ぼくのくろれきし・そのに
二〇二五年の一月十三日、各地で成人式が行われました。当日は、晴れ着姿の新成人とすれ違ったのを覚えております。
しかしSNSなど見ると、成人式にいい思い出のない人も少なからずいるようですね。「昔いじめられていたので、成人式には行かなかった」「学生時代ぼっちだったので、行くにほ行ったが嫌な気分だった」などという投稿も、ちらほら見かけました。
私はそういった投稿を見て、ちょっと考えてしまいましたね。
私は中学生の時、いじめられたのが原因でヤンキーの仲間入りをしました。強い者への憧れや、いじめられっ子に戻りたくないという意識のためです。
が、ヤンキーという人種の実態を知るにつれ、私の気持ちは変化していきました。何度も書いていることですが、ヤンキーは本当に卑怯で、どうしようもない人間なんですよね。
昭和の凄惨な事件といえば「名古屋アベック殺人事件」や「女子高生コンクリート詰め殺人事件」などがあります。ああいった事件は、ヤンキーという人種に特有の部分がエスカレートした結果だと思いますね。
話を戻しまして、高校生になる頃には、私からヤンキーへの憧れは消えていました。代わりに、世の中のイベント事をバカにするようになっていったのですよね。これは私だけでなく、当時ツルんでいた仲間たちに共通していた部分ですね。
例えば、テレビのニュースなどでクリスマスの話題が出たとします。その時、観ている我々はこんなことを言っていたのです。
「おいおい、クリスマスだってよ」
「日本は、いつからキリスト教国になったのかねえ」
「こんなもん、低脳な男と女がホテル行ってヤルだけのイベントじゃねえか」
「だいたいよ、ケーキだのチキンだのプレゼントだので儲けたい連中が騒いでるだけだろ」
「クリスマスに儲けたい業者に乗せられてる一般大衆は、本当にバカだよ。まさに愚民だな」
「まあ、俺らはこんなもんシカトだけどね」
嫌なガキどもですね。なんというか、流行りのイベント完全無視する俺らカッケー! という連中でした。
当然、このキャラは単独でも同じです。例えば、バイト先の誰かが「俺、クリスマスは彼女と過ごすから休むんだ」などと言おうものなら──
「えっ? クリスマス? ああ、そんなのありましたね。ま、俺はキリスト教徒でもないしケーキ屋やラブホ界隈を儲けさせる趣味もないんで、ひとりでゲームでもやってますよ。でも、あなたみたいにクリスマスをひとりで過ごしたくない方々が、日本の経済を回してるんですよね。感謝感謝です」
などと言っていたのです。本当に嫌な奴ですよね。タイムマシンがあったら、この当時に戻ってボコボコにしたい気分です。
言うまでもなく、当時の私はバイト先で嫌われておりました。が、上記のような仲間たちとツルんでいたため、バイト先で嫌われることなど屁とも思っていなかったのも確かです。そのため、バイトは長続きしませんでした。
私とその仲間たちは、当時の若者の娯楽や流行り物をことごとくバカにして生きてきました。夏に海に行ったり冬にスキーに行ったりということはもちろん、女の子たちとのパーティーや合コン(大規模なものだと人数合わせで我々のようなミジンコレベルでも呼ばれることがあったのです)といったものを全て「くだらねえ」の一言で切り捨てていたのです。
そんな我々ですから、一生に一度のイベントである成人式もまた、完全に無視でした。それよりも「成人式に関心がない自分」を仲間内でアピールしていたのです。
「そういや、こないだ成人式なんてあったらしいな」
「ああ、そんなのあったらしいな。赤井は何してた?」
「俺さ、バイトしてたよ。工場を解体してやったぜ。成人式だって気づいたのは、その日の夜でさ」
「ははは、バイトか。俺はさ、麻雀してたよ。フリー雀荘で徹マンしてたね。翌日になってから、昨日は成人式だって気づいたよ」
「そっかそっか。ま、俺らには成人式なんか関係ねえもんな」
こんなことを言い合っておりました。実のところ、成人式に行った友人から恐ろしい話を聞いていたのですが……それは、このエッセイ二十三話『狼少年』の章で書いていますので、ここでは触れません。
そして今になり、成人式についての若い人のコメントを見ると……うーん、と唸ってしまうのですよ。
あの時の私は若かったし、バカだったとも思っております。しかし、私は成人式に行かなかったことを後悔はしておりません。行かなくて良かったとは言いませんが、行っておけば良かったとも思っておりません。はっきり言って、今さらどうでもいいものです。行きたい人は行けばいいし、行きたくないなら行かなければいい、その程度のものですね。
どんな人間も、いつかは死ぬ時が訪れます。その死を間近にした時「ああ、成人式に行っとけば良かった」と後悔するだろうと思うなら、行くべきでしょう。ただ、私はそんな後悔はしないと断言できます。
と、ここで終わらせればいいのですが……成人式の一月後、私は知人と会った時にこんな話を聞きました。
「俺さ、はっきり言って行きたくなかったんだよ。でもさ、親が出てくれってうるさくてさ……しかも、よりによって羽織袴まで用意しててよう、仕方ねえから出たよ」
羽織袴と聞いて、私は笑ってしまったのですが……彼は、私のような下層民ではありません。中流家庭の上、というレベルの家の子でした。
ある程度のレベルの家庭に生まれると、こういうイベントも本人の意思に関係なく参加させられるのでしょうね。大変だなあと思ったのを覚えています。




