鎧
鎧を脱いだストールさんは、クリーム色の人だった。
ふんわりと胸元まで零れ落ちた髪は、バタークリーム色
質が凄く良いのか、変なクセも残っていない。
目の色は青。肌の色が、バタークリームより若干薄いクリーム色なので、目の色がとても気を引きつけた。可愛いよりの美人。
図書委員とかにいる、おとなしそうな優しい真面目タイプ?
鎧を脱ぐまでは、キリッと凛々しいタイプだったから、ちょっとギャップが可愛い。
そして、スタイルはドーン・きゅっ・スラリ
鎧のせいか、私のスリーサイズ鑑定眼が働いてなかったので、改めて見る。
・・・・・・・・
眉間にしわが寄ったと思う。
この世界にも、ブラっぽい物はある。
しかし、どうも付け方がなってない。
胸を潰す人が多い。
鎧もそうしてたけど、動くのに苦しかっただろうに。
「胸、あて、ワンサイズ、上、ケホッ、」
メイド姉様達の目が、物騒な光を宿した。
「ユイ様、マジですか?」
コクっと頷いて、渡された紙に胸当てサイズを書く。
メイド長とほぼ同じだから、支給品在庫にあるだろう。
「え、待って下さい、私はこれでちょうど良いのですがっ!」
「駄目ですっ!いいですか、ストール様。私達もユイ様の指摘を受け、サイズを一つ二つ上げました。胸の肉は・・・・きちんと納めないと、逃げるのですっ!お腹や、背中に・・・・」
メイド姉様達は、悲しげに目を伏せた。
「わ、私も、ワンサイズ分?」
声を震わせ、ストールさんは胸に手を当てました。
私は「ん」と、頷きました。
「ユイ様は見ただけで、人のサイズが分かるのです。その人の、ちゃんとしたサイズがっ!」
「勿論、胸が邪魔だから押さえていると、言う者もおりましたが、ユイ様の指示通りにした方が楽になったり、動きやすくなったりしたのです」
「そ、そういえば皆様、前にお会いした時よりなんだか綺麗に・・・・」
「あ~、それはユイ様が精霊の守護を受けている恩恵の、おこぼれもありますね~」
今だけですと、ちょっと肩を落とすメイド姉様達に、私はピッと手を上げた。
「せ、い、れっ、コホッ」
「ユイ様、無理しないで、今筆記具を用意しますからっ!」
ささっと、手元に筆記具が用意された。
つい最近、確認したけど
この屋敷の人達皆様、全員精霊の守護持ちになっていたのだ。
ついでに、スクルさんの魔力で縫い付けが出来たのを知って、皆お気に入りの人の魔力をこよりのように細く糸状態にして、縫い付けをねだってきた。
魔力はほとんどの人が、自分の意思で体内から出せないらしい。
ただ薄いもやみたいなのを、纏うことがあるくらい。
精霊はその時を狙って、魔力を拝借してた。
とりあえず皆、精霊の守護持ちになっていることを書いて教える。
「まぁ」
「嘘、あ、でも、この所・・ユイ様と一緒でなくてもお茶の味が・・・・」
「そういえば・・・・」
「この情報もまずいですね、前王様がいらして良かった。皆さん言うまでもなく・・・・」
「はい、他言無用ですね」
「私は主と前王様に伝えてきます」
「ユイ様、ストール様の準備完了しました!」
うん。BGMにストールさんの悲鳴が流れてました。
自分でやるならともかく、人に着せてもらうと、ビックリしてしまうものね~
容赦なく腕突っ込まれ、背中から腹から、肉を寄せ集めてくるんだもの。
前世で中学生時の手芸部の先輩に、やられたこと思い出して遠い目になった。
前世の父親は妻を家政婦に見てたから、母親もあまりおしゃれしない人だったなぁ
あの人に教えられたことって、ほとんどなかった。
ブラの付け方も、肌のお手入れも、先輩や友達が教えてくれたもの。
女の身支度は、一種の戦仕度なのよって、先輩の言葉、忘れられないわ・・・・
さて、改めて筆記具を手に、鎧の身に付け方・注意点を簡単な図と共に書き示した。
ストールさんは戸惑いながらも、ある意味諦めたのか、私の説明通り鎧を身に付けた。
「あ、まさか、締めつけてもいないのに、ピッタリに・・・・?」
スッキリとしたシルエットに満足する。
が、変化はその後訪れた。
頭部の角のような部分が、グニャリと動いたのだ。
「え?」
それは頭部に添って変化し、花々を咲かせた。
「綺麗・・・・」
「凄いわ」
メイド姉様達も見惚れ、息を呑んだ。
ユリの花冠だ。
そして胸元から、緑の宝石が浮かび上がった。
左右の鎖骨上に添うように。
そして背中から、この場では私にしか見えない羽根が広げられた。
初めて見る・・・・鎧と同じ等身大の精霊だった。
鎧の胸元で眠っていたのだろう、フルフルと伸びをして、精霊は再び鎧と同化してその姿を隠した。
凄いものを見た。
鎧の、『鎧の精霊』だ。
この鎧が、生み出した精霊だ。
精霊の加護縫いの、究極は、きっとこれだ。
自然発生ではない、精霊の誕生生成




