世界
『とにかく、魔物は基本浄化システムの一部なの。そこへうっかり転生したのが、この私』
『うっかり・・・・』
『地球と道が繋がっているから、たまに転生してしまうのよ・・・・地球の転生システムがどうなっているのか、知らないけど。そこから外れたせいか、記憶を持ったまま、地球人がね。魔物に生まれ代わっちゃうのは本当、珍しいらしいわ・・・・魔物は意識を持たない、世界を滅ぼす本能しかない生き物だから』
アリアドネさんの表情が曇る。
『魔物の繁殖はほとんどが、単体繁殖。分身を生み出すようなものよ。うっかり転生した時から、私は私になれたけど・・・・私から生まれた魔物は全部私。悠久となるかもしれない時間は恐ろしかったから、サクラが死んでからは、ほとんどの意識を眠らせて』
胸元に手を置いて、曇り顔が柔らかな微笑みに変化した。
『今、私はここにいるのよ』
私は背筋を震わせた。女神のように見えてしまう訳が、少し分かった。
彼女は、ずっとずーっと長い時を生きてきたのだ。
『当主契約をすると、私の意識との繋がりが強くなってレベルが上がるのだけど、前回と前々回から私の親の意識の方が強くなってたりして、魂から魔物堕ちして消滅かと不安になってたから嬉しかったわ』
あなたが呼んでくれて
そう呟いて私の頬を撫でる彼女の手は、滑らかだった。
私は首を傾げた。
あれ?目覚めたんだよね?
『何故、短い、間?』
『だって、あなたのこの子・・・・もう意識が生まれているのだもの!』
彼女の蜘蛛の足が、軽やかなステップを踏む。
周囲の空気から、キラキラと輝く粒が振りまかれ、更には小花までパラパラと零れ落ちた。
『わ、わ』
凄い!
どうなっているの?
と、言うか・・・・
『意識が、生まれ、て?』
『そうよ!やっとやっと、魔物の生から解放されるの!』
満面の笑みで、彼女は歌うように言った。
『やっと、死ねるの!』
死
私はなんと反応したらいいか分からなかった。
転生
私達は、死を経験している。
熱くて
苦しい
痛い?
・・・・・・・・寒い
事故死なのに、痛みの記憶は薄い。たぶん、即死に近かったから。
一番リアルなのが、体から体温が抜けていくという感覚
『そうね、あなたは食べること好き?』
『え?えっと・・・・友達が、作って、くれたご飯は、好き、でした。』
前世の母親、専業主婦だったけど・・・・なんか、普通よりいまいち?私の口に合わないだけ、だったかもしれないけど。
『今、引き取って、もらえ、た所の、料理長さんの、ご飯、も、好きです』
『私も、食べること大好きだったの!でもね、迷宮蜘蛛の主食って、精霊や女性だったの』
ゾワッと背筋が震えた。
『生まれて、初めて親から浴びせられたのが、冒険者の腕から吹き出した血だったわ』
『ひっ』
『竜脈から生まれる精霊を捕食する親、姉妹が、怖かった。何より血を美味しいと感じてしまった自分が、あんな可愛い精霊達を、美味しいのかもしれないと・・・・捕食するかもしれないことが、怖かった』
前世の記憶があればこそ、辛かっただろう。
私も、前世の家族が優しく、利己的でない厳しさを持ち合わせていたら・・・・この今世を、耐えられたか分からない。
『魔物の生を終わらせようと、竜脈水路に飛び込んだら、うっかり神様っぽいのとアクセスして超進化して、悠久の時を生きることになっちゃたのよ』
『神様?』
そしてまた、うっかり?
『通常は、大気と言うか世界に溶け込んでいる、地球人に宿った世界そのものね・・元の地球人の性格を写しとって、私が初めて会った時は4人ほどいたかしら・・・・・・・・迷宮のどんな魔物より強くなれたのは良かったけど』
彼女の目が遠くを眺めた。
『そうね、迷宮に生贄として流されてきた赤ちゃんを拾わなかったら、絶望していたわね・・・・魔物の舌って、普通のご飯の味に鈍かったのよ!』




