暗黒時代
いきなりで恐縮ですが……私が十代の頃は、オタクに対する当たりが非常にキツい時代でした。
これは、やはり宮崎勤事件の影響が大きいと思われます。一九八九年に起きた連続幼女誘拐殺人事件ですが、犯人である故・宮崎勤(既に死刑が執行されております)の部屋には大量のビデオが保管されていたのです。部屋に入ったテレビカメラには、アニメや特撮やホラー映画のビデオばかりが映し出されていました。さらに当時のワイドショーでは、宮崎勤のオタク趣味について、これでもかとばかりに報道していました。
おかけで、当時はアニメや特撮を観るだけで、殺人鬼の予備軍と見られていたのです。既に小学校の高学年あたりから、そんな空気が流れていた気がしますね。「仮面ライダー観てる」などと言おうものなら「お前、勤くんになっちゃうぞ」などと言われ嘲笑される可能性が高かったですね。
しかも、親からの圧力もありました。アニメや特撮なんか観ていると「宮崎みたいになるぞ」などと言われました。
さらに、高校時代の私が付き合っていた連中は、ちょっと特殊でした。一般生徒ではなく、かといってヤンキーでもなく、分類の難しい人種だったのです。
まず、学校からしてバラバラでした。当時の我々は、同じ学校の同級生とつるむこと自体がバカバカしい……そんな風に思っていたのです。学校は学校、プライベートはプライベート、そんなスタンスでした。
これは、チーマーの影響も大きいですね。私の中学から高校の時は、チーマーの全盛期でした。彼らは一昔前のヤンキーとは違い、学校単位ではなく同じチームの連中との繋がりを重視していたのです。
そのため、チーマーは学校ではバカをやりません。しかし授業が終わると、パッとオシャレな私服に着替え夜の街に他校の仲間と繰り出す……私の周りでは、そんなスタイルが主流だった気がしますね。
私はチーマーではありませんが、そうした人種の影響を少なからず受けていた気はします。当時は、学校以外の世界をどれだけ知っているか、同級生以外の友達が多いかどうか、ということがひとつのステータスでしたね。
話がズレてしまいましたが、当時の私の周囲には、スカした連中が多かったです。そういう連中から見れば、本を読むとかアニメを観るという行為は恥じるべきものでした。
「何お前、本なんか読んでんの? へえ、賢く見られたいんだ」
「えっ、お前あんなアニメ観てんの? おおお、すげえじゃん。ついに第二の宮崎くん誕生だね。お前が逮捕されたら、友達としてワイドショーに出てやるよ」
こんな風にからかわれることは確実だったのです。しかも、それはゲームにも言えることでした。ドラクエやファイナルファンタジーをやってる……などと言ったが最後「ふーん、ああいうのが好きなんだ。怪獣とかと戦って世界を救いたいんだ」みたいな侮蔑の言葉が飛んで来るのは確定でした。なので、自分がそうしたものが好き……ということは、仲間たちには最後まで言えなかったですね。
本音を言えば、そうした趣味の友人が欲しかったですね。読んだ本について語り合ったり、ドラクエやファイナルファンタジーがどこまで進んだかにについて情報交換し合ったりしたいと思っていました。
また、当時の私の憧れはTRPGでした。雑誌などで存在自体は知っていましたが、周りにそんなものをやっている人間はいません。やってみたいな……とは思っていましたが、さすがにひとりでは出来ないですからね。雑誌でTRPGの四文字を見る度に、風俗店の看板を見る中学生のようなときめきを感じておりました。
そんな私が当時、友人たちと何をしていたのかと言えば……タバコを吸いながら麻雀したり、たまり場でしょうもないことを喋っているだけでした。喋る内容も、ひたすら共通の知人や芸能人や当時の流行り物をこき下ろしてばかりでしたね。
もし若い頃に戻れるなら、私は趣味の合う友達と出会いたかったですね。本やゲームやアニメについて語り合いたかったです。ついでに、TRPGなんかもやってみたかったですね。
蛇足になりますが、聞いた話によれば当時のTRPG界隈には「最強の賢者の血を引く超美形で超魔力を持った魔法戦士」「素手で戦い、ダイスの目によってはどんな敵でも指先ひとつで殺せる拳法家」みたいな、ルールを完全に無視したキャラを使いたがるプレイヤーが、どこのサークルにもひとりはいたそうです。昔も今も、チートキャラが好きな層はいたのですね。




