奢る人たち
最近、旧ツイッターにて「女性に奢るか奢らないか」という論争を見ました。
私は、この件についてとやかく言う気はありません。当事者が決めればいいことであって、それに他人が口を挟む必要はないでしょう。奢ろうが奢るまいが、どちらを選択するのも勝手だろうとしか言いようがないです。
ただ、ひとつだけ注意して欲しいことがあるのですよね。
ヤクザという人種は、人に奢るのが大好きです。特に、男女問わず若い人に奢るのが大好きです。おそらく、半グレを初めとした反社会的勢力に属する人種にも、この傾向はあるのではないかと思われます。
彼らは気前よく奢り、時には物をくれたりもします。私が若い頃にヤクザと食事した時のことですが、ヤクザ(便宜上ブンタとします)は突然こんなことを言って来たのです。
「赤井、お前は時計ないのか?」
言いながら、私の手首を指差してきました。
「はい。時間を知るだけなら、携帯あれば充分ですから」
私がそう答えると、ブンタはじろりと私を睨んできました。
「お前なあ、それで済まされるのは高校生までだぞ。二十歳超えたら、腕時計くらい付けるのは常識だ。でないと、相手にナメられるぞ」
「はあ、そうですか」
「そうですか、じゃねえんだよ。お前、そんなことも知らんのか。仕方ねえから、今度会ったら腕時計ひとつやるよ」
「えっ!? いや、その──」
「俺が前に使ってた奴だ。二十万くらいの物だから気にするな。いいか、二十代なら最低でも二十万、三十代なら最低でも三十万の腕時計を付けておく。これも常識だ。覚えておけ」
「は、はい、わかりました」
その後、私はブンタと会うことはありませんでした。したがって、本当に二十万する腕時計をもらえたのかはわかりません。ただ会っていたら、何かしらもらえた気はします。その代わり、私はヤクザの一員として犯罪に加担させられていたでしょうね。
ちなみに、ブンタの言っていた「二十代なら最低でも二十万、三十代なら最低でも三十万の腕時計を付けておく。これも常識だ」という言葉ですが……たぶん、バブル期の名残りではないかと。まともな社会での常識ではないと思います。もうひとつ付け加えると、私はその後も腕時計を付けたことはありません。
上に挙げた例ですが、ヤクザと食事をしたりすると、こういう申し出を受けるのは珍しくありません。
彼らは食事の時など、実に気前よく奢ってくれます。優しく接してきます。また「困ったことがあったら、いつでも言え」とも言ってきます。さらには、時計などをくれたりもします。
しかし、それらに惑わされ油断し付き合いを続けていると、いつかとんでもないことになります。ある日、呼び出しを受け「今日も何かもらえる」とホイホイ出ていったら、車に乗せられ事務所へと到着します。怖い人たちに囲まれた状況で「お前に手伝って欲しいことがあるんだ」と切り出され、犯罪に加担させられたりするのですよ。しかも、一度で終わり……ということはありません。今まで奢った分を、働かされることとなります。
これは、女性も同じです。ヤクザ映画では「風俗に沈める」などというセリフが出てきたりしますが、実は風俗の他にも仕事があります。たとえば、女性だと警官からの職務質問を受けにくい傾向があります。もちろん、されるケースもありますが、男性に比べると少ないようです。それを活かし、ヤバい物を運ばされることがあるようです。
事務所に連れて行かれ、怖い人に周囲を囲まれた状況で「ちょっと手伝って欲しいことがある」……こんな状況下に置かれたら、断ることなどまず不可能です。これは護身術にも言えることなのですが「最も大事なのは、危険な状況に陥らないこと」なのですよ。
得体の知れない素性で、やたら気前よく奢ってくれる人がいたら注意してください。ついでに言っておきますと、昨今の反社会的勢力の人たちは、昔と違います。刺青のない人は珍しくありませんし、指が全部そろっている人が大半です。昭和の時代は、かつて一世を風靡したピコ太郎のような服装をしたヤクザが闊歩していたそうですが……今は、あんな人はいてくれません。
一見すると一般人、しかしその実体は……という人が一番怖いです。とにかく、こういう人種には気をつけてください。




