会見
濃い蒼をベースに、銀糸で刺繍を刺していく。
アクセントに小粒だが、品の良い色の宝石を
軍服と燕尾服をミックスさせたような、アージッド様の服
そして隣りには、同じ蒼ベースのシンプルなワンピース
特徴的なのは、前がミニで後ろはロング、布たっぷり
これの下にもう一着、レースのスカートを履くから、生足は見えそうで丸見えにはならない。
なんと言うか、私が細小さ過ぎてちょっと色っぽい路線のドレスじゃないと、幼女よりに見えてしまうのだ。
見かけは少し童顔だが、ちゃんと15歳ほどに見せるなら。
胸はホンワリしかないので、色っぽさを出すなら脚で表現するしかない。
ただ後ろ姿からの脚はバランス良い太腿ラインが無いので、しっかり隠す。ムッチリさとは縁遠いからね。
アージッド様との釣り合いが、少しでもとれるように頑張ってみた。
「素晴らしいです!ユイ様っ」
やっぱりストールさん、素は可愛らしい人だ。ドレスの製作に入ると、雰囲気を輝かせた。
「ストールさん、の、お嫁さん、ドレス、わたし、作らせ、て、くださ、いね?」
予約をしておく。
「あ、そんなっ!ユイ様のお手をかけるようなことなど!母の形見が、ありますので!」
・・そ、そう言えば、そういう可能性は高かったか・・・・ストールさん、一等級の貴族の人ですもんね・・
ストールさん美人だし、胸大きいから、自分のドレスじゃ出来ないデザイン・・・・作りたかった・・
「でもストールちゃん、おっぱいおっきいから、お母さんの形見は無理じゃね?お母さん、メネス家の人じゃなかったやん?」
ミマチさんが自分の胸の前で、両手を上下させた。
ストールさんサイズな胸の形と、普通・・B寄りのCくらいに。
「あ、」
ストールさんは自分の胸に手を当てて、言葉を無くした。
もしかして、お母さんの形見のドレス着てお嫁さんになるのが夢だったのかもしれない。
鎧で顔が見えなくても、ショックが伝わる。
私はしょぼん状態から一転、目をキラキラさせたと思う。
「リメイク、できたら、する!」
「え」
実物を見て、判断だけれども・・今の私の腕なら、そう難しくないと思う。
駄目だったら、新たに製作してもいいよね?
「ストールちゃんが結婚したら、ユイ様の護衛筆頭はウフフフフ、お風呂も一緒寝室も一緒♪」
「オイ、私が貴様を野放しにして花嫁になると思うのか?」
「あぅっ!ストールちゃん、頭潰れるぅっ!鎧パワーアップしてるんだからぁっ!加減してぇっ」
まあそんな会話をしつつ、夜会用の服はちゃんと仕上げた。
蒼スミレのようなドレスに、当日メイド姉様方が張り切って整えてくれた化粧の効果もあって、私の外装は『年齢不詳』の、人外じみた生き物となっていた。
「これは世辞抜きに、精霊のような美しさだな」
「ちょっと、前まで、ガリガリ、ボロボロ、だった」
腕を伸ばし、ふわりと一回転
ドレスの裾が綺麗に広がった。
「だか、ら、自分でも、自分の、自覚、薄いです」
その分、客観的に服を製作出来るけどね。
同じく着替えたアージッド様に、手を差し伸べられ
私は作法通り一礼してから、その大きな手のひらに自分の華奢な手を重ねた。
夜会が始まる前に、私はアージッド様にエスコートされて、現王アムナート様の前に立った。
一個安心したのは、アムナート様が、現ヌィール家当主の服を着ていなかったこと。
なんでも数代前の王と似た体型なので、それを着ているとのこと。
ちょっとのサイズ違いはあるけど、アージッド様が着せられてた服ほど酷くない。
いや、アレと比べてはいけないだろう、あらゆる意味で失礼だし、服というものに対して不敬だ。
アムナート様はがっしりしてアージッド様よりも大きい、雰囲気はホンワリと暖かくて、例えるなら草食のライオン?って、感じだった。
会見の間には、席が3つあった。
王様の席と間に1つ挟んで王妃様の席。
真ん中には凄く綺麗な、成人女性サイズの精霊さん
長い髪は黒曜石のよう、でも角度によっては蒼く煌めいたり、赤く輝いたりする。
目は、緑だけれどもこれも角度によって、深まったり薄くなったり。
ドレスはこれまた、ベースは純白っぽいが角度によって銀や金に見える。
そして裾の方にいくにつれ、若葉色に変わっている。
所々に果実のような色とりどりの宝石、生花のような花飾りが美しい。
「ほわぁ」
思わず見とれていると、精霊さんはホンワリ微笑んでくれた。
空に広がる虹を見れたような、不思議な感動が胸を暖めた。
・・・・・・・・ただその右手が、腐ったような色に焼けただれていた。
あああああ、痛そう、可哀想!
服部分でないし、指先は辛うじて形を残したような状態で、剥き出しだ。
あ、そっか、精霊さんだから人のような手当てが出来ないんだ。
辛うじて挨拶はしたのだけど、私の目は精霊さんに釘付けだった。
ほとんど無意識に、アージット様の服の袖を引く。
「ユイ」
私の目線は把握していたのだろう。
アージット様の声は、優しい。
「アージット様、手袋編んで、あげちゃ、だめ、ですか?」
「精霊だからな、魔力だけで作れるか?」
私は魔力の糸を伸ばした。鍛えたレース編みで、右手を包む。
「っ!」
その場にいた人達が、息を呑んだ。
「ぁ」
一度はレース編みの手袋に包まれた手は、指先から焼け落ちた。
やっぱり、縫い付けないと定着しないのだろうか?
いや、レベル不足のような気がする。
精霊さん自体は、手袋を受け入れてくれたのだが、火傷?の方の拒絶に負けた。
「っ!少しだが、癒えている!」
王様が叫んで、魔法使いっぽいローブを羽織った青年も、震えて口元を押さえる。
「これまでどんなに魔力を捧げても、定着する前に、呪い負けしていたのに」
声は震え涙声だった。
「流石だ、ユイ」
私の手を取って、額を当てたアージット様の目も、潤んでいた。




