仮釈放の実情
最近ワイドショーなどを観ると、たまに「仮釈放」なる言葉が登場することがあります。
先日、昼間のワイドショーをチラ見しながらご飯を食べていた時のことです。毒舌で有名な某俳優が司会をやっていたのですが、とある事件の犯人に対し「こいつさあ、懲役十五年とか言われてるけど、十年くらい経てば仮釈放で出てきちゃうわけでしょ! 甘い甘い!」などと言っていました。
私の記憶では、昭和や平成初期のニュースやワイドショーでは仮釈放なる言葉は出てこなかった気がします。ただ、私が覚えていないだけなのかもしれませんが。
いずれにしても、仮釈放という言葉について知っている人も、昔よりは多くなったものと思います。しかし、その実情について詳しく知っている人は、まだ少ないようですね。そこで今回は、仮釈放の実情について語ります。実際の話、私は友人が刑務所に入れられるまでは、仮釈放というものについて全く知りませんでした。
これは、今から十年以上前の話です。
友人のスミス(もちろん仮名です)が強盗で逮捕されたという話を聞いた時、私はぶったまげました。スミスは強面で血の気が若干多いですが、基本的には真面目な男でして、犯罪とは縁遠い男のはずでした。我々とつるんではいましたが、ドラッグはおろか酒やタバコもやらない人間だったのです。
そんな男が、強盗で逮捕……私は慌てて、某警察署に面会に行きました。
スミスはやつれた表情で私を迎えてくれました。事件に関する詳しいことは話せませんでしたが、自分は強盗だから執行猶予は付かない、と言っていました。さらに、こうなったら仮釈放で早く出ることに期待するしかない、とも言っていましたね。
スミスの話を聞く限りでは、初犯ならほぼ間違いなく仮釈放がもらえるようです。私は「頑張って、早く出てこいよ」と声をかけました。
その後、スミスは拘置所に送られました。裁判の結果、懲役六年を宣告されたそうです。スミスは手紙で「六年ならば仮釈放をもらえば四年ほどで出てこられる」と書いていました。
ちなみに当時のスミスが聞いた話によると、初犯の場合ですと刑の三分二もしくは四分の三ほどを務めれば、仮釈放で出られる……とのことでした。つまり、懲役七年なら四年八ヶ月もしくは五年三ヶ月を務め上げれば出所できるらしいのです。
冒頭に登場した司会者の発言は、まさにこの計算の通りなわけです。懲役十五年なら、十年ほど経てば仮釈放で出られる……刑期が五年も縮まるなら、ありがたい話ですよね。
もっとも私は「へえ、そうなのか……」くらいにしか思っていませんでした。その手紙が来た直後、スミスは刑務所へと移送されたからです。当時、被告の段階では友人に手紙を出すことは出来ましたが、受刑者となると友人に手紙を出すことは出来なくなっていたのです。
そのため、スミスと私とは連絡が途絶えた状態になりました。
それから、数年が経過したある日のこと。
突然、実家から電話がかかってきました。スミスから電話がかかってきた……と言っており、連絡先を伝えてきたとのことでした。
その数日後、私はスミスと会い、付き合いが復活したのですが……彼からは色んな話を詳しく聞けました。スミスは私と似た部分があり、頭が悪いくせに妙に色んなことを書き留めておくクセがあります。今回の仮釈放の情報も、彼からの話でした。
刑務所に入ると同時に、スミスら新入りは偉い刑務官から、このような訓示を受けたそうです。
「君たちは、みな初犯だ。初犯ならば、ほぼ間違いなく仮釈放がもらえる。だから、問題を起こさず真面目に刑を務め、仮釈放もらって一日も早く出られるよう努力したまえ」
実際の話、スミスと同時期に入所した受刑者たちは皆、仮釈放をもらえると思っていたようです。「俺は仮釈放もらって○年の○月○日ごろに出るから」と言っている者も少なくなかったとか。
まあ、これは犯罪者特有の心理かもしれませんね。基本的に彼らは、物事に関する認識が甘いです。全てを、自分に都合のいいように解釈する傾向がある……そんな気がしますね。まあ、中には違う者もいるでしょうが。
しかし、現実は厳しかったそうです。
まず仮釈放をもらうには、帰住地および身柄引受人(通称ガラウケ)が必要です。何やら難しい言葉が並んでいますが、要は帰る場所があるかないかです。帰る場所がなければ、当然ながら仮釈放はもらえません。仮釈放とは、いわば残りの刑をシャバで真面目に暮らすことで務める……というシステムです。住所不定の人間を、シャバに送り出すわけにはいきません。
ところが、犯罪者は基本的に住所不定無職です。また、家族との仲は悪いです。そのため、実家の人間がガラウケを引き受けないケースは珍しくありません。
そうなると、更生保護施設(通称・保護会)に申請を出さなくてはなりません。しかし、この保護会というのも厄介でして……なかなか通らないケースもあるようです。
あくまでこれは刑務所の中で聞いた噂らしいのですが……殺人や性犯罪(特に幼児が相手の場合)さらに放火は、保護会も引き受けたがらないとか。まあ噂ですので、真偽のほどは不明です。
さて、ガラウケが決まりました。これで一安心……かと思いきや、仮釈放への道はまだまだ遠いそうです。これで、やっとスタートラインだとか。
まずは、裁判の時に無罪を主張しているかどうか……これは大きいそうです。更生保護委員会(仮釈放を決定する人たち)の心証としては「罪を犯したのに認めない、反省していない奴」と判断され、かなり不利な条件になるようです。
また、ガラウケの身元もきっちり調べられます。ガラウケが右翼だったことが判明したため、仮釈放が直前になって取り消しになったケースもあったとか。
さらに、仮釈放が決定する前に、二度の面接があります。これも、人によっては大変らしいんですよね。
中には、こちらをキレさせるのが狙いではないのか……という言葉をぶつけてくる者もいるとか。「君が本当は反省してないのは、こっちはお見通しなんだよ」「どうせ、シャバに出ればこっちのもんだとか思ってんでしょ」「君の刑、はっきり言って甘いよね」などと挑発的な言葉を投げかけてくる面接官もいるそうです。
まあ市民の立場からすれば、して当然の質問ではあります。しかし、このやり取りにキレて仮釈放が取り消しになった受刑者も、少なからずいるとか。短気は損気とは、塀の中でも当てはまる言葉なんですね。
こうした数々の関門をクリアし、無事に仮釈放が決まったとしましょう。ところがです、出る前にもう一つあるらしいんですよ。
それは、仲間に足を引っ張られることです。皆に蛇蛞のごとく嫌われていた受刑者が、仮釈放が決まったとしましょう。
すると……。
「おい、仮釈放が決まったそうだな」
その一言と共に、周囲からの嫌がらせが始まる。で、ブチ切れて暴れたら仮釈放は取り消し……アメリカのB級映画にありそうな展開ですが、日本の刑務所でも実際にあるらしいんですよ。
また仮釈放が決まると、ほとんどの受刑者が浮かれます。「出たらアレ食って○○に行って……」などと、シャバでの楽しい予定をベラベラ語り出す者もいるとか。
しかし刑期が残っている者にしてみれば、そういった発言は嫌味でしかありません。結果「あいつの仮釈放、潰してやろうぜ」という展開もあるらしいです。
ちなみにスミスは、実際に仮釈放を潰された受刑者を数人見たそうです。そのため、仮釈放が決まったら今まで以上におとなしくしていたとか。大変だなあ、としみじみ思います。
さらに余談ですが、仮釈放のための面接が入る場合、普段とは違う「それ」専門の刑務官が呼びに来るそうです。そのため、他の受刑者たちにも仮釈放が決まりそうなのが丸分かりだとか。
スミスは刑務所にいる間、何も問題を起こさず無事に刑を務めましたが……仮釈放は、六年の刑に対して一年しかもらえなかったそうです。六年の刑で、無事故無違反にもかかわらず一年です……前述の毒舌MCが語っていた話とは、ずいぶん差がありますよね。まして世間を騒がせたような有名な犯罪者の場合、もらえないケースがほとんどだと聞きました。
最後にスミスは、こんなことを言っています。
「初犯だからって、仮釈放には期待しない方がいい。中では、何があるか分からないから」
これから逮捕されるかもしれない予定のある人は、仮釈放など考えない方がいいかもしれません。仮釈放に期待してもらえなかった場合、心のダメージが大きいらしいので。




