ご飯を食べながら。
「まず、ユイにはヌイール家当主になってもらおう」
運ばれてきたスープを前に、口に含んでいたら吹き出してたなと言う感想が浮かんだ。
現実逃避だったのかもしれない。
私はかなり変な顔をしたのだろう。配膳をしていたメイド姉様が、私の顔を見て微かに停止して、心配そうな表情をこぼしてくれた。
「ヌイール家当主と蜘蛛との契約事項の中に、当主の資格についてある。一族の中で、最も優れた腕の持ち主を当主とすることとな。そういう意味では、ユイはもう当主ではあるな。現王アムナートに確認されれば、正式だ」
優雅に食事を進めながら、アージット様は何でも無いことのように言う。
「あれの兄が当主の座についていればな・・・・あれの、祖父まではまともだったらしいのだが」
「父親と一緒になって、兄を殺害したという噂が出るくらいですからね」
自分の腕を磨こうともしないで、文句だけは一流・・・・あの当主に兄がいたとは初耳だが、そんな性質だもの、努力より他者を害する方法を簡単に選ぶのは、目に見えてる。どうやら私の祖父からして、父親と同類だったらしい。自分と似た身内だけ、可愛いという性質だ。
「我が父のように、素早く保護して手元で育てていれば・・・・と、生涯悔やむことには、なりたくないからな」
会話の中身、物騒。
でもあまり危機感はない。ロダン様が優秀で、信頼出来る方だとは使用人を見れば分かるし。
「ユイ、食べながら聞きなさい」
ロダン様に促され、スプーンを手にとった。
スープを口に運ぶ。
いつものように、美味しい。
お腹が減ってたことに、今更ながら気付く。
が
顎が疲れていて、固形物を口に運ぶ気になれない。
パン、スープに浸しちゃ駄目かな?
うぅ、ちまっとちぎって口に入れ、スープで流し込む。
「私と婚約したのは、ユイの身を守るためであるし、宮中の争いに巻き込まないためでもある。前王は基本実質的な権力は持たないが、権力に害される事もないからな」
「現王アムナート様の妃となると、権力争いや寵愛争いもある。そもそも、妃に選ばれるまでが危険だ。あ、ただの針子でいたかっただろうが、こんな加護縫いが出来る一級針子の存在を知って、王族にあんな服を着させ続けるような恥知らずではないからな、私は」
ロダン様は、私の縫った御守りを手に言った。
あぁ~、それかぁ
加護縫いばれの原因。
「私の妃となっても、子に王位継承権はないからな。好きになった相手の子供を産んでもいい」
ほぇ?
意味が分からなくて、きょとんとした私にアージット様の手が伸びる。
頬を大きな手が撫でる。
「ちゃんと噛まないと体に悪いぞ?・・・・ひょっとして、顎が疲れて痛いのか」
おお、見抜かれた。
「普段はほとんど、片言か猫の鳴き声しか口にしないらしいですから」
「鳴き声・・・・」
な行って、顎にあまり負担がかからないんだよね~
あと、鳴き声、けっこう思いつかない言語の代わりに、意志が通じるだもん。
この容姿なら、違和感ないしね。




