戦国自衛隊・1979年版~男たちの狂宴~
本文にて、戦国自衛隊のネタバレをしております。注意してください。
少し前、角川春樹さんの映像を久しぶりに観ました。相変わらず、こちらの世界て活動しつつも、あちらの世界でも活動されているようで……私のような凡人には、とうてい理解不能な境地にいるようです。知らない人の為に一応の説明をしますと、この角川春樹さんは「イッちゃってる人」なんですよ。詳しく知りたい方は「角川春樹 伝説」で調べてみてください。
そして先日、この角川春樹さんがプロデュースした『戦国自衛隊』(一九七九年公開版)を観てしまいました。やはり、色んな意味で凄いと思いましたね。というわけで今回は、映画版戦国自衛隊について語ります。
一応、ストーリーをものすごく簡単に説明します。伊庭三尉が率いる日本の自衛隊員たちが、ヘリコプターや戦車や装甲車といった兵器ともども戦国時代にタイムスリップしてしまいました。隊員たちは圧倒的な火力を持って、戦国武将らと戦う……というものです。
このあらすじだけ見れば、まさになろう作品そのものです。異世界転移した主人公が、チート能力で無双する……そんな展開を連想させますね。
私がこの映画に出会ったのは、小学生の時でした。テレビで放映されていたものを観たのです。幼い頃の赤井少年は、自衛隊が戦車やヘリコプターを使い戦国武将たちを圧倒する、そんな内容だと予測していました。
ところが……見終わった後は唖然となっていました。戦いの中で無残に死んでいく隊員たち、主人公であるはずの伊庭三尉の理解不能な言動、あまりにも呆気ないラスト……何なんだこれは、という印象でした。ただ、心にトラウマ級のインパクトを残したのも確かです。
この作品は、それから何度かテレビで放送されました。小学生の時、中学生の時、高校生の時……少なくとも三回以上は放送されており、毎回ではありませんが、二回もしくは三回ほど観た記憶があります。そして、ようやく理解できたような気がしました。
なお、もう一度書きます。この先、きっちりネタバレしております。知りたくない方はここまでにしてください。
この作品は、いろんな見方が出来ると思います。なので、以下はあくまで私の個人的主観による感想です。
まず前半の見所は、矢野という隊員ですね。この矢野は、かつてクーデターを企てたものの頓挫した経歴のようですが……戦国時代にタイムスリップしたことにより、そのクセの強さが爆発するのですよ。
矢野は登場直後から、隊長である伊庭に対し反抗的な態度を取っていました。何かにつけ個人プレーに走り、伊庭の命令を無視したりします。やがて子分の隊員と共に哨戒艇を乗っ取り、隊を離れてしまいました、
その後の矢野の行動は、なろう作品に出てくる悪役そのものですね。手下を引き連れ、付近の村を襲い女たちをさらいます。そうなると、やることはひとつですね。裸に剥いた女たちを哨戒艇に乗せハーレムを作ったりするわけです。用済みとなったら、容赦なく海に放り出したりもします。
当然ながら、伊庭は彼らの暴挙を黙って見てはいません。伊庭と矢野は、お互いの部下を率いて戦うことになるのです……この両者の対決が、前半の見せ場でしょうね。
この矢野を演じていたのが、故人となってしまった渡瀬恒彦さんです。一見クールでありながら、戦国時代にいち早く対応し殺人にも一切の躊躇がない……伊庭に真っ向から対抗できる強烈なキャラを見事に演じておりました。
余談ですが、渡瀬恒彦さんは当時の芸能界において、素手の喧嘩なら最強ではないか……といわれていたそうです。
この映画最大の見所は、自衛隊VS武田信玄による川中島の戦いでしょうね。
戦車や装甲車やジープ、さらにはヘリコプターまで使える自衛隊……いかに武田信玄といえど、勝ち目はないはずでした。実際、明らかに武田軍をナメきっているような言動も見られます。
ところが、いざ蓋を開けてみれば……予想もつかない展開が待っていたのです。
武田軍の武器は、圧倒的な物量でした。機関銃で撃とうが迫撃砲で吹っ飛ばそうが、仲間の死体を踏み付け次々と押し寄せて来る武田軍……まあ現実の戦いでは、仲間が銃で撃たれれば怯みますし、目の前で派手な爆発が起きたり爆音が響き渡れば、ビビって逃げ出す者が現れる可能性があります。さらに、ひとりが逃げれば恐怖が伝染し一斉に総崩れになることもありえます。
しかし、この作品の武田軍は逃げずに前進してくるのですよ。これは、ゾンビ映画の影響もあるのかもしれないですね。実際、観てると恐怖すら感じました。
武田軍の作戦は、人海戦術だけではありません。落とし穴に装甲車を落としたり、補給トラックに火をつけ爆発させたり、忍者に奇襲させたり……結果、ジープや戦車やヘリコプターといった兵器のほとんどを失ってしまいます。
こうなった以上、大将である信玄の首を捕るしかありません。伊庭は単身で本陣に乗り込み、信玄との一騎打ちを制し首を切り、どうにか勝利を手にしました。
一応、戦いには勝利したものの、自衛隊にはもはや何の力もありません。頼みの綱である近代兵器は全て破壊され、隊員も数名が残っているだけ……にもかかわらず、伊庭はこんなことを言うのです。
「俺は天下を取る」
この後、伊庭たち自衛隊員がどうなったかは皆さんの目で観ていただくとして……初めて観た時、幼かった私は「こいつ、何を言っているんだ?」と唖然となったのを覚えています。小銃や手榴弾くらいの武器と数名の隊員しか残されていない状況で、本気で天下を取る気なのだろうか……と。
その後、何度か観たのですが……この映画は、時代を描きたかのではないかと思うのですよね。より正確に言うと、時代に翻弄されていく人間たちを描いていた気がします。
川中島の戦いで、ワーッと押し寄せてくる雑兵たち……彼らは、当然ながら兵器の持つ価値など知りません。何億、いや何十億や何百億もする最新兵器が、集団の力の前に無価値なガラクタへと変えられていく……しょせん人間の作り出したものなど、時代という巨大な力の前には何の意味もないということだったではないかと。さらに、無知な大衆の集団の力により、本当に価値のあるものや才能ある人が潰されていく様を描いていたのかもしれません。
そう考えると、ラスト近くで伊庭が言い放った「天下を取る」というセリフは……時代の流れというものが完全に見えなくなっていた男の哀れさを描いていたような気もします。さらに、前半にて名もなき海賊のような生き方を選んだ矢野たちは、自分たちを取り巻く環境や時代の変化に、いち早く適応していた気もします。
ついでに言うと、ラスト近くの伊庭の姿は自衛隊に乗り込んだ三島由紀夫お被る気がするのですが、気のせいでしょうか。ちなみに伊庭を演じたのは、こちらも故人となってしまった千葉真一さんです。千葉さんの狂気あふれる演技には、凄まじいものがありました。
そうした部分を抜きにしても、この作品は観る価値はあると思います。とにかく、飛んでくる矢が痛そうなんですよね。また、殺し慣れした雑兵と自衛隊員の対比や、序盤から無駄撃ちの多い自衛隊の姿なども見所です。さらに、途中から自衛隊と行動を共にする謎の女(?)も面白い存在ですね。
蛇足になりますが、この作品の原作についても書いておきます。自衛隊員がタイムスリップした世界は戦国時代ではありましたが、伊庭たちの知っている歴史とは微妙に違う世界線でした。ところが、伊庭たちが介入したことにより、歴史にズレが生じていきます。
やがて、天下を取る間近で伊庭たちは配下の武将の反乱に遭い自害するのです。ラストにて、自身がこの世界線にて織田信長の役割を演じていたこと気づきながら死んでいく……という内容でした。
で、ふと思ったのですが……中世ヨーロッパ風の異世界に転生しチート能力を駆使して天下を取ろうとするも、腹心の部下に謀反を起こされ教会で自害……その瞬間、かつて戦った相手や協力した仲間たちのことを思い出し「ドイルは徳川家康、シコルスキーは豊臣秀吉、スペックは武田信玄、ドリアンは上杉謙信、そして俺は……織田信長だったのか!」と、自身がナーロッパで信長の役割を演じていたことを知る、という小説はないのでしょうか。あったら全米を泣かせることは無理ですが、全私が泣くと思います。




