気になるデート
作戦会議翌日、街の駅前通りでジーパンにシャツといったラフな格好で銀次は待ち合わせ場所の噴水前に立っていた。流石に制服で街に出てしまっては不味いと急ぎで帰って着替えてきた次第である。
そして、その後方50mほどの街路樹に隠れている影が一つ。丸メガネ型のサングラスに大き目のキャップ、ダボダボのシャツをスカートのように垂らし、下はチラチラと覗くショートパンツで細い足を大胆に露出している。足元はゴツメのシューズでせめてもの男子っぽさを演出していた。
ややボーイッシュではあるが、紛れもなく女子の恰好をしているソラだった。
普段は男装をしている為、いっそ女子の恰好をすればバレないという発想をスズから与えられ。未だ抵抗はあるものの、なんとか自分の気持ちを折り合いをつけた精一杯の女子らしい恰好だった。
……ちなみにではあるが、ソラ基準ではギリ女子という感覚ではあるが、スズが見れば「どこがギリ女子じゃ! 狙ってるやろ!」とツッコミをいれるほどには可愛い。そもそも、愛華の服装のコーデもしている為、センスは良いのだ。そんなソラが、サングラス越しに目を細めて銀次を見張っている。
「時間か……しっかし、スズの奴なんでまたこんな人通りが多い場所を待ち合わせ場所にしたんだ?」
無論、ソラの尾行がバレないようにである。
「やほー、銀次。私服そんなんなんだ。待った?」
学校帰りなのか制服姿のスズが銀次に走り寄る。
「少し前に来たとこだ。話できる場所行くか」
銀次がポケットに手を突っ込みながら踵を返した。
「あー、待ってよ。女子は歩くの遅いんだよ」
「そうか、悪いな」
ソラはその様子を幹よ砕けよと木を握りながら見ている。
「……デートだ」
私服銀次と制服デートしてる。何を話しているかわからないが、そんな風にしか見えずグルグル目で尾行を開始するソラだったが……。
「ちょっと、君ぃ」
「ふぇ、ふぇ!?」
唐突に話しかけられる。男性だった。高校生だと思う、おそらく年上だろう。清潔案のある見た目であり、どうして話かけらたのかわからずソラは硬直する。
「木に掴まってるけど、調子悪いの? なんか飲む?」
「え、あ、ダイジョブ、デス」
心配されたのか。それよりも今は銀次だ。
「いや、正直、可愛いなって思ってさ。話しかけたんだけど?」
「……」
あっ、コレ、ナンパだ、初めてされた。その思考を理解するまでにたっぷり三秒ほど費やす。
「ケッコウ、デス!」
そのまま走って逃走を図る。幸い男性は追いかけてこなかった。こんなボクをナンパするなんて変な趣味の人なのだろうか? とソラは思う。人込みの中ではあるが、持ち前の観察力ですぐに銀次とスズを発見し、尾行を再開する。
二人はどうやらファミレスに入ったようだ。ソラも入り、ギリギリ声が聞こえる銀次側の二つ後ろに座ることが出来た。
「おごりだ。常識の範囲内でなんでも食っていいぞ」
「じゃあ、ドリンクバーとサンドイッチで」
「俺は、ドリンクバーだけでいいや」
二人で飲み物を持ってくるが、外もそこそこ温かいのに銀次はホットコーヒーである。
「……お茶じゃないんだ」
「何でだ?」
「いや、ソラが銀次はお茶が好きっていってたから」
「……なまじ、ソラに旨い茶を飲まされているせいで、下手に外で飲むと違和感があるんだよ」
「胃袋掴まれてんじゃん」
「知らねぇよ」
二つ後ろの席ではソラはやり取りを聞いてホッペに手を当ててニマニマである。ちなみに、食べているのはミニ抹茶パフェだった。
ある意味ソラも銀次の影響を受けている。飲み物も用意でき、二人は仕切り直す。
「じゃあ、銀次は何が知りたいのさ」
「……ズバリ」
「ズバリ?」
そらも「ズバリ?」と耳を椅子に寄せる。
「スズはソラと付き合ってたりはしないのか?」
ズバン!! 銀次の背後で机に何かを打ち付ける音がする。
「おぉ、何だ!」
思わず振り返ろうとする銀次の胸倉をスズが掴む。
「『何だ』はこっちの台詞なんだけど!」
「いや、アイツに絵を描くように勧めたんだが、何か辛そうでな。四季との間に何かったのは想像がつくんだが……」
服を話して座り直す。
「言っとくけど、姫とのことはアタシも詳しくは知らないから。ちゅーか、なんでそれでアタシとソラがつき合う話になんのさ?」
実際は愛華とのことを昨日聞いたが、そのことについてスズから話すつもりは無かった。
「こういう時はヒロインの出番ってのが、物語のテンプレだからな」
「……いや、ヒロインって。付き合ってないけどさ」
「むぅ、いい感じだと思うんだがな」
スズ視点では銀次の背後から昨日見た負のオーラが再び登ってきていた。あれは不味いと話題を変えようと思考を巡らせる。
「つまり、銀次はソラの為に姫とソラのことを知りたいってわけ?」
「そのことについては、ソラから話すまで待つつもりだ。聞きたいのは中学時代のあいつの様子だ。あれだけ色んなことができる奴がどうして今は自分に自信がなくなったのか、背景から知りたいんだ」
「それもソラちに聞けばいいんじゃないの?」
「あれもこれも聞くのは、あいつの負担になるだろ。大事なことを向こうから話すまでは待ちたいが……最近ちと周りがキナ臭くてな。一応情報だけは集めたくてな」
「へぇ、銀次なりに考えてんじゃん。やっぱ、ソラのこと気になるんだ。銀次にとって、ソラってどんな存在なの?」
スズから見て銀次の背中から頭の天辺がピコピコ見える。ソラは気になって仕方なないようだ。
負のオーラが一旦収まったことに安堵しつつ、持ってきたオレンジジュースを飲む。
「どんな存在か……なんつうか、素直に尊敬の対象だな。あれだけ努力している奴は知らねぇし、細かいことも気を使える。つるむようになって、どれだけ頑張ってるかを知って、もっと応援したいと思った」
飾らない真っすぐな言葉。スズは人のことをここまで素直に褒めれる人を見たのは初めてだった。ちなみにソラは両手で上気する顔を隠して頭を振っていた。
「それに、可愛いとこもあってよ。なんつうかこういうとソラの奴、怒るかもしれないけどさ」
「うんうん、なんて言うの?」
「弟みたいに思ってるぜ」
照れながらそう言う銀次にスズはアングリと顎を落とした。
そして銀次の後ろでは。
「お、お客様、顔が真っ青ですが、大丈夫ですか!?」
と店員の心配する声が上がっていた。
「あん? なんかあったのか?」
「い、いや、それより話をしようよ。うん、全然盛り返せるむしろここからが本番だから」
気持ち大声でエールを送るスズなのだった。
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