迷宮主
壁の一部が鏡のようになって、それからテレビのようにアージット様達を映し出した。
アリアドネさんの誤解を、上手く解く説明を出来るのか自信がなくて、あわあわしていたら何かおかしい?と、気付いた彼女が私の記憶を見てもいいかと聞いてくれて・・・・今私の額と彼女の額は一本の糸が生え繋がっている。
あっさり許可を出した私に、ちょっと呆れられたけどね。
読めるのは今世だけで、前世のことは思い出したことしか読めないからってことも、あっさりのわけだったりする。
流石に前世、手芸を知らなかった頃の、精神的鬱&(両親にとっての)良い子ちゃん時代は見られたくない。
黒歴史だ。
『ふむふむ、なるほど・・・・』
眉間の皺が深くなった彼女に、首を傾げる。
『アリアドネさん?』
『アリアでいいわよ』
そう言いながら、彼女、アリアさんは指を振った。
アージット様達の進んでいた通路が、いきなり壁が生えてきて塞がってしまった。
『一応、一本道にしたわ』
驚いた私に苦笑して言い、更に指を振る。
『ただ、一度決めた大きさと、疑似ボスは消せないのよねぇ』
番組が変わるように、アージット様達を映し出していた画面が、一人の女性を映し出した。
『ここの瘴気の元ね、あの子から散らした僅かな呪い』
黒い・・・・と、言うか、ドス黒い
腐って悪くなったような、気持ち悪い色
形は女性だったけど、よく見たら肌も何もかも同じ色だった。
ホラー映画だ。
ゆらゆらと、揺れながら立っていたソレ、が、急に首を回転させて視線を合わせた。
目の部分は空洞だった。
「ひぁっ?」
ゾワゾワゾワッとして、思わず悲鳴を上げた。
『生き霊だったのね・・・・通りで知能高めだわ』
『や、こわぃ、無理っ』
『あら?ホラー苦手?』
そんなことはないはずだったのに、震えが止まらない。
・・・・・・・・?
『違う?』
怖いのでは、ない?
『気持ち、悪い?・・・・台所の、害虫、いっぱい、こっちに、意識、向けられた、感覚』
『あ、あぁ、なるほどね』
ちなみに、名前を耳にするのも無理・・・・な、前世の友人のために、私も名称を口にすることはない。
一匹なら普通に退治(対峙?)出来るが、団体は無理っ!
一匹だって、飛んで向かって来られたら悲鳴を上げる存在に、団体で来られたような恐怖だ。
『転生して、なにが一番良かったかって、この世界にはあの台所の黒い悪魔が存在しないってことね』
アリアさんも妙に真顔になって呟いた。
あ、存在しないんだ?
台所は管轄外だったから、知らなかった。
何だかほっとした。
『それは、嬉しい』
そっと頭を撫でられる。
『アレが倒されないと、ここへの扉は開かないから・・・・・・・・ほとんど関係無いあなたに、呪い散らしを押し付けたんだもの、残骸処理くらいやって貰っていいと思うわ』
んん?
『魔物、元、精霊布さんの?』
ニッコリ笑顔が返ってきた。
『あの子は私とサクラの、超大作だったのよ?我が子みたいなものよ?そもそもこの国は、精霊達が安全かつ幸せで居れるように作ったのよ?人間なんてオマケなのよ?』
目は、笑ってなかった。
いえ、私が治療?を、言い出したのですが・・・・
はい、それ以前の問題?
・・・・害虫を近寄らせた時点で、許せないのですね?
『可愛いは正義なのよ?あの可愛い精霊達を見れて、害することが出来るような人間、そんな人間を育てるような国、気にせず滅ぼせば良かったのに。いつ、優 先 順 位 が、変わったのかしら?』
わーい、かっげきぃ
アリアさんは女神のように綺麗だけど、女神は女神でも、鬼子母神系・・・・だったみたい。
そうこうしているうちに、疑似ボスの間にアージット様達は到達した。
アージット様の口が、人の名を呼んだ。
疑似ボスの雰囲気が変わる。
唇は笑みに歪み、嬉しそうな感じになったが・・・・
それは、更に不気味さを増すものだった。
あぅあぅ、落ち着かないよう、縫い物したいよう。
『ヤンデレは趣味じゃ無いのよねぇ、せいぜいなぶり殺しにして、本体に悪夢を見せてほしいわあ』
頬杖ついてアリアさんは言う。
あ、繋がっているんだ?元王妃に。
私は・・・・周りに溢れている金の糸と、上半身女性形態なのに身を隠しているのは髪だけの、アリアさんに、場違いな欲求が膨れ上がった。
金糸は高濃度な力の固まりだ。
魔力?
アリアさんの力であることは確か
『あの、これらで、アリアさんの服、作って、いい?』
私の不意の申し出に、アリアさんの妖艶な雰囲気が引っ込んだ。
目を丸くして、優しい笑顔になってくれた。
『職人ねぇ』
柔らかく頭を撫でられる。
『初めてまともに話した異世界転生者が、あなたで良かったわ』
うん
私も、アリアさんと会えて良かった。




