ヤクザはいい人ですか?
ネットを見ていると、たまにこういう意見を目にすることがあります。
「私は看護師ですが、働いている病院にヤクザが来ました。優しくて礼儀正しくて、とてもいい人でした」
「今のヤクザは堅気の仕事をしている人も多く、犯罪とは無縁の人も少なくない」
「バイトしてる食堂にヤクザが来るが、礼儀正しくていい人」
「付き合ってみれば、ヤクザも同じ人間。いい人もいる。むしろ、半グレの方が危険」
なるほど、と思いました。こういう意見が、果たして多数派なのか少数派なのかは不明ですが、こういう考えの人かいるのは紛れも無い事実です。ヤクザ系のVシネマ、さらにはアニメ『極主夫道』や『組長娘と世話係』などといった作品の影響もあるのかもしれません。
人それぞれ、考え方はあるでしょう。また「リアルとフィクションを区別できない」という言葉がこの場合に当てはまるかについては、ひとまず置きます。ただ、私はこう言い続けますね。リアルのヤクザとは絶対にかかわらないでください、と。
言うまでもないことですが、どんな人間にも時と場合に応じた顔があります。範馬勇次郎にしろ、ハンニバル・レクター博士にしろ、アンドレイ・チカチーロにしろ、平時から悪人としての顔を剥きだしにしているわけではありません。
食堂で御飯を食べている時、あるいは病院で治療を受けている時には、彼らは善人の仮面を被ります。当然のことですね。そういった場所でイキるアホもいるにはいますが、そうした連中は実のところ大した害はないです。まあ例外はありますが、そのパターンについて今回は触れません。
ここからか大事なのですが……ギャップ萌え、という言葉があります。ヤンキーがいいことをすると印象がぐっと良くなる、という例のアレです。
実のところ、ヤクザはそのギャップ萌えを計算して動いています。世間の人に礼儀正しく接すれば、それがプラスに働くことをよく知っています。さらには、それをシノギに利用する人もいます。
聞いた話ですが、とあるヤクザ(名前はレオンとでもしましょう)は穏やかで真面目そうな風貌の持ち主であり、かつイジられキャラな雰囲気を醸しだしていたそうです。レオンに接する人は、最初は恐る恐るという感じで話をします。が、ヤクザらしからぬ穏やかさと、時おりイジられそうなリアクションをする姿を見ているうちに、そのギャップにやられ徐々に心を開いていきます。だんだんと、喋り方も変化していきます。さらには油断し、イジってきたり言わなくてもいいようなことを自分から言ってしまいます。
一方、レオンは話の内容をほぼ記憶しており、場合によっては録音もしているそうです。何のためかは、後にわかります。
やがて、相手は油断しきった挙げ句に、レオンの前で言ってはいけない一言を口にしてしまう瞬間が訪れます。「レオンさんみたいな人でも務まるなんて、ヤクザって楽な仕事ですね」「えっ、そんな失敗しちゃったんですか。うちの会社じゃクビですよ。レオンさん、よく小指付いてますね」というような、いわゆる「ヤクザをナメた」言葉です。
その瞬間、レオンは豹変します。ヤクザの本性を剥きだしにし、これまで言ってきた無礼な言動や、相手の弱みに関する発言などを全てぶちまけ「おい、どうすんだ。誠意見せろコラ」というお決まりの一言を発します。相手は突然の豹変と、弱みを握られていることにより、あっという間にレオンのペースに巻き込まれ、いいようにやられてしまいます。
これは極端な例ではありません。こうした手口をシノギの一環にしている人は少なくないそうです。
ヤクザは、基本的に犯罪で飯を食べている人種です。また、一般市民は利用するものとしか考えていません。私も、かつてヤクザと付き合ったことがありましたが……しょうもない用事(電話をかけさせられたり、人を呼びに行かされたりという類のことです)を何度もさせられました。その礼はというと「おう、ご苦労」の一言で終わりでしたね。身が持たないので、縁を切りました。
そう、ヤクザは他人には礼儀正しいですが、子分もしくは利用できると見なした者には容赦しません。徹底的にこき使います。ヤクザと個人的な付き合いがあったばかりに、ありえないような値段で仕事をさせられた業者は、いくらでもいるのですよ。ただ、こういう話はほとんど表沙汰になりません。
そんな人種が、食堂で御飯を食べたり病院で治療する姿を見ただけで「ヤクザは実はいい人」などと評するのは……目をつぶった状態で象の鼻に触れ「象は細長い蛇のような生き物です」というのと同じくらい偏った意見ではないでしょうか。
あと、ヤクザという人種は、基本的に自身のシノギについてベラベラ語ったりはしません。堅気の仕事をしている人もいるでしょうが、それは表向きの顔である可能性が高いかと思われます。不景気といわれて久しい昨今、ヤクザの看板を背負う彼らに、わざわざ仕事を発注する業者があるのでしょうか? また、見栄張りな彼らが堅気の仕事のみの収入で満足するかどうか……まあ、そのあたりの判断は皆さんに委ねます。
ひとつ断言できるのは、罪を犯していないヤクザは存在しません。「犯罪と無関係のヤクザ」というのは「実際に異世界に行った経験のあるなろう作家」と同じくらい、ありえない存在なのです。
最後になりますが、私が間違っている可能性もあります。「いい人」なヤクザも、中にはいるのかも知れません。ただ、そうした「いい人」なヤクザに出会える可能性よりも、「普通の」ヤクザに出会う可能性の方が遥かに高いのは間違いありません。普通のヤクザとは、すなわち一般市民を食い物にしている人たちです。
もうひとつ付け加えますと、ヤクザに限らず、犯罪者という人種には、外面が異様にいい人間が少なくありません。礼儀正しく真面目そうで謙虚な態度で、人当たりもいい………しかし、その外面に騙されて仲良くなろうものなら、その瞬間に態度が変わります。これは、DVやモラハラ傾向のある人間にも通じる部分ですね。




