酒飲みは、粋でカッコいいのでしょうか?
今回いろいろ書いておりますが、私は酒を飲むことや酒そのものを否定するわけではありません。ただ、酒に対し極端に甘い人種や、酒を大量に飲めることは粋でカッコいい! などとほざくオッサン連中が嫌いなだけです。
最近、こんな記事を見かけました。
昭和の名人、古今亭志ん生は関東大震災の時、真っ先に酒屋に駆けつけたそうです。「地面に飲ますのはもったいない」と家族財布をふんだくって、です。店主は「逃げるから好きにしろ」と逃げ出したとか。当然の行動ですね。
すると古今亭志ん生は「やった! 飲み放題だ!」と酒屋にある酒を飲みまくって、ついでに一升瓶に詰めてご機嫌で帰宅したそうです。
帰り道は地震……ではなく酒のせいでグラングラン揺れていたとか。無事帰ると、身重の奥さんから「こんな時に何やってんだい!」と横っ面を引っ叩かれた……というオチ(?)だったそうです。
皆さんは、この行動をどう思われるでしょうか。まあ、感想は人それぞれあるでしょう、ただ、もしこれが酒でなく覚醒剤もしくは大麻といった違法薬物であったなら……古今亭志ん生への評価は、どうなっていたのでしょうね。
私の目から見れば、これはポン中の行動と何ら変わらないのですよね。
私は昭和の生まれであり、また下町で育ってきました。それゆえ、周囲には酒飲みが多かったです。また、自身も「飲み会」が避けられない境遇でした。
そのため、酒でおかしくなった人間を大勢見てきたのですよね。目の前で、家に帰っただけで酔っぱらった父親にボコボコに殴られる同級生を見たことがあります。さらに、酔っ払った父親と血まみれになるほどの殴り合いをした友人を、自宅に泊めたこともあります。
また「酒さえ飲まなきゃ、いい人なんだけどね」という人もかなりいました。以前にも書きましたが、酔っぱらった挙げ句に仕事に来なかったり、来ても二日酔いで仕事にならなかったり、さらにはズボンの裾から糞便を垂れ流しながら歩いていたり……そんな人たちもまた、少なからず見てきました。
さらに、酒に対し極端に甘い人たちも大勢見てきました。他人に対しさんざん失礼なふるまいをしても「酒の上のことだから」「酒が入ってりゃ仕方ない」などという言葉で許されていたのです。
以前にも書きましたが、私は酒がほとんど飲めません。少し飲んだだけで顔が赤くなります。
そんな私は、酒が弱いというだけで不愉快な言葉を浴びせられて来ました。「酒を飲めないなんて男じゃねえ」「酒の美味さを知らないってことは、人生を損している」「こんな量も飲めねえのか。情けねえ奴だ」さらには「酒を飲めねえ奴は百パーセント成功しねえ人間なんだよ」などと言われてきたのです。
ただ、冷静に考えると……酒に強いから、その人が男らしいのでしょうか。酒に強いから、何が偉いのでしょうか。
こういう考え方は、結局のところ労働者を搾取する側の論理ではないかと思うのですよね。とりあえず、労働者諸君には毎日きちんと働いてもらいたいのが経営する側の考えです。
特に、昭和は「二十四時間戦えますか」などという狂ったキャッチコピーが話題になった時代です。寝ないで働くことが美徳とされていたのですよ。そこまでいかなくとも、余計なことを考えず黙って働け……という時代でした。
ただし、底辺の労働者にとって毎日働くということは、大変だしストレスも溜まります。しかも、パワハラが当たり前の時代ですからね。不満を解消させる何かが必要です。
そこで上の人間たちは、仕事が終わった労働者に酒をバンバン飲ませていました。アルコールにより気分を良くし、不平不満を忘れさせ、明日も働けるようにする……そこから「酒に強い男は粋でカッコいい。だから、みんな酒を飲め」という風潮へ繫がっていったのではないかと。
そこに酒造業界が便乗し「男は黙ってサッポロビール」「会社なんか、酔わなきゃ行けません」といったキャッチコピーの、社畜であるために酒を飲め的なCMが……などと書いていくとキリがない上、話もズレるのでここまでにします。
ただし、私が見てきた大酒飲みは粋でもカッコよくもなかったのは間違いありません。他人の迷惑も顧みず大酒を飲み、「俺は粋でカッコいいだろ」などと吹聴している……そんな人たちだった記憶しかないですね。
最近は、飲み会に行かない若い人が増えてきたそうですね。また、アルコールハラスメントという言葉も一般的になってきたようです。飲酒しての運転に対する罰則も厳しくなって来ました。
さらに、酒の害もどんどん明らかになって来ました。かつては専門書を読んだりしなければわからなかったことですが、今はネットで調べるだけで、酒の害について詳しく知ることが出来ます。
特に「酒は百薬の長」なる言葉がまやかしであることがはっきりしたのは、本当にスカッとしましたね。
私としては、この流れは素晴らしいと思います。また、今の時代の若者が羨ましいとも思いますね。
イギリスの精神科医、デビッド・ナット先生の論文によれば、個人に対する健康被害と社会に対する被害を足して一番有害な薬物はアルコールなのだそうです。無論、覚醒剤やコカインといった違法薬物も含めての話です。
無論、この論文をそのまま鵜呑みにするわけにはいきません。仮に覚醒剤が合法になった場合、個人のみならず社会に与える被害はアルコールを上回るものになるでしょうね。
ただし、アルコールが有害なものであるのも、また事実なのです。酒を飲んだ挙げ句に罪を犯した人間の例は、枚挙にいとまがありません。「大量の酒を飲める俺、粋でカッコいい」などと言っているオヤジは、この事実をわかっているのでしょうか。
なお、こういうことを書くと必ず「悪いのは酒じゃない、人間だ。もともと悪い奴が酒を飲み悪いことをする」などと言い出す人が出てきます。
しかし、悪い部分のない人間などひとりもいません。酒は、その悪い部分を引き出しやすくなるのです。また、判断力を低下させミスを犯しやすくもなります。だからこそ、飲酒による犯罪が起きてしまうのですよ。
いろいろ書いてきましたが……私の願いはひとつです。大酒を飲むことが、粋でカッコいいなどと思うジジイ連中は、さっさと絶滅して欲しい……ただ、それだけです。




