表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
針子の乙女  作者: ゼロキ
28/77

ドレス

「ねぇ、あなた。何を考えている?」

会場入りしようとした通路近くで、修羅場に遭遇してしまった。

夜会会場は普通の建物じゃなくて、壁がほぼ無い。王座の用意された上段部分にだけ壁がある。

壁と言っても、別の建物の壁でもある。

王様は王座の背後の扉から、会場入りするようだ。

開け過ぎていて、不審者が隠れる場所もない。

それでも人目を避けてか、王座近くではないが離れ過ぎてもいない人の少ない通路側で、強張った声が、話を切り出していた。

女性二人に男性一人

目は、その声の女性に引き付けられた。

美人!金の髪に緑の目、うねるくせっ毛が肩や背中を覆い、真紅のドレスと互いを引き立てあっている。

金と言うより黄金と表現した方がいい髪も見事だが、怖いほどに整った顔は無表情に目の前の女子を映していた。笑顔になったら、凄く綺麗だろうな。

対する赤毛の女子は、ちょっと厚化粧でケバい。

それなりに可愛らしい顔立ちなのだろうけど、化粧がベースの良さを殺して美人系を目指して失敗しているのだ。あと表情がなんだか醜い。

そして二人のドレスは、同じ色にほとんど同じデザインだった。

「何をって、何のことかしら?」

不穏な空気に足を止めた私達の元へ、声は響く。


「あ」

声、ちょっと耳障りな印象の、声・・・・

そして、あの髪色

今世の母親に似た系統の、顔立ち?と、言うか化粧のケバさ方向

「どうしました?ユイ様」

「あぁ、アレ、ヌィール家の娘ですよ~、似てないですねぇ」

ストールさんにミマチさんが、しみじみと言う。

「エ?」

ストールさんは私と妹を、交互に見直す。

「ユイ様、明らかに先祖返りですもんねぇ~」

此方は通路と言うか庭の歩道だ、会場に壁はないからどこからでも入れそうだが、入口はちゃんと決まっているらしい。何本もの大きな柱が、天井から下がる布をゆったりと纏って境界を示している。

あ、これも加護縫いされている。

たぶん昔のヌィール家の作品だろう。見事な作品だもの。あ~、結界的な効果がありそう。

「あっちの美人さんは、ハーニァ様ですね!フルク・ハーニァ様、染め付けの技術貴族」

「フルク家か!そういえば男女の違いはあっても、跡取りとそっくりだ」

よだれを垂らしそうなミマチさんの頭を掴み圧迫しつつ、ストールさんは朗らかな声を出した。

彼女のお兄さん?は、印象の良い人らしい。


「あなた、職人としてのプライドもないのか?」

「きゃっ、こわぁい。何のこと?私、貴族よ?職人だなんて、失礼な方」

連れらしい騎士?に、グラス片手にすがりついて言う妹に呆れた。

ヌィール家だって、技術貴族

貴族よりも一流の腕を持つ職人であると、誇らなければならない立場

それなのに、職人を下に見た発言に呆れた。

「んん、私の連れに言いがかりはやめてもらえないかね?お嬢さん」

ハーニァさんの美貌に見とれていた妹の連れの騎士が、無駄にカッコつけて話に入ろうとする。

あ、顔立ちはそれなりなのに、残念な人っぽい。

ハーニァさんは彼を歯牙にもかけない。

それに彼はムッとしたようだ。なんだろう?自分は尊重されて当然みたいな、傲慢さが顔に出ている。整っているはずの顔立ちが、それなりか惨めにしか見えないのは、そのせいだろう。

妹とはお似合いだが。

ロダン様はもういいのか?妹よ

ロダン様の代わりにしても、しょぼいぞ?

まぁ、ストールさんがいるから、どう足掻いても相手にされないだろうけど。



「そのドレスは、家が加護縫い依頼を出した物の筈」





・・・・・・・・オイ、着服かよ妹



呆れと恥と怒りで目眩がする。

妹は・・・・五年で本当にあの両親側の人間に、なったのだ。

微かに残っていた妹への情が、プツンと切れた。

妹がなんと言おうと、ハーニァさんの言葉の方が正しい。取り繕っているけど、ドレスのサイズがハーニァさんのものだ。

「そのドレスは、家の者達が今日この日の私のために、用意してくれた色。今からでも別のドレスに着替えてくれ」

「何様のつもり?私はヌィール家の跡取りなのよ!今後あんたの家からの服に、加護縫いしないわよ!着替えるなら、そっちが着替えれば!」

妹は持っていたグラスの中味を、彼女にぶちまけた。

「なっ!」

「フンッ、下級貴族がこんなドレスを着るなんて、身の程知らずなことをするからよ」


「入口、早く、行きましょう」

「ユイ様!彼女に加護縫いされるつもりですか?」

咎めるようにストールさんに言われ、首を傾げる。

「ダメ?」

中味がかかったのは、ドレスの裾だ。

乾かすのは、精霊さんに魔力をあげてやってもらい、染みがついていたら加護縫い刺繍しようと考えた。

何より、時間がなかったのだろう。妹のドレスの方が、丁寧な造りなのだ。

まさか腐ってもヌィール家が、依頼されていたドレスを自分の物として着てくるなど、想像もしてなかっただろう。

本来のドレスの持ち主が、盗人より型落ちの物を着て、更に汚されるなんて・・・・絶対に許せない!

「あの色、を、引き立てる刺繍を、したい、です!」

「アージット様と王の衣装で、ユイ様は加護縫い手として御披露目される予定なんですよ?」

でも

「でも、許せない、です」

じわりと涙が浮かんだ。

「ストールちゃん、彼女なら加護縫いしても大丈夫。」

「ミマチ?」


「彼女、次期王妃」


こそっと囁かれ、次の瞬間私はストールさんの腕に腰掛けるように、抱き上げられていた。

「ミマチ、伝達は任せたぞ」

「了解」

そして私は、美しい伝説の女鎧騎士に運ばれ、注目を浴びながら会場入りした。

ミマチさん、情報通?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 次期王妃候補や王太子の婚約者候補ではなく、次期王妃という事は、既に次期国王の王太子と婚約済みという事になるよな、または内々に確定済み。 王太子と婚約済みの次期王妃が注文したドレスを横領すると…
[気になる点] ハーニャさんの話し方が男っぽくて、書いてある容姿と結びつかず、混乱しました。 誰がどの言葉を発したのか、もう少ししっかりと書いてあると読みやすいです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ