徐々に大きなことに
日曜をのんびり過ごした二人は、いつも通りに通学路を歩いている。
「ふわぁ……」
いつものお重をズドンと自転車のカゴに入れてソラは大きな欠伸をした。
「寝不足か?」
「絵を仕上げてた……ねむねむ……」
フラフラと頭を揺らしながら、目を擦るソラを心配そうに銀次が覗き込む。
「寝不足は体に悪いぞ。描いていたのは俺の絵か?」
「それ以外に何があるのさ……折角だから油画にしようと思ってキャンパスに下地準備してたらあっという間に深夜になってた。今日も下地だけで終わりそう」
「マジか。油画ってのは手間かかるな」
「溶接だって、死ぬほど研磨したじゃん。それと同じだよ」
「……言われてみればそうか」
楽しようと思えば楽できるが、この手間が楽しかったり作品の質に影響するのだから創作とは罪深いものだ。とはいえ、ソラが寝不足になるのは気になる銀次である。
「俺に手伝えることがあれば、なんかやるぞ」
「ホントっ? キャンパスにリネンを張るのとかすんごく大変だけど……手伝ってくれたら嬉しい、でも、本当に大変だよ」
いかにも大変だぞーという雰囲気を出すソラだが、銀次は笑顔で親指を上げる。
「いいぜ。やり方教えてくれよ」
「やった。愛華ちゃんは使うキャンパスいつも一緒だけど、ボクってそういうのから選ぶの好きなんだよね。工具を使うから銀次ならすぐにできるようになると思うよ」
「いいじゃねぇか。ソラのこだわりにビッタビタのキャンパスを張ってやるぜ。変に遠慮すんなよ、俺達の仲なんだ。厳しくいこうぜ」
銀次の職人魂に火がついたようだ。
「神彼氏……ボクってば幸せすぎ?」
「別に普通なんじゃねぇか?」
「えぇーそんなことないよ」
強く否定したいが、銀次は微かに笑うだけだろう。
どうすれば如何に銀次がすばらしい彼氏であることがわかってもらえるのか。テツ君や老師に相談しよう。そうしよう。
とか考えているソラである。そうこうしているうちに学校前の坂道に到着する。生徒も増えて周囲の視線が集まって来たので、銀次にへばりつくように背に隠れるソラだったが、そんな二人の元にユニフォーム姿の野球部が寄ってきた。先頭は斎藤である。
「おーす。お二人さん」
「「「おはようございます髙城さん!!!!」」」
後ろの野球部達の野太い声に思わず銀次の背中に隠れるソラ。
「お、おう。どうした、そんな恰好で」
「お、おはようっす……」
何故か野球部と同じ感じで挨拶するソラはは顔を半分だけ銀次の背から覗かせていた。
先程銀次と話していた時の表情はなりを潜め、ともすれば無表情とも思われなてもしょうがないほど強張っている。ソラにして見れば緊張しているだけだが、周囲から見ればそれが整った顔立ちを強調してようにしか見えず。思わず足を止めて見惚れる者もいるほどだった。
「二人共驚かせて悪いな。朝練のクールダウン中に二人を見つけてついな。サイト見たぜ、めっちゃかっこいいな」
「「サイト?」」
顔を見合わせる銀次とソラだったが、先に斎藤の言わんとしていることに合点がいったソラが手鼓を打つ。
「そういえば今日あたりにスマホカバーのデザインを公開するって言ってたね」
「言われればそうだったな。……見てみるか」
銀次がスマホを取り出して確認すると確かにサイトが更新され、ソラのスケッチが公開されていた。
四種類のギアはソラの『歯車』への哲学をわかりやすく伝えており、白黒のスケッチが航海図のようにも見えるようにデザイナーによってホームページに飾られていた。
「おぉ、いい感じだな」
「スケッチをひたすら読み込んでいたけどホームページだとこうなるんだね。むむ、勉強になるなぁ」
スマホを確認している二人に斎藤が詰め寄る。
「髙城ちゃんのデザインってだけでも、購入不可避なのにデザインの方もゲキ渋でビビったぜ。二人は完成品をもう見たのか?」
「まだまだだ。これからニ、三回はサンプルをチェックするからな」
「そうか……いや、予約に関してはまだ未公開だがこっそり教えてもらえたりとか」
「無理だっての。つーか、俺達も知らねぇって。その辺は先方が決めることだからな」
銀次の言葉にコクコクと頷くソラだったが、ビタっと止まる。
詰め寄って来たのは野球部だけではない。騒ぎを察した何人かも近寄ってきているのだ。
「な、なんか見られてない?」
「騒ぎすぎたか。図体のデカい奴らが集まっているからな」
銀次が呆れながらソラを庇うように前に出るが集まって来た男子達は野球部を囲み始めた。
「クッ、俺達としたことが……髙城ちゃんにストレスを加えてしまうなんて」
「斎藤、ナチュラルに俺を無視すんなよな」
唇を尖らせる銀次に応える前に、斎藤の肩に手が置かれる。
「朝からライン超えとは……これだから野球部さんはなぁ、夏休みのカレーのことはもう忘れたようだなぁ」
「む、村上っ! はっ、サッカー部に柔道部まで、クッ、ダメだ。弓道部までこちらを見ている!」
「朝練後で悪いが……格技場行こうか?」
どこからともなく現れた田中が幽鬼のように村上とは逆の斎藤の腕を掴む。
「は、離せっ!」
「「「ぐわぁああああああ」」」
背後の野球部員達共々、どこかへ連行されていくのだった。
ぞろぞろと連行されていく野球部を見ながらポツンと残される二人。
「……えと、何だろうあれ?」
「最近わかってきたんだが……あれは多分ソラのファンだ」
腕を組んだ銀次の発言に、口をあんぐりとあけるソラ。
「ボクのファン!? ……え、怖っ。愛華ちゃんじゃあるまいし、そんなわけないよ」
「そうかぁ。最近のソラならできてもおかしくないと俺は思うぞ」
「ないない、絶対無いってば……ほら、早く教室行こうよ」
「おい、急ぐと危ないぞ」
二人が自転車置き場から靴箱へ向かう途中に銀次のスマホが鳴る。
「ん? 美沙さんからか、ホームページを更新したことについてかもな」
「かっこ良かったもんね……あれ? さっきのページ見れないよ」
ソラが自分のスマホで先程の画面を確認しようとするが映らない。
「……美沙さんからのメッセージでまたサーバーが落ちたってよ」
「ええ……」
頭を掻きむしる美沙が容易に想像でき、上を見上げる銀次なのだった。
次回は月曜日更新です! 追加で更新するつもりだったのですが、体調不良で中々更新できなくてすみません。
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