商店街デート
中央駅から一つ進んだ駅が目的の場所だった。休日と言うこともあって、人の出入りが多く人ごみが苦手なソラが表情を強張らせているとすぐに銀次がその手を握って引き寄せる。
「俺が案内するから地面見て歩けるか?」
「りょ、了解っ!」
銀次に抱き着いて人込みを脱出。改札から出て土産物屋を通り過ぎると駅を出ると、バスターミナルと駅前のアーケード商店街が出迎えるように目の前に出てきた。
「おぉ、実はここ来るの初めてだよ」
「まぁ、中央の方が便利だしな。だけど、こっちも結構いい感じなんだぜ。案内するから弁天商店街に行こうぜ」
弁財天が描かれた看板が目立つアーケード商店街に入る。日差しが遮られ、風が吹いていて心地よく、それなり人はいるが歩くのには困らない程度の賑わいはソラにとっては丁度良かった。
「おぉ、古き良きアーケード……穴が開いている天井がよき、スケッチしたいかも」
「相変わらず、興味を持つところが独特で面白いな」
苦笑しながら、指で構図を取り始めたソラを眺める銀次。くるりとターンしてソラが銀次の方を向く。
指で作った四角の中からヘーゼルアイが覗いていた。
「映画館なら中央のショッピングモールの中にあるのに、ここを選んだのは何で?」
「あん? まぁ、街デートっていうならショッピングモールじゃあ味気ないと思ってな。前にソラに食器の店を紹介してもらっただろ。あんな感じがいいと思ってな。ごちゃごちゃしているが、人も中央駅の周りよりかは少ないし、のんびり回れそうだろ。今日行く映画館も古いけど雰囲気あっていい所なんだぜ」
ぴょんと飛び込むように、銀次の腕をとったソラと歩き始める。タイル張りの地面の感触が心地よい。
「へぇ、どんな場所か楽しみだよ。あっ、漬物屋さんっ! ね、見ていこうよ」
レトロな商店街にテンションが上がったソラがさっそく目についた店に突撃しようと銀次を引っ張る。
「漬物……いきなり想定と違うが。ぶっちゃけ俺も見たい。出発が予定より早かったし存分に寄り道して甘味処へ行くか」
横開きのドアを開けて店内に入って品物を物色。
「レンコンの甘酢漬け……珍しいかも、いい色だね」
「ごぼう漬物もあるぞ。醤油と味噌か、どっちも旨そうだな」
変わり種の漬物を見ていると、背後から店員である恰幅の良いおばちゃんが小皿を差し出してきた。
「いらっしゃい。味見どうぞ。味噌ゴボウ、酢レンコンね~」
「わわ、こ、こんにちわ」
人見知りが発動して、銀次の後ろに隠れるソラとは対照的に銀次は会釈をして小皿を受け取る。
「うっす。ありがとうございます……レンコン旨いっすね。ソラ、食べて見ろよ」
「う……うん。じゃあ、ゴボウの方を……」
帽子を目深にかぶって爪楊枝に刺してある味見用のゴボウを恐る恐る食べるソラだったが、すぐに目を輝かせた。
「美味しいっ! 外側と内側で食感が違うし、ちょっとピリ辛で土臭さも全然ない。どうやって漬けてるんだろ、レンコンも食べよ……ふぇ!?」
レンコンの味見をしようとした所、おばちゃんとバッチリ目が合ってビックリしてしまう。
「お嬢ちゃん、帽子してるから今気づいたけど、えらい可愛らしいねぇ。顔小っちゃいわ~。もしかしてテレビとか出てる人かい?」
「で、出てないです。まったく、これっぽっちも……全然」
「俺の彼女なんで、芸能人とかじゃないっすよ」
そういえば前にも海で芸能人と間違えられていたなぁとか思い出している銀次である。
「はえ~。キラッキラしてるもんで、びっくりしたよ。こんな子、本当にいるんだねぇ」
おばちゃんの反応に銀次もふかく頷く。
「まぁ、俺もビックリしてます。本当に可愛いっすよね。今日は美人って感じもしてますし。最高の彼女です」
「……」→真っ赤になりながら銀次の背中をポカポカ叩くソラ。
「あんたも今時の子にしては物怖じせずに彼女を褒めるなんていい男じゃないか。他の漬物も味が見たいのあれば出すよ」
「せっかくっすけど、これからデートで色々食べて回りたいんでこの辺で失礼します。ソラ、何か買うか?」
「うぅ……宅配とかできますか?」
「できるよ! 味見したからって無理して買わなくていいからね。おばちゃんは若い子見ると絡んじゃうんだから」
「いえ、美味しかったので。レンコンとごぼう、あと梅干しください」
「毎度在りっ!」
というわけで、ソラ宅宛てに宅配で注文をして店を出る。銀次が買おうとしたが、これはデートとは別とソラが猛反対して割り勘で購入することになった。外へ出ると、ソラは恨めしそうに銀次を睨みつける。
「うぅ、なんかすごい辱めを受けたような気がする」
「俺は事実を言ったまでだが?」
銀次はニヤニヤとイジワルな顔をして歩き出し、ソラはそれを追いかける。
「嘘、絶対ボクをからかってる」
「本心ではあるが、からかっているのも本当だな」
「もう、銀次のいじわる……」
「悪い悪い、ちょっと浮かれちまってな」
「後で『ぎゅー』をしてくれたら許します」
「仰せのままに。んじゃ、ぼちぼち行こうぜ」
「うん」
手をつなぎ直して再び歩き出す。古着屋、レコードショップ、レトロゲームの店などを見て、お目当ての甘味処へ到着する。店内は半分も埋まっておらず、余裕をもって二人は座ることができた。出されたお冷を飲んでソラは息を吐いて帽子を脱いだ。
「涼しい~。はぁ……この商店街見どころが多いよ」
「閉まっている店もあるが無駄に長いからなこの商店街。疲れたか?」
「疲れた。でも、これは疲労じゃなくて楽しかったからだよ。愛華ちゃんと一緒にいたころはこういう所に来るなんて想像しなかったんだ。だから、初めてばっかりで目が回りそう。銀次と一緒だと、いつもよりも世界が輝いて見える。これがデート……おそるべし」
「無理せず本当に目を回す前に言ってくれよ」
「大丈夫、心配しすぎだよ。ちょうどいい休憩タイムだもんね。注文決まった?」
「氷あんみつと緑茶だな」
「渋い……ボクも氷あんみつにするよトッピングは桃、飲み物はお抹茶にしよっと」
ソラはメニューを一目で記憶できるため、銀次が持っていたメニューを横に立てかけて店員を呼んで注文する。
「……あっはい。しばらくお待ちくださいっ!」
おそらくバイトであろう大学生ほどの女性の定員が、どこか上の空で注文を取りバタバタと奥に引っ込んでいく。
「どうしたんだろ?」
「さぁな?」
厨房ではめっちゃ可愛い子がいます! と注文を聞いた店員がはしゃいでいるとは気づかない二人なのだった。ほどなくして注文した品が届くと、急かされるように氷を口にいれる。
「うめー、生き返るぜ」
「あんみつと抹茶って合うよねー」
冷房の効いた店内で氷あんみつを食べながら、ほどよい温さのお茶を飲む。コタツアイスに通ずる現代の贅沢に舌鼓をうつ二人、途中で食べさせ合ったりしながら商店街で見てきたものを話し合ったりとのんびり過ごしていた。
「ボクばかり楽しんでいて、銀次は退屈じゃなかった?」
「普通に俺も楽しかったぞ。漬物屋もだけど俺達割と趣味が合うよな……っと、すまんなんか連絡が来た」
「いいよ、いいよ。お仕事かもしれないし」
会話の最中にスマホが鳴って銀次が画面を確認すると、その眉間に皺が寄った。
強面を強張らせる銀次を見て、ソラが心配そうに声をかけた。
「何かあったの?」
「あー、なんつうか。今、言うか迷うな」
普段から即断即決の銀次にしては珍しい歯切れの悪い言葉にいよいよ心配になるソラである。
「気になるから言って欲しいよ。何かあるなら力になるから大丈夫」
「そういうんじゃねぇよ。母さんからの連絡でな、来週の中頃に親父と一緒に帰って来るらしくてな。一度親父にソラを合わせたいってよ」
「銀次のお父さん……」
ほわほわとソラの脳内で銀次の父親と会う場面が浮かび上がる。
『貴様が銀次の彼女かっ!』
『お父さん、銀次君をお婿にください!』
ちゃぶ台返しをされるイメージまで考えて首を振って考えを散らすソラ。
目の前にいる銀次の手をそっと両手で包む。
「銀次はボクが幸せにするからねっ!」
「お、おう。どうした急に?」
「ち、ちなみに銀次のお父さんってどういう人? 前にテツ君に似ていて、銀次のお母さんとラブラブだって聞いたけど……」
恐る恐るソラが尋ねると銀次はあっけらかんと答える。
「そうだな……まぁ、テツよりは喋らないな。あと、溶接が上手い。意外と表情は読みやすいぞ」
「頑固だったり、厳しかったりするの?」
「昔、工場とかでふざけていたら拳骨を落とされたこともあったが、普段はまったく怒らないぞ。考え方もとくに頑固って感じはないな。急な話だし、ぶっちゃけ母さんがソラに会いたいから親父をダシにしたとかだと思うから、また今度にしても――」
「会う、ちゃんとあって。銀次のこと真剣だって伝えるからっ!」
「なんか変な想像してないか? まっ、ソラがいいならそう伝えるぜ」
「うん、ボクがんばるからね」
むふーと鼻息荒く気合を入れるソラである。
「そんな気合いれなくても、俺には過ぎた彼女だって喜ぶさ」
「そうかもだけど、将来のことを考えたら長いお付き合いになるし、しっかり挨拶しないといけないよねっ!」
気合を入れるソラに銀次も自分がソラの父に挨拶する時のことを考える。ソラの父親は海外にいると聞くが一緒にいればいつか会う機会もあるだろう。正直、気にはなるがソラの家庭のことをある程度知っているがゆえに聞きづらい所もある。それこそ今話すことではないだろう。まずは、気合を入れすぎている彼女を落ち着かせる方が大事だ。
「確かに立場が逆だったら俺も緊張するかもな。でも、本当に心配いらねぇよ。せっかくのデートに変なことを言って悪かったな。切り替えていこうぜ、映画まではまだ時間あるけどどうする?」
「そうだね。大丈夫、よく考えたら落ち着いて来た。休憩は十分だし、映画までもう少し商店街やこの辺を歩きたいな」
変な想像をしてしまったが、今はデートを楽しもうとソラも気持ちを切り替える。
あの竹を割ったような気持ちの良い性格の桃井母に会うのも楽しみだし、そう考えると銀次の父親に会うことも緊張こそすれど嫌ではない。
「そうこなくちゃな。俺も久しぶりで新しい店もあるっぽいし、見て回ろうぜ」
「うんっ!」
そうして二人は再び商店街のタイル張りの道を歩き出したのだった。
次回は多分月曜日更新です!
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