夜会
「ロダン!ロダン!」
面倒くさい相手に、いきなり会ってしまった・・と、ロダンはため息をついた。
四季の区切りに行われる王家主催の夜会
大抵の有力貴族は顔を出している。だから、覚悟はしていた。
見た目だけは爽やかな美貌の彼に、何も知らない令嬢達は見惚れているが、耳慣れている令嬢達は興味も示さない。
学生時代、やたら絡んできた相手だ。
今では同じ二等級貴族で、軍の武官顧問ロミアーシャ家の一人息子
ロミアーシャ・ノンア
暑苦しい、脳筋と評したのは一等級貴族で、軍の魔術顧問に現在なっているミシュートゥ・トルアミアだった。
だいたい12歳から16歳くらいまでの子供が、ほぼ顔合わせや縁繋ぎが目的で通わされる学園
ロダンがそこで親しくなったのが、メネス・ストールとミシュートゥ・トルアミア、そして現王アムナート様だった。当時、学園内でもっとも等級が高いと見られていた三人・・・・四人目が、ロミアーシャ・ノンアだ。
端から見れば、五人はセットに見られただろう。
ロダンは普通なら嫉妬される立場だったが、無駄に整った外見が役に立って、ほとんどの者達は絡んできたりしなかった。
嫉妬してきたのは、ノンアだ。
軍の総顧問メネス家の一人娘、ストール
すでに次期魔術顧問と打診を受けていた、トルアミア
年下だが穏やかで大らかな・・だが侮れないものがあるアムナート様・・・・最年少で、当時は十歳
三人ともっとも親しくあるべきなのは、自分だろう!と
まあ、ストールには武で負けて、鎧を馬鹿にしたり女ということを馬鹿にしたりと、喧嘩を売ってたが、一般的には好敵手面を押し付け・・・・
トルアミアには、存在から無視されて嫌われていたのに、空気を読まず友人面を押し付けるし
アムナート様には、ストールとトルアミアが壁となってろくに近づけなかったため、余計に親しくしていたロダンを目の敵にしていた。
実はウルデとスクルも、ロダンとよく一緒に行動し三人と仲良くしていたのだが、二人はすでに身に付けつつあった一流執事スキルで、空気となって目立つことはなかった。
「やあ!久しぶりだな!」
ちょっと見たこともないほど見事な、真紅のドレスを着た女性を腕にぶら下げ、にこやかに歩みよってくる。何かロダンを馬鹿に出来ることを、握ってきたのだろう。
「久しいですね」
ため息を飲み込んで、ロダンは微笑み返した。
「聞いたぞ、ヌィール家の出来損ないを引き取ったそうだな!」
つい、眉間に皺を寄せてしまう。さその反応に、触れられたくないことだったかと、ノンアは笑みを深めた。
「わざわざ金を出して、買い取ったのだろう?連れてこなかったのか?」
「まぁ、あの子は使用人になったのでしょう?このような場所に、連れてこられるはず有りませんわ、ねぇ、ロダン様」
腕の女性が、媚びるような声で話しかけてくる。その話し方にロダンは目を細めた。
あの子?
ヌィール家でのユイを知っているのか?と、
「あなたは?」
「はじめまして、ヌィール・メイリアですの。あれの、見えないでしょうが妹ですわ」
「メイリア」
メイリアがロダンに媚びるのが、面白くないのだろう、ノンアからは笑みが消えていた。
「あら、ノンア様、お拗ねにならないで、家は本当に感謝してますもの!あんな役に立たない娘を、お金を出してまで引き取って頂けるなんて!」
「お二人は、誤解されているようですね?私は支度金を出した覚えはありますが、お金で彼女を買ったつもりはありません」
ノンアは鼻を鳴らした。
「支度金なぁ?ヌィール家に産まれて、加護縫いの出来ない無駄飯食らいを、わざわざか?」
ろくに食べさせてもらえても、いなかったようだがな・・と、初対面時の姿をロダンは思い出した。
「彼女の針子の才能が、欲しかったからな」
「加護縫いも出来ないのに?」
ロダンはそろそろ愛想笑いも品切れしそうだった。
どうやらノンアは、ヌィール家の評判の悪さを把握してないらしい。
空気が読めない。耳が遅いうえに、耳障りの良いものしか頭に残らない。自分を高めることよりも、周りのあらを探す方にしか努力をしない。
だから今も父親の補佐にも慣れず、一般騎士でしかないのだろう。
父親は尊敬に値する人物だ、このままなら家を継ぐのは血縁の者を養子とするだろう。
現在の彼の補佐官が思い浮かぶ。
現在のヌィール家に肩入れするなら、それがノンアの評価を確定することだろう。
「そうですね、ヌィール家当主にも加護縫いの出来る方の娘を薦められましたが・・・・どんなに加護縫いが出来ても、あの腕ではね」
クスっと嘲ると、のぼせるようにロダンを見ていたメイリアの顔が醜く歪んだ。
「な、なんて失礼な方なの!見損ないましたわ!父の言うように、所詮成り上がり者なのですわねっ!行きましょう、ノンア様!」
「お、おぉ」
メイリアの激怒に驚きながら、彼女の中でロダンの評価が最低になったことが嬉しいのか、ノンアは機嫌を良くして離れていった。
いつもよりずっと早く解放されて、ロダンもほっとした。
ノンアの連れている令嬢達は毎回ほとんど、評判の良くない娘達だ。喧嘩を売っても、社交にそれほど影響はないだろう。
次からも使える手段かもと、心に留めることにしたのだった。




