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エッセイ書いたんだよ!  作者: 赤井"CRUX"錠之介


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ハラハラ

 数年前のことですが、とあるユーザーさんが、こんなことをぼやいていました。


「会社で後輩を注意したら、パワハラだと言われた」


 この方は、私より上の世代のようです。最近は活動を休止しているようですが……それはともかくとして、私は当事者ではないですし、これに関しては何もコメントしなかったのです。

 一方、少し前に旧ツイッターにて、こんな書き込みを目にしました。


「セクハラ常習犯でお手上げだった顧客を担当することになった新人が「それセクハラですよ。普通にみんな気持ち悪がってるんでやめてくれません? マジキモいです」と言い放った。それからセクハラはなくなった」


 この書き込みに「素晴らしい」と絶賛する声が多数寄せられたようです。しかし、このような意見も寄せられていました。


「上の世代がセクハラなあなあにして流してたせいで、新人が言わなきゃいけなくなった。そもそも先輩らが注意しておけば、その子もセクハラに遭わなかった」


「自分らは何もせず老害をのさばらせておいて、本来守るべき存在の新人にそんなことを言わせて、先輩として情けないとか恥ずかしいとか思わないの? って思ってしまう」


 要は「お前はなぜ言わないんだ」ということでしょうね。さらには「俺ならガツンと言うよ」「私ならはっきり言ってやる」と言いたいのかもしれません。

 このような意見をネットにて投稿されている方々が、リアルでも相手に遠慮なく物申せる人物であるか……それは疑わしい、と言わざるを得ないですね。

 まあ、その点に関してはひとまず置きましょう。私は、このやり取りを見ていて、いろいろ思ってしまいました。




 さて、皆さんが道を歩いていたとします。その時、小学生同士のケンカに遭遇してしまいました。ジャイアンのような少年が、のび太のような少年をボコボコに殴っている場面です。傍らには、スネ夫のような少年もいます。

 ジャイアンは、のび太を血まみれの状態にしながら、まだ殴り続けていました。スネ夫はというと、震えながら立ちすくんでいるだけです。

 あなたは、やめろと声をかけました。が、ジャイアンは無視して殴り続けています。放っておいたら、のび太は後々まで響く大ケガをするでしょう。下手すると、そのまま死亡するかもしれません。

 この場合、あなたはどうしますか。さすがに、相手が小学生なら止めに入れますよね。無理やり、力ずくで止めるしかないでしょう。

 その後、あなたは黙って見ていたスネ夫を叱りますか? 私は叱りません。スネ夫の立場になれば、ジャイアンに恐怖を感じるのは当然です。恐怖のあまり、何も出来なかったからといって、それを責めるのは間違いでしょう。


 では、これが中学生男子だったらどうでしょう。中学生のジャイアンが、中学生ののび太をボコボコにしているわけです。のび太は血まみれになっており、すぐに止めないと危険な状態です。

 この場合、力ずくで止めるのは、一般人には少々難しいですよね。ましてや、通りかかったのが平均的な体格の一般女性だったなら、力ずくで止めるのは無理ですよね。一般女性と中学生男子では、体格や腕力において、かなりの差があるわけです。

 この状況で、力ずくで止められないからといって、誰も責めることは出来ないでしょう。警察に通報するしかありません。しかし、警官が来るまでジャイアンはのび太を殴り続けます。物理的に止める力がない以上、この展開は避けられません。結果、のび太が死ぬ可能性もあります。だからといって、通報した人間に対し「なぜ止めなかったんだ!」と責めるのは間違ってますよね。


 口で言うこともまた、これと同じです。腕力のあるなしと同じく、言える人間と言えない人間がいるのですよ。腕力のある人なら、中学生のジャイアンを引きずり倒して止められたでしょう。しかし、普通の人には無理ですよね。

 注意することも同じです。嫌がらせに対し、毅然とした態度で注意する。無論、これを否定するつもりはありません。素晴らしいことであるのは間違いないです。

 かと言って、注意できない人間を責めるというのは……これは、ちょっと違う気がしますね。人には、出来ることと出来ないことがあります。

 ましてや、当事者でも何でもない上に細かい事情を知らない人間が、切り取られた一面的な部分だけを見て「情けないとか恥ずかしいと思わないの?」「こいつが注意しておけば……」などと言うのは、完全に間違っています。




 もうひとつ、知っておいて欲しいことがあります。

 かつて『課長 島耕作』という漫画がありました。サラリーマンのバイブル的な作品として大ヒットし、ドラマ化や映画化もされたそうです。

 この作品の中で、名場面(?)として評価されている話を紹介します。


 ある日、主人公の島耕作は上司の中沢と共に得意先を接待することになります。要は飲み会ですね。

 宴もたけなわとなり、得意先の面々は余興として、島に裸踊りをしろと言ってきます。ところが、島はムッとなって断りました。そのため、場にシラケた空気が漂います。

 その時、中沢が立ち上がりました。


「私、裸踊り得意です」


 などといいながら、裸踊りを始めました。場は、中沢のおかけで丸く収まったのです。

 その後、島は別の場で中沢に頭を下げました。


「自分がいかに底の浅い人間であるかを思い知らされました。サラリーマン失格です」


 対する中沢は、こう応えました。


「気にするな。久々にバカやって楽しかったぞ」


 そして中沢は、自身も若い頃に似たような体験をしたことを語り、最後にこう結びます。


「大学で学んだマルクスもケインズも、みんな吹き飛んじまった。これが男の仕事なんだ、ってな」


 これを読んだ時の私の感想は、あえて書きません。

 若い世代の方々に知っておいていただきたいのですが、昭和から平成にかけての時代は、この『課長 島耕作』をバイブル視していたサラリーマンが大勢いたんですよ。

 サラリーマンは、仕事となれば裸踊りでも何でもやる。それを拒絶するのは、底の浅い人間でありサラリーマン失格である……当時、新入社員はそのように教育されてきました。会社によっては、映画『フルメタル・ジャケット』の新兵訓練のごとき研修を、泊まりがけでやらせたりしたとか。ちなみに、私も仕事先で裸踊りみたいなものをやったことがあります。

 女性社員もまた、似たような教育を受けてきました。上司や顧客からのちょっとしたセクハラくらい、笑って受け流せ。それが出来ないようでは、社会ではやっていけない……こんな空気が、当然のごとく蔓延しておりました。

 そんな中で働いてきた社員たちは、パワハラやセクハラを我慢することこそ正義……という価値観を植え付けられてきました。いや、洗脳されていたと言っても過言ではないでしよう。

 今の時代、パワハラやセクハラは悪です。若い人たちは、そのように教育されていることでしょう。したがって、そうした行為を見れば注意できます(もちろん出来る人と出来ない人がいるでしょう)。

 一方で、以前の価値観を叩き込まれてきた人たちの中には、未だに切り替えられない人もいるのです。パワハラやセクハラを目にしても、注意することに二の足を踏んでしまう人もいます。

 そうした人たちのパワハラやセクハラを擁護する気はありませんが、なぜ彼らが切り替えられないのか……その理由の一端だけは、知っておいていただきたいなと思った次第です。はっきり言うと、ヤバい時代だったのですよ。

 なお、もう一度書きますが、彼らを擁護しているわけではないですからね。




 最後になりますが、かつてバスジャック事件が起きた時、ある女性学者がこんなことを言っていたそうです。


「大の男が揃っていながら、刃物を持った少年ひとりを取り押さえられなかったとは実に情けない。私は、この国の男は事件が起きても女子供を守ってくれないのだと感じた」


 この件に関しては、本作の百六十七話『男の弱さとバスジャック』の章にて語っているので、ここでは引用のみに留めます。

 ただ、冒頭に書いた旧ツイッターの件といい、切り取られた一部分だけを見て批判する人は、いつの時代も存在するようですね。







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― 新着の感想 ―
[一言]  問題を注意するのはいつの時代でも大事ですが、そのやり方は、時代や状況に合わせて変える必要があるのでしょう。  無謀な勇気は「蛮勇」と言い、時代に合わない考え方は「老害」と言うのでしょうね。…
[気になる点] でも、その場に佐藤十兵衛(喧嘩商売の主人公)とかが現れてジャイアンを叩きのめして、それをスネ夫が非難したり、警察にしたり顔で説明するのは間違ってますよね。 [一言] 質問ですが、とある…
[一言] 切り取られた一部分だけを見て(批判的な)感想が出てくる場合もたしかにありますが、調べたりほかの立場を想像することなく、ストレートに言い放ってしまうと、こんな感じになってしまうのでしょうね。 …
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