ボス戦
生首はアージットの名を呼びながら、髪の上を転がった。
髪はアージットを狙ってのた打つ。
氷の魔剣を振るい身を守るが、相性が悪い。
切れても伸び、凍っても凍った部分を振り回す。
「アージット様!」
首を追いかけていたストールの足が鈍る。
「気にするな!俺では不利だ、早く頭を仕留めてくれ!」
「はい!」
「ストールちゃん!危ないっ!」
ミマチがストールを拘束しようとした髪を切り払い、駆け抜けた。
髪に捕まらないように駆け抜けたミマチは、ズサーッと片手を地に付けて、ハッとし叫んだ。
「精霊の協力が得られる!」
そしてそのまま地面に魔力を叩きつけた。
「お願い!精霊ちゃん!」
部屋に何本もの丸太のような柱が立ち、足場を作る。
「ストールちゃん!」
「分かった!」
ストールは柱に飛び乗り、頭を追った。
しかしうねる髪の中転がる頭は時々隠れ、追いきれない。
「くっ、切れば増えるし・・・・どうすれば・・・・」
その時、部屋の片隅で、金色の炎が燃え上がった。
「アージット様!こちらへ!アレの狙いはアージット様です!」
「ウェルス、駄目だ!アムナートの安全が優先だ!」
「父上!誘い込まないと、こちらが不利です!」
ハーニァが地面に叩きつけた拳から、炎を燃え上がらせながら向かってくる髪を防ぐ。
髪は炎を恐れ、逃げ惑っているのが分かった。
ハーニァはそうやってスペースを空け、アムナートを老執事に任せ二人のいる場所から髪を遠ざけながら、髪に捕まってしまった騎士を救出に向かっていた。
「この場の決定打が、ハーニァ様とストール様だけなのが辛いですね・・・・」
老執事がアムナートの側に控えながら、呟く。
「・・・・いや、待て?」
守護精霊の姿を見て、アムナートは気付いた。
その胸に咲く、炎の花に
アムナートは自身のマントに指を這わせた。
そこに組み込まれたのは・・・・ハーニァの守護精霊と、自分の守護精霊の力で出来た花だ。
魔力を込める。
手には元の形態の花が戻っていた。
そしてそれは、炎の茨となる。
「あぁ・・・・すごい、炎が使える」
守護精霊の力を借りても、植物の成長を促すくらいしか出来無かったアムナートは、熱くない炎に感嘆の息をつく。
勿論、媒体が無ければ使えなかった力で
ユイの作った、守護精霊ニ体の力のこもった花だからこそ、これ以上ない媒体である。
アムナートの周囲に、炎の茨がしげりだす。
「あ」
え?まだ、何もしてない
と、なったアムナートに、老執事が苦笑する。
「アムナート様、王位の効果でございます」
「守護精霊の性質が国土豊穣に反映するという、国布の効果か!」
聞いてはいたが、初めて実感した・・・・とアムナートは呟く。
「アムナート!二重に生やせるか!?」
アージットの問いかけに、アムナートはハッとして
髪に捕まって首を締め上げられていた騎士を助け、引きずりながら戻ってくるハーニァに手を差し出した。
「ハーニァ、力を貸してくれ!」
老執事ウェルスが茨を飛び越え、ハーニァの代わりに騎士を担いだ。
「ハーニァ様、お早くアムナート様の元へ」
「ありがとう、頼む!」
炎の茨はハーニァを包み込むように、道をあけた。
アムナートの差し出した手を、ハーニァがとった瞬間
部屋中に炎の茨が生え
特にアージットの周囲を囲みだした。
[ア"ア"ぁ"ア"]
髪のうねりがいたる所でせき止められ、燃えだし
ストールは柱の上からアージットの元へ、急ぐ頭だったモノをやっと見つけた。
ソレは大きなサメのような牙を生やし、髪は昆虫の脚のように変化して、既に自立歩行をしていた。
大量のよだれを零しながら、迫り来るソレにアージットは勿論
誰もが、生理的嫌悪に襲われた。
「ストール、頼む!」
「お任せを!」
誘い込んだソレが、アージットの剣に切られはじかれた所へ、タイミング良くストールの槍形態となった炎が貫いた。
[イ"ァア"ァ"ァア!な"ン"・・で・・・・ェ"・・・・?・・・・]




