治療法の予想
凄いことになった。
一つは、ヌィール家当主に勝負を飛ばして指名された。
「まぁ、ユイ様の実力をこれ以上ないほどに、御披露目しましたしね★」
アムナート王の宣言に「え?」となった私に、ミマチさんは囁いてウインクした。
「あのユイ様のお力を見て王に意見するような輩は、ただの恥知らずの阿呆ですね」
冷えた声が、壇上へと向かって来る太った男に向けられていた。ストールさん、さっきからちょっとピリピリしてる?
「王よ!お待ち下さい!」
警備兵に止められた男が声を張り上げる。
久しぶりに見たけど、記憶より一段と太って醜いな・・・・怒りのせいか顔色はどす黒く赤い、顔中の吹き出物も大きくなっていて、今にもはじけそうで気持ち悪い。
「ヌィール家当主は私です!何故そのような小娘に!」
アムナート王は穏やかそうな表情に、微かな不快感を浮かべた。
「ん?当主ならば、分かっているだろう?ヌィール家当主は、加護縫いの腕が最も高い者がなるのだと」
「しかしながら!どこの者とも知れない、一族以外の者にヌィール家を名乗らせるなど!」
引きつって裏返った耳障りな声が響く。
あれ?
もしかして、私が『ユイ』だと気付いていない?
首を傾げた私を、アージット様が抱き上げる。
「我が針子の乙女に、何か文句でもあるのか?」
おおー片腕に座るような形で、抱えられましたよ。
一応の今世の父親は、呼吸を詰まらせて顔色を赤くした。
今の私、前王の婚約者だもんね・・・・それに
「この容姿が、王族縁の者なのは明らかであろう?」
あれ?私が『ユイ』だと教える気がない?
まぁ、私がユイだと分かったら、捨てたくせに娘扱いして面倒なことになりそうですものね。
「それとも当主らしく、彼女のした加護縫い以上のドレスでも作って見せるか?ベースのよく似たドレスをお前の娘が着ていることだしな」
わ~、強烈な皮肉ですなぁ~
「わ、私は、今宵、蜘蛛を連れていないので」
汗をかいて目を泳がせた父親・・・・そういえば名前も知らなかった・・・・が、声を震わせて言った。
それにアムナート王も、冷ややかな声を響かせる。
細身なスピードタイプのアージット様より、がっしりパワータイプのアムナート王は通常が穏やかそうな分、怒ると圧力を感じさせますよね・・・・
「お前の娘が着ているハーニァのドレスは、すぐにフルク家に返すがいい・・・・そのうえで、彼女の加護縫い以上のドレスを、後日用意して見せよ」
それ以外にお前に発言権はないと言い捨て、手を一振りすれば警備兵さん達がささっとあの人を取り囲み、何かを叫ぼうとしたのを気絶させて連れて行った。
もう一カ所、妹も警備兵さん達に・・ついでに一緒にいた男の人も、警備兵さん達の上司っぽい人に連行されて行った。
技術貴族は、その技術が高いだけ尊重されるが
その技術の質を落としてしまえば、貴族として扱われなくなるという見本のような光景だった。
凄いこと、の、もう一つが、
加護縫いだ。
なんだか誰も気付いていないみたいだけど、王様の服は、さっき私が加護縫いで作った物だ。
完成して玉止めして糸を切ってしまえば、ほとんどの攻撃は通らない。
マントだって、そのはずなのだ。
別の完成させた加護縫いと、融合するなんて、想像もしなかった。
これは高レベルの精霊二人が、受け入れ合って起きた現象で
凄く珍しい、自然現象的な精霊誕生でない、精霊達が精霊達で力を混ぜ合わせて子供を作りだす現象と、同じ・・・・なのだ。
つまり、そこからは新しい精霊が産まれる。
精霊具・・に、なっちゃうのではないだろうか?
ただ、たぶん糸のレベルが低いので、時間はかかりそうだと感じた。
うん
足りない何かが、分かった。
私だけじゃなかった。
蜘蛛のレベルがまだまだ低かったのだ!
そういえば加護縫い、蜘蛛の糸で始めたの、ロダン様に引き取られてからだったよ!
聖精霊様の治療も、蜘蛛のレベルを上げて、彼女を生み出した精霊を集めて力を分けて貰わなければいけない。
聖獣化した初代の蜘蛛と同じレベル・・・・
えっと、国丸ごと結界で守るようなタペストリーの、精霊具誕生に関わった高レベルの精霊さん達5体?~8体?
気が遠くなった。
アムナート王様がハーニァ様と一曲踊って、皆に夜会を楽しむように言って退場してから、夜会前に顔合わせした面々とほぼ同じ人達に、私の予想を言うと、
マントの精霊具化予想に沸き立ち・・・・・・・・
聖精霊様の治療法予想に、皆も気が遠くなったような表情になってしまった。




