会見終了
私を次期ヌィール家当主にするということは、すぐに決まった。
加護縫いが出来るなら、腕の良い方をとるのは当然だろう。
ついでに聖精霊様の治療が出来そうなのも、ポイント高かった。むしろ、加護縫いよりも欲しい人材なのかも。
だが、現当主を一応納得させるため、一度勝負することも決まった。
突然当主を降ろされても、すぐ納得するような人じゃないからね。
「まともな人がいて、嬉しいよ。近いうちにヌィール家は取り潰しの予定だったから」
私に前世の記憶が無く、あの環境だったら、私も『まともな人』の評価は受けなかったかもしれない。あの妹だって、十歳まではまともだったのだから。
多少勉強嫌いではあったが、子供ならば普通の範囲だったし。
精霊さん・・・・聖精霊、国布守様等と呼ばれている精霊さんは、鎧精霊さんと同じ存在らしい。
玉座の後ろの壁一面を覆い尽くすタペストリーが、彼女だ。
さて治療はそれから何回もやってみようとしたのだけど、改めて魔力を伸ばすと火傷?のような『呪い』が、魔力を伝って伸びてきたのだ。
慌てて止めたし、止められた。
「この『呪い』は、生きているからな~、あの人の父への執念の塊みたいなものだ」
ん?
この精霊さんを嫉妬から害したのが、前王妃
「前王妃、まだ、前王様の、こと、好き?」
「あぁ、離縁の時も大変だったな」
「本来ならば聖国布精霊を害したのだから、死罪なのだが、アレは正式な呪術ではなく・・魂を対価にしていてな、国内で死なれると呪いが強くなる可能性が高いのだ」
ん?ん?
精霊にさえ嫉妬する前王妃
新たに婚約者となった私・・・・・・・・
呪い対象、私も入ることになるのでは?
アージット様を見ると、アージット様も「あ」と今気がついたみたいな顔になっていた。
・・・・あー、でもどんなことだって、リスクはあるだろうし、国外追放になっているならば、会うこともないだろうし
「すまない、アレの危険があったな・・・・」
アージット様の顔色は悪くなっていた。
私は思わずフルフルと頭を振って、彼を見上げた。
「ストールさん、ミマチさん、守って、くれます。私も、針子の腕、もっと、上げます。だいじょうぶ」
数日だけど、ストールさんとミマチさんの何度かの攻防は、とても凄かった。
・・・・攻防内容はともかく。
ミマチさん・・まともな時には、ちゃんとしているし凄いメイドさんなんだろうけど、まともじゃない時の方が人間離れしていて印象が強く、優秀さが薄れて見えてしまうんだ・・・・
でも、だからこそいざという時は、大丈夫な気がするのだ。
あの変態性を常備していても、王族に仕えるメイドと成れているのだから。
「そうか、ありがとうユイ」
アージット様はとても優しい表情で、苦笑をこぼした。
前世でテレビドラマなどで見て憧れた、優しいお父さんみたいな表情だった。
ロダン様も時々そんな顔になるけど、若いからかお兄さんっぽいんだよね。
アージット様は実際子供がいるからか、眼差しが深い気がする。
何だか嬉しくて、胸の奥が暖かくなった。
ほのぼのしている私達を余所に、会見に同席していた人達は慌ただしく、数人はアムナート様に何か言われて席を外した。
「先ずは出来るかぎり早く、彼女をヌィール家の当主にしましょう。当主は初代の蜘蛛契約でいくつか、加護縫いの底上げなどの特典が得られたはずですし」
アムナート様の言葉に、私は目をむいたと思う。
「今の、当主、特典得て、アレ?」
本当に呆れた。
「ああ、まあ、それは置いておいて。特典を得てから改めて、聖国布精霊様の治療を頼みたい。今日は夜会を楽しんでくれ、義母上」
おお、ちょっと楽しそうに笑って、現王アムナート様に呼ばれてしまったよ。
あ、そっか、私が当主に成れば、私こそが特典で底上げされるんだ・・・・呪いに勝てるかもしれないし、何か足りないの『何か』が、解るかもしれない。
実はアムナート様も、王妃を決めて今日公表予定だったんだって。
もちろん花嫁のドレスは加護縫いだ。
ヌィールの現当主製作のドレスなど、着せたくなくて、王妃様を今日まで公表出来なかったらしい。
もちろん、王妃様のドレス製作の依頼を受けたよ!
ウワーイ!花嫁のドレス製作!
頑張るよ!
どうせだから、アムナート様の夜会用に一着製作して、私はストールさんとミマチさんと一緒に夜会へ参加、ロダン様と合流することになった。
今日は朝から一緒だったアージット様と一旦別れ、アムナート様の王妃公表と一緒に公表されるまでは夜会で御飯だ。
そして私は、今世の父親との再会対面よりも先に、妹と再会することになった。




