『フランケンシュタイン』の怪物は、イケメンではありません
先日のことですが、Xにて「フランケンシュタインの怪物、一般的なイメージと原作小説で外見も設定も違い過ぎて驚いたのでキャラデザ挑戦してみた」という文章と共にイラストがつけられていたポストを観ました。
やっぱりというか、予想通り長髪のイケメンに描かれていたのですよね……リポストは一万、いいねも三万を超えており、いわゆる「バズる」という状態でした。寄せられたコメントにも「イケメン」「性癖に刺さる」といったものでした。
正直、悲しかったてすね。以前にも、このエッセイで取り上げていますが……私が読んだフランケンシュタインは、怪物の外見について「とても醜く、見る者に生理的嫌悪感を起こさせる風貌」というようなことが書かれておりました。訳者によって違うバーションは幾つもあるでしょうが、怪物が醜い外見であることは共通しております。少なくとも、イケメンでないことは間違いないでしょう。
それに……怪物がイケメンでは、この作品はぶち壊しになってしまうのですよ。
フランケンシュタインのテーマのひとつが「元は善良であり知能も高い怪物が、その醜さゆえに人間から迫害を受け続け、やがて身も心も本物の怪物へと化していく」というものです。
その怪物がイケメンであっては……怪物は単なる「いじめられっこの美男」になります。美少女であるにもかかわらず亜人というだけで迫害され、それを主人公が助けてキュンとなる……という、なろう系アニメにありがちな展開そのまんまの作品になるわけです。あれを観ていると「これ、笑うところですよね?」と聞きたくなるのは私だけでしょうか。
そういえば『フランケンシュタインの恋』なるドラマがあったそうです。まあ、怪物を演じていたのが綾野剛さんらしいので……どんな内容なのかは、だいたい予想がつきます。観ていないし、これから観る気もないですけどね。
私は何も、コンプラがどうとかルッキズムに配慮しろとか、そういうことを言うつもりはありません。
美男美女が主人公、それは大いに結構なことです。なんやかんや言っても、見栄えの良い方が人気も出ますからね。
また、世の中には『メクラチビゴミムシ』なる生物がいたりします(正式名称)が、こんな虫に公の場をブンブン飛び回られては、いろんな意味で迷惑だということも承知しております(念のためですが、この生物は飛びません)。
ただし、作品を改変することにより、テーマまでも変えてしまってはいけないとも思っております。
かつて『美女と野獣』というドラマがありました。一九八七年から一九九〇年に、アメリカで放送されていました。日本でも、確か九〇年代の後半に放送されていたと思います。念の為ですが、ディズニーのあれとは、ほぼ無関係の内容です。
リンダ・ハミルトン演じる弁護士が、ある夜に暴漢に襲われるのですが……彼女を助けたのは、異相の男でした。日本の特撮『風雲ライオン丸』そのまんまの、野獣のごとき風貌の男は一瞬で暴漢を倒してしまうのです。
それがきっかけとなり、ふたりは付き合うようになります。このライオンのような男、名はヴィンセント(ビーストから来ているのでしょうね)です。見かけと違って物静かな性格で落ち着いており、知識も豊富で詩を口ずさんだりもします。しかし、彼女がピンチの時には必ず駆けつける……見た目は野獣ですが、心は聖騎士なんですよ。
こんなヴィンセントですが、その見た目ゆえに悩み苦しむ場面があります。そこがテーマでもあるのですが……ちなみに、野獣を演じているのはロン・パールマンです。ただでさえ強面なのに、特殊メイクをしてライオン丸そのまんまな姿でヴィンセントを演じております。
このドラマ、後にリメイクされましたが……野獣は、イケメンに改変されておりました。よくは知りませんが、事故で超人的な能力を得たという設定らしいです。はっきり言ってしまえば、女性のよくいう『ワイルド』な男……という意味の野獣なのでしょうね。
このエッセイでも以前に書きましたが、幼い頃『エレファントマン』という映画をテレビで観ました。
ストーリーの説明は、あえてしませんが……私はこの映画に大変な衝撃を受けました。
まず、ジョン・メリックの顔が気持ち悪いのですよ。そこらのホラー映画のクリーチャーも裸足で逃げ出すような出来栄えです。私も、初めて見た時は「気持ち悪!」と感じました。
このジョンは醜い顔ですが、我々と同じ人間なんですよ。それも、純粋な心を持った傷つきやすい青年です。映画の中で、そんな彼の内面が描かれていくにつれ……私は「気持ち悪!」と感じた自分を深く恥じました。同時に、自分の中に差別する気持ちがあることを知らされたのですよね。
ジョンの醜い顔は、劇中で観る者に問いかけてきます。「お前、こんな顔の奴が現実に現れたらどうする? 友だちになれるか? ましてや、こんな異性に告白されたら?」と問われたら、私は咄嗟には答えられないですね。
ジョンの醜さは、口先だけの「多様性重視!」「差別をなくそう!」「ルッキズムはよくない!」などというセリフなど、軽く吹っ飛ばすほどの威力を持っているのです。
登場人物の大半は、そんな醜いジョンを優しく受け入れていくのですが……そんな人ばかりではありません。作中、ジョンの部屋にたちの悪いならず者たちが侵入し、ジョンをいたぶるシーンがあります。
この場面は、本当に容赦がありません。殴る蹴るのような直接的な暴力は振るわなかった記憶がありますが(あったかもしれません)……ジョンを取り囲み顔を見てゲラゲラ笑ったり、逃げようとするジョンを捕まえ引きずり回すシーンは、胸糞を通り越した嫌な気分にさせられました。
一方で、ジョンが高そうなジャケットを着てステッキを持ち「こんにちは、ジョン・メリックです」と気取ったポーズをするシーンがあります。
この時、幼い私は観ていてイラッとなったのですよね。当時は、自分の気持ちがわからなかったのですが……今ならわかります。人間は、弱者には弱者らしくいて欲しいのですよね。弱者は卑屈におとなしく生きていて欲しい、といういじめっ子のごとき願望を自覚させられる場面でしたね。
想像ですが、監督のデビッド・リンチはものすごく嫌な性格なんでしょう。だからこそ、こうした場面を何のためらいもなく撮れるのでしょうね。
話がズレてしまいましたが……調べてみると、フランケンシュタインの怪物をイケメンとして描いている作品は、少なからずあるようです。
個人的に、怪物がイケメンであることは……スリムクラブ真栄田さんのフランチェン並みに原作から離れてしまう気がするのですが……まあ、それが世の中の流れなんでしょうね。
この先フランケンシュタインの怪物は、イケメンとして描かれるのが当たり前になるのでしょう。今後『ノートルダムの鐘』のカジモドも、ちょっと体に障害があるだけのイケメンに改変されるのでしょう。これまた、世の中の流れなんでしょうね。
ただ、私はそんな流れにはついていけないので我が道を行きます。いずれ『江戸川乱歩 恐怖! 奇形人間!』を観たいとも思っております。




