口の軽い人
まず初めに、私が中学校に進学した時の話から書きます。
当時、その中学校にはふたつの小学校の生徒が進学していました。私のいたA小学校と、別の地区のB小学校です、そこで私は、B小学校から来た子たちと同じクラスになったのですが……そこで、B小学校出身の子たちがひとりの男子生徒をイジメていたのです。本人たちは、今で言うイジりをやっているつもりだったのでしょうが……まあ、ひどいものでした。殴る蹴るのような直接的な暴力こそなかったものの、いつもボロクソに言われイジられている姿を目の当たりにしていました。散々にからかわれた挙げ句、泣き出している姿を見たのも一度や二度では在りません。
そこで、バカな私が何をしたかというと……よりによって、担任の教師に言ったのです。具体的な名前を挙げ、あいつらが○○くんをイジメています、と。
その翌日……私は、B小学校出身のグループに呼び出されました。開口一番、こう言われます。
「赤井、てめえチクったそうだな」
そう……担任の教師は、こともあろうに私の名をグループに喋っていたのです。「赤井から聞いたんだけど、君たちは○○をイジメているの?」という感じで聞いたようでした。まさか、私の名前を出すとは……そこまで状況を読めない人間だとは、想像もしていませんでした。
それがきっかけとなり、私もそのグループにイジメられるようになりました。当時の担任だけは、未だに許せない気持ちがありますね。今、その教師(四十代から五十代の女性です)が目の前で通り魔に襲われ滅多刺しにされていたとしても、私は見なかったことにして通り過ぎると思います。
ちなみに、私がイジメから抜け出した時の話は、このエッセイの五十二話『私の中学時代』の章にて書きました。また、当時のイジメっ子と同窓会にて再会した時の話は百十一話『覚えてないという言葉』の章に書いております。
さて、世の中には口の軽い人がいます。秘密を守れないのか、はたまた地頭が良くないのか……そのあたりはわかりませんが、他人のみっともない姿を話したがる人が一定数いるのは間違いありません。
もっとも、知人同士で「知ってるか? 赤井の奴、小学生の時に教室でゲロ吐いたんだぜ」くらいなら、問題はさほど大きくありません(事実です)。
怖いのは、人のプライバシーに配慮しなくてはならない立場の人間の中にも、一定数そういう傾向の人がいるということです。
だいぶ前の話ですが、私は知人とともに某警察署へと行きました。知人が、警察署にて片付けなくてはならない手続きがあったためです。
私も、知人に付いて行きました。警察署の内部を覗いてみたかったのです。時間は、昼の三時前後でした。当然ながら、制服を着た警察官やスーツ姿の刑事がうろうろしています。また、我々と同じ一般人も数人いました。
そんな中、ひとりの刑事らしき人が入ってきました。黒縁メガネをかけた、故ハナ肇さんのような風貌の人でした。
そのハナ肇モドキは、知人の顔を見るなりデカい声で言ったのです。
「あれ? お前、見たことあるなあ!?」
横にいる私は驚きました。こいつ、何を言っているのかと……知人の方は、恥ずかしそうに会釈し答えました。
「あっ、どうも。昔、ここの署でお世話に……」
すると、刑事はさらに喋ります。
「ああ、やっぱりな! どっかで見たことあると思ったんだよ! お前、またなんかやったのか!?」
横で聞いている私は、おいおい……と思いました。周囲にほ、一般市民の方々もいる状態てす。そんな中で「またなんかやったのか」とは……確実に、マイナスの評価にしかなりません。しかも、その一般市民の中に知人の知り合いでもいたら、どうなることでしょう。それ以前に、個人情報については慎重に扱わなくてはならない時代に、こんな会話をしていいはずがありません。
知人はというと「いやあ、今回は違いますよ」などと言っていましたが……さすがに刑事の良識を疑ってしまいましたね。映画やドラマなどで、前科者が働いている職場に刑事が話を聞きに行き、周りから白い目で見られる……という展開がありますが、これは実際にある話なのかもしれません。
他にも、市役所に手当ての申請に行ったら、担当の職員に「あなたは精神病院に通っているんですよね! 大丈夫なんですか!?」などと大きな声で言われた人もいたそうです。当然ながら、手続きに来ている一般市民がいる前で、です。もっとも、これは二十年ほど前の話だそうで、個人情報にうるさい今となっては、さすがにないと思いますが……それでも、口の軽い人間は至るところにいます。本来なら、個人情報には気を配らなくてはならない立場であっても、平気でベラベラ喋ってしまう人がいるんですよね。気をつけてください。




