アニメ『TEXHNOLYZE』(テクノライズ)の感想
今回は趣向を変えまして、アニメ『TEXHNOLYZE』(以下テクノライズと表記します)の感想について書かせていただきます。つい先日、久しぶりに全話を一気見する機会がありまして……改めて、この作品の素晴らしさを再認識させられました。と同時に名作ではあるがかなりマイナーでもある、こちらの作品を観てくれる方が一人でも増えて欲しいものです。私のこのエッセイがきっかけとなってファンになってくれた人がいたなら、それは無上の喜びですね。
この『テクノライズ』は……SF任侠系バトルもの、とでも言えばいいのでしょうか。時代背景は、今から数十年後もしくは数百年後の未来、という設定のようです。もっとも、文明はあまり発達していないような気もしますが(ネタバレになるので、その点について詳しくは書きません)。そのストーリーはと言いますと、一言では説明しづらい作品ですね。ちなみに、魔法や異能力などを用いて戦ったりはしません。
地底深くに造られ、暴力と混沌とが支配する街・流9洲(以下ルクスと表記します)が本作品の舞台となっております。ある日、一人の男が地上から降りて来たのをきっかけに、ルクスの存在すら揺るがす恐ろしい事態へと発展し……こう書くと、その一人の男というのが主人公なのではと思われるかもしれませんが、実は違います。まあ、その男も強烈すぎるキャラなのですが。
本当の主人公は、賭けボクサーのイチセという名の若者です。しかし、この男は……寡黙なこともあって、最初はわかりにくいキャラです。少なくとも、序盤から中盤にかけてのイチセは、ただのバカにしか見えないような描写も多々ありますね。
そのイチセは第一話にて権力者の女を脊髄反射的に(?)ブン殴り、挙げ句にヤクザに捕まり右手を切断(それも日本刀で)されます。さらにイチセは、その場に居合わせた権力者の女(嬉々とした表情で切断場面を見ていました)を見つけた瞬間、獣のごとき雄叫びを上げながら左手で殴りかかります。「お前だけは殺す!」とでも言いたげな形相で……もっとも彼の思いは叶わず、さらに左足まで落とされてしまいます。まさに、衝動でのみ生きる獣ですね。
右手と左足を失ったイチセは必然的に賭けボクサーという職もまた失い、街をさ迷い歩きます。しかし、あらゆる物が今の彼には障害と化して立ちはだかりました。失血により朦朧とした状態でしゃがみこみ、疲れはてた虚ろな表情で空を見上げるイチセ。そのまま街の片隅で野垂れ死んでいこうとした時、救いの女神が現れました。
救いの女神こと、ドクと名乗るその女科学者は、イチセに機械仕掛けの義手と義足を与えます。それは「テクノライズ」と呼ばれる超技術であり、イチセに人間離れした腕力を与えることとなりました。
もともと強い賭けボクサーだったイチセ。テクノライズによる義手と義足により、銃で武装した集団を相手に無双できるほどの強さを手に入れます。しかし、その後も彼は衝動で生きることを止めません。「ただ滅茶苦茶なことをして、無意味に生まれ、死ぬの?」とドクに問われる場面がありますが、それに答えることも出来ません。そもそもイチセ本人が、自分は何を求めているのか……それすら分かっていない状態なのですから。
この無茶を繰り返すイチセを「普通のバカは、一度死ぬと治るんだがな」と半ば呆れ顔で評したのが、ルクスの街を実質的に支配しているオルガノ(ヤクザという単語は出てきませんが、間違いなくヤクザがモデルです)の統括本部長である大西京呉です。若くしてオルガノを支配する立場にいる大西は、本作品のもう一人の主人公と言っても過言ではないでしょうね。
己の利益や面子を優先する幹部たちに囲まれながらも、大西は街の治安を守るために孤軍奮闘します。ある時は戦争を避けるため、オルガノに敵対する勢力『救民連合』のアジトに単身で乗り込み、リーダーの木俣に直談判するのですが……その両巨頭の、味のあるやり取りがこちらです。
木俣「取り巻きを一人も連れて来なかったようだな」
大西「話をしに来ただけだ。他に誰も必要ない」
木俣「なるほど。さすが、その歳でオルガノの統括本部長になっただけのことはある」
大西「評価していただいて光栄だ。できれば、静かな場所で話がしたい」
木俣「ここにいるのは、全て血を分けた兄弟。救民連合の名の下、我々は一心同体だ」
大西「なら、私の所にのこのこ鉄砲玉をよこした周りが見えていないアホとも、一心同体だというのか!」
木俣(フッと笑いながら)「客人を迎える部屋くらいはある」
大西のこの姿勢は、最初から最後までブレることがありません。勝手に救民連合を襲撃した下っ端のチンピラを自らの手で粛清したり、血気に逸る幹部たち(基本的に皆、大西を嫌っています)に「街は祭りを望んでいない!」の一言で黙らせたり……その行動はあくまでも、街の治安を守るためです。
白いスーツに身を包み、必要とあらば日本刀を振るい戦う武闘派の顔も併せ持つ大西は、まさにオルガノのカリスマと呼ぶに値する男ですね。
その大西を、羨望と嫉妬の入り混じった複雑な感情を抱いて見ているのが『ラカン』のリーダーであるシンジです。
このラカンというグループは組織としてのまとまりに欠けた、若いチンピラの集まりです。街で悪さをするバカも多いですが、そんな血の気の多い愚かなチンピラたちの中にあって、シンジはひときわ異彩を放つキレ者です。落ち着いた態度で周りの暴走を制止し、クールな口調で「大人のケンカに茶々いれんじゃねえ」「うちのバカが失礼したな、謝らせてくれ」などと言ってのける姿は、大西と重なる部分がありますね。
そんなシンジは、「丘の上」と呼ばれる上流階級の人間たちの住む場所に、幼い頃から密かに憧れを抱いています。いつか俺も行ってみたい、という想いを胸に秘めていました。やがてシンジは、念願が叶って丘の上へと行くことになります。ただし、両手に銃を持った姿で。
若きリーダーのシンジに接近していくのが、地上から来た謎の男・吉井一穂です。この吉井こそが、ルクス全土を揺るがす大事件の発端となる存在なのですが……とにかく始末に負えない人物ですね。そんな狂気の人・吉井さんの発したセリフの中から、有名(?)なものを挙げてみますと――
「しょせんは同じ空気を吸う者同士……こっち来なよー」
「本当の自由は、何にも寄りかかれない。それは儚く、さびしく、険しい。その先に、保証や見返りを求めちゃ駄目だ」
「半端は駄目だ」
「人間の持つ、原初の力がほとばしるのを……もっともっと見てみたい」
「戦え、戦え……殺しあえ。そうだよシンジくん」
「大西さん、あんた小さくまとまりすぎなんだよ……お・お・に・し・さん」
「僕は彼らを啓蒙したい。もっと彼らが、自分たちの力を信じられるように……分かってきたんです、それが僕の使命なんじゃないかって」
「駄目だそんなの! もっと向上しようよ! あんたの無意味な人生に、もっと意味を持たせなきゃ!」
こんなセリフを吐きながら、吉井はルクスで暗躍していきます。襲撃、狙撃、さらには爆破……その、あまりにも自由すぎる姿を見ていて、ある種の爽やかさと清々しさすら感じるのは私だけでしょうか。
この吉井さん、作中では主人公のイチセや大西すら食ってしまったほどの存在感を発揮しています。このキャラもまた、『テクノライズ』という作品を語る上では欠かせないですね。
他にも多くの魅力的なキャラが登場しますが、書ききれないのでここまでとします。様々なキャラたちの生き様……それを見届けるだけでも、この作品を観る価値はあると思います。
この『テクノライズ』は後半になっていくと、キャラが呆気なく死んでいきます。いとも簡単に……しかも、その死に様も結構グロいものが多いですね。ネタバレを避けるため、あえて詳しい描写はしませんが……この世界の秘密が明らかになるにつれ、話から漂う空気もどんどん重苦しいものになっていきます。ラストもまた、ハッピーエンドと呼べるものではありません。
また、言うまでもないと思いますが……この『テクノライズ』に「萌え」などという要素は欠片もありません。女のキャラ自体、あまり出てきませんが。とにかく、深夜に放送している訳の分からないアニメのように、若い女の子が意味もなく裸になったり、肌を露出した格好で戦ったり、パンチラしたりするようなシーンはありません。
それに、やたら目のでかいホスト崩れのような髪型の細マッチョな若いイケメンも出てきません。クールなイケメンが、お洒落なセリフを吐きながら戦ったりもしません。基本的に登場するのは……ヤクザのオッサン、『ラカン』の若く頭の悪いチンピラ、生活にくたびれたオッサン、体が傷だらけの名も無き売春婦、血の気の多いオッサン、ヤンデレ気味の秘書、汚い顔の狂ったオッサン、そして時おり遠山くん(一応は若いイケメンです、ホモですが)といった感じです。本当にオッサン率が高いですね。
さらに、この作品はもともと二十六話だったのが二十二話に短縮されたそうでして……後半になると、明らかに駆け足になっていますね。特に「テクノライズされた者」と「されていない者」の立場が逆転するあたりは、もっと詳しく描いて欲しかったです。
もう一つ、個人的に非常に残念なのが、『救民連合』のリーダーである木俣の内面や行動について、ほとんど語られないまま終わっている点です(退場間際で少し触れるだけ)。この木俣というキャラ、かなりユニークな個性の持ち主であり、また素手で機械仕掛けのアンドロイドを破壊できる腕力の持ち主でもあるのですが……そういった部分が、作中で充分に活かされないまま退場しているのは、本当に惜しいと感じました。
そんな欠点はありますが、この『テクノライズ』は是非とも皆さんに観ていただきたいですね。ストーリーには難解な部分もありますが、混沌とした街の雰囲気や人々の表情、残酷で容赦のないバトルシーン、渋い音楽(特にOPは世界観にピッタリですね)、見せかけだけのカッコよさや生ぬるい御都合主義を否定したシリアスなストーリー……さらに登場する漢たちの生きざまが、いちいちカッコよすぎます。特に終盤にて、大西が「狂った群衆」に向かい発したセリフ……そのシーンは必見ですね。
また、最初は衝動のみに生きている野良犬そのものだったイチセも、大西やヒロインの蘭たちと関わることで人間として成長していきます。最終話にて、心の中で蘭(幻ですが)に自らの想いを語りつつ荒廃した街を歩くシーンは感慨深いものがありますね。そしてラストで見せる、イチセの表情……希望は無くとも、そこにほんの僅かな救いらしきものがあった気はします。
一見すると、何の希望も無い絶望に覆われたラストシーン。しかし暗闇の中、最後の最後にイチセが見たものは何だったのか……皆さんの目で、是非とも確かめて見てください。ラストに流れる曲がまた、切なくも優しい味わいです。ちなみに私は、このラストシーンを初めて観た後……三日間ほど余韻に浸っていました。
というわけで……今回、私の言いたいことは一つです。アニメ『テクノライズ』を観てください。はっきり言ってしまえば、なろう発のラノベが原作のアニメとは、根本的に違う内容ではあります。観る人を選ぶストーリーですし、始めの数話は訳が分からないかもしれません。鬱な展開もありますし、一般ウケはしない内容でしょう。しかし、ハマる人にはハマる内容ですので。そして、ハマる人にとっては……一生モノの名作となってくれるのは間違いありません。




