闘志
「ストール、ユイが困っているよ」
ロダン様が止めてくれ、ストールさんは頭を上げてくれた。
「それに契約の時にも誓いは立てただろう?」
「重みが違います!ユイ様が教えてくださったことは、我が一族の伝説を真実と証明してくださいました!雇用の誓いでは、足りません!」
「はいはーい、気持ちは分かるけど、ユイ様いまいち自分が凄いってこと、分かってないみたいだし、ちゃんと理解してから改めて誓いを受けてもらった方がよくない?」
「しかし」
「あ、それに、ユイ様アージット様と結婚すれば、王族だし・・・・そうしたら、王族に捧げてる一族の誓いも捧げられるでしょう?」
ミマチさんの言葉に、ストールさんは微かに体を震わせた。
全身鎧なのに、なんとなく『それもそうか』と納得したことが分かった。
え?いや、ちょっと待って?
私、着付けを教えただけだよ?
凄いのは、その鎧を作った人達だよね?
私は凄くない、凄いのは鎧作った人達!と、書いて見せたのだけど、皆ホンワリと優しく微笑んで『はいはい』で、スルーされてしまった。
「さて、予想外のことがあって遅れたがロダン、私は帰ってメネス家当主と・・・・息子にも、早いうちに話を通さねばならん」
「あぁ、ですね」
ロダン様は何やら遠い目になった。
「メネス家当主・・・・」
「ユイの体力も考えて、教えたとたんに押しかけるようなことはしないように、注意、する・・・・明日からは保証出来ないが、3日後の夜会・・ユイの腕なら、ドレスを作れるな?」
「そう、ですね。しかし、礼儀作法の方は・・・・?」
「ロダン様、礼儀作法でしたら、ユイ様に問題はございません。ただ、ダンスの方が・・・・」
「ダンスは今回は断る方向で、大丈夫だろう」
にゅ?ドレス!?
私の今の外装に、作れるってこと!?
「ユイ、アージッド様と揃いで、夜会用の加護縫い衣装を3日後までに作れるか?」
ロダン様は指を3本立て、飛びっきり素晴らしい物をと、付け加えた。
「色、の、きぼう、ありま、すか?」
回復しきってない声が、かすれた音をたてる。
「若草色は避けた方がいいな、現王様の色だ」
「ああ、私は青系等が好きだな。魔力色が青銀だからかな」
なるほど?
いくつかデザインを描き出してみる。
「ほう、いいな・・・・任せた。3日後に迎えにくるからな」
あ、夜会参加は決定事項ですか・・・・
まぁ、前王様と婚約だし、私の針子の腕は想像以上にヤバいものらしいし、社交デビューは仕方ないことだろう。
それに、御披露目はどちらかと言うと、私の加護縫いの腕
フルリと背筋が震えた。
あんな服とよぶのもおこがましい物を、平然と人に押し付けるような職人の屑・・・・存在するだけで、針子を侮辱しているもの。
あの父親が、あれほど酷い腕だったなんて・・・・あれで加護縫いのない全ての服を、馬鹿にしていたなんて、絶対に許せない。
私は屋敷を去る前王アージッド様の乗った馬車を、ストールさんに抱きかかえられた格好で手を降り見送って、
すぐに仕事に取りかかりたかったが、その日はデザインを煮詰めるだけしかさせてもらえなかった。




