鬱展開について
私が初めて鬱展開の作品に触れたのは、アニメ『フランダースの犬』ではないかと思います。
幼い頃の私にとって、主人公のネロとパトラッシュの最期は、あまりにも理不尽なものに見えました。正直言いますと、あの最終回に幼い私は感動しませんでした。
むしろ「ざけんじゃねえよ村のクズ共が! こんな村の連中、皆殺しにしちまえ!」と考えていたのです……。
さらに時は流れ、小学生の夏休みの頃の話です。確か一年生の時だったと思うのですが……何故か昼間にアニメ『ザンボット3』の一挙再放送があったんですよ。
スパロボから入った人たちにとって、ザンボット3といえば人間爆弾……なのでしょう。しかし、私にとって人間爆弾以上にインパクトがあったのは、宿敵ガイゾックとの戦いで次々と命を散らしていく神ファミリーの姿でした。
特に、全てを主人公の神勝平に託し「父さん、母さん、さようなら……」と言い残してガイゾックの戦艦に特攻をかけ、幼い命を宇宙に散らせた神江宇宙太と神北恵子の姿は、小学生の私に強烈な印象を残しましたね。
そんな作品を観て成長した赤井少年は、高校生になると鬱展開やバッドエンドを好むようになります。さらに、当時付き合いのある連中もまた、似たような嗜好の人間ばかりでした。
そんな連中が集まると、必然的にロクでもない会話に終始します。例えば、皆で麻雀をしている時にテレビで恋愛の映画が放映されていたりすると……。
「おいおい、また恋する二人が出てるよ」
「バカバカしいなあ」
「平安貴族じゃあるまいし、こいつら恋愛にしか興味ねえのかよ」
「実に麗しい恋人たちだねえ。麗し過ぎて、ゲロ吐きそうだよ」
「どうせ、結婚してハッピーエンドなんだろうが」
まあ、嫌なガキ共ですよね。しかし、若い時の私はこんな奴だったのです。
ちなみに今の私は、どちらかというとバッドエンドや鬱展開の物語が好きです。しかし、ハッピーエンドも嫌いではありません。
さて、最近なろうにてよく見かける意見に「今の現実の生活はとても厳しく、将来に夢も希望も抱くことは出来ない。だからこそ、せめてフィクションの世界ではストレス展開なしのハッピーエンドを求めるんだ」というものがあります。
この意見ですが、私は不思議でならないんですよね……皆さん、そんなにハードモードの人生を歩んでいるのでしょうか。
中学を卒業後、高校に進学せず様々な悪事に手を染め刑務所に出たり入ったりを繰り返し、何の職歴も資格もないまま気がつくと四十代……こんな人、実際に私の知り合いでいます。まあ、これなら夢も希望もないと言われても納得できますね。
しかし、なろうでは「現実が辛いから、せめて作品はハッピーエンドに……」という意見があちこちから聞かれます。私には、ちょっと理解できないですね……日本は、そんなに不景気なのでしょうか。そんなハードモードな人生を歩んでいるような人たちならば、なろうを見る暇など無い気がするのですが。
少なくとも、私は金持ちでも勝ち組でもありません。毎日、仕事でヒイヒイ言っております。忙しい時には、数日間なろうにログインできないこともありますが、それでも「現実が厳しいから〜」などと書いたことはないです。また、「だからフィクションではハッピーエンドを〜」などと思ったこともありませんね。
穿った見方かもしれませんが……これって「チーレムそしてハッピーエンドが好きな自分」の、他者に対する言い訳なのではないかな、という気がするのは私だけでしょうか。
チートでハーレムさらにストレス0でハッピーエンド確定な展開、そんな作品がなぜ好きなのか……それは現実が厳しいから、せめてフィクションだけは楽したいのさ! という言い訳めいたものに使われてる気がしますね。
正直、不思議でなりません。なぜ、わざわざこんな使い古された意見を持ち出すのでしょう……そもそも、人は幸福になることを望む生き物です。ハッピーエンドを好むのは、ごく自然のことでしょう。現実が幸せであろうと不幸だろうと、作品の中でハッピーエンドを歓迎する……これは、当たり前のことかと思います。
事実、昭和のアニメの中にも人気キャラを死なせた途端に、抗議の電話や手紙が殺到したものがあったそうです。またバッドエンドになったドラマに対しても「後味が悪すぎる」とのクレームが殺到したケースもあったとか……ストレス展開やバッドエンドを嫌う、これは時代に関係なく当たり前のことだと思うんですよね。
にもかかわらず、二言目には「今の時代、現実が厳しいから……」せめて、もう少しオリジナリティーのある意見を言って欲しいなあ、と思うのは私だけでしょうか。
いずれにしても、自身の好きなものに対し、他人の意見で理論武装しなくてはならない……というのは悲しいですね。好きだから好き、と言い切ればいいのではないかと思うのですが。
あと、ちょっと矛盾しているようですが……個人的には『フランダースの犬』や「やったね○○ちゃん!」のような作品を見て、世の中の理不尽さに怒りを感じる部分は持っていて欲しいですね。




