。
いや、前世の親とのご飯は、基本苦痛だったから、あまり味覚えてないんだよねぇ・・・・・・・・
とにかく、アリアさんが料理したい! 味わいたい! と、なるのがよく分かった。
アリアさんのケーキ治療? をうけてから、私どうやら味覚障害を軽くおこしていたことに気づいた。屋敷のご飯、引き取られてからすごく美味しく食べてたけど、感じてたより数倍美味しかったのだ。
ヌィール家での食事が、つらくて精神的にもそうなっていたみたい。精霊さんが意図的に力を浸した飲食物をとっていても、ギリギリの衰弱っぷりだったからなぁと、お医者様が診断してくれた。
そのこともあって、道中美味しい物巡りがメインになっていた。寄り道とかもしていたのかもしれない。
この土地でしか収穫出来ないフルーツとか野菜とか、結構あったしね。
面白かった。
「おぉ!」
家は街中に用意されていた。
外装は円柱。
赤や黄色に色づいた蔦植物が、岩レンガの大半に根付いている。
灰色の無骨さがそれで和らいでいる、建物だった。
・・・・・・・・何か、お城の塔を切り取って置きました。数十年ほど前に。・・・・・・・・と、言われたら信じてしまいそうな見目。
アージット様達が修行と探索をしている間、私は基本お留守番である。
半年後の結婚式の衣装に、呪いの魔物戦で戦うメンバー達の衣装も、私が作らなければいけない。
戦うメンバーは、アージット様とストールさんミマチさん、アムナート王様とハーニァ様も高位精霊守護持ちで、炎の浄化能力があるので危険だけど外せない。
だからより防御力の高い装備を、私は加護縫いしなければならない。
どんなに手が早い私でも、加護縫いの経験値はまだまだなので、数をこなす予定。国布精霊さんの浄化手袋も、量産予定なのだ。
国布精霊さんは国を守護している精霊さんだから、彼女が呪われている状態は国にも影響する。
今問題になっていないのは、アージット様の小さな守護精霊さんたちのおかげだ。
「この子達が、力の大半を使って呪いの影響が出ないようにしてくれた」
アージット様が、彼の小さな守護精霊さん達を見つめながら教えてくれた。
この子達も、元は高位精霊さんから中位精霊さんだったらしい。
こんな生まれたてに近い状態になるまで、力を使ってくれたなんて、アージット様はこの子達に凄く好かれているのだなぁと、感心した。
後のメンバーは、アリアさんの迷宮が広がらないようにした、魔術師ミシュートゥ・トルアミアさん。
ロダン様やストールさんの友人だった。彼は仕事の一時的な引き継ぎを終えたら合流するらしい。
そしてロダン様の所のメイド長、エンデリアさん。確かに、すごく力のある守護精霊さん付きだった!
拠点に着いたらすでに居て、戦闘メンバーとして紹介されて驚いた。
特に仲良くしていたメイド姉さん達も三人ほど居て、涙、彼女達分返して? な、気分になりました。
仕事の都合で、お別れ出来なかったので、余計に悲しかったのに!
仕事って、新しいお家の準備だったという・・・・・・・・彼女達も、このまま半年拠点の管理要員になると聞いて、嬉しかったけどちょっとむくれた。
戦闘メンバーのメイド長は高位闇精霊守護持ちで、気配だけで知ってたけど、見たことなかったと思ったら彼女の影と同化していた。よく考えたら、私も紫王子な守護精霊さんはほとんど影に潜んでいた。
あれ? そういえば・・・・・・・・紫王子、剣で加護縫いを分解したよね?
呪いも分解出来る?
紫王子は両手でバツを作った。
出来るけど、出来ない・・・・・・・・と、いう意識が伝わってくる。
あ、国布精霊さんも分解してしまう?
頷かれてしまった。
ナニソレ 怖い
あっれぇ?
紫王子、サイズ的には三頭身だし、気配も中位に近い下位精霊さんのはずなんだけど・・・・・・・・
ぶ、分解、出来ちゃうの?
男の子な精霊さん、珍しい、いや正直紫王子しか見たことないし、アリアさんが寝る前に、聞いておけば良かったよ・・・・・・・・ひょっとしてこの子、特別な精霊さんなのでは?
とにかく、エンデリアさんも元王宮勤めの警護メイドさんだったので、凄く強いらしい。
ちょっと謎に気付きつつ、今決まっているメンバーはこれだけ。
アージット様。
ストールさんにミマチさん。
アムナート様にハーニァ様。
騎士団長と老執事さん。
あの時のメンバーと、エンデリアさん。めちゃくちゃ強いらしいハーニァ様のお兄さん。
戦闘場所の広さ的に、増やしてもあと数人
それぞれに修行しながら、半年後に備える。
同時に、すでに切断属性の魔剣の持ち主や、守護精霊持ちも探す。
勿論私達だけではなくて、国単位で探している・・・・・・・・が。
風属性の守護精霊持ちも、魔剣の持ち主も、属性的に地位や名誉では縛れない。
むしろ逃げる。
だから、報酬は私の用意する加護縫い装備になるらしい。




