カメレオンの呪文~ラノベの古典的存在~
小説界隈では、作家の読書量が話題になることがあるようです。また、文章を見ただけで読んできた本の量や内容がわかると豪語する方もいたと聞きました。凄いですね。拙作に登場する殺人鬼ペドロさんに近いレベルの観察眼ではないかと思います。
実のところ、私の読書量は少ないですね。これまでの人生において、トータルで三十冊くらいしか読んでいない気がします。ひょっとしたら、二十ちょい程度かもしれません。
そんな私が、小説を紹介するというのは気が引けますが……まあ、たまにはいいでしょう。あまり話題にも上がらない作品ですし、若い人には縁遠い作品でもあります。
というわけで今回は、魔法の国ザンスシリーズの第一作目である『カメレオンの呪文』というファンタジー小説を紹介させていただきます。念のためですが、この作品のウィキペディアは見ないでください。盛大にネタバレしていますので。ちなみに、四十年以上前に書かれた作品ですが、シリーズは未だ続いているようです。もっとも、私が読んだのはカメレオンの呪文だけですが。
まずは、あらすじを書きます。魔法が当然のように存在する不思議な国・ザンス。文明は中世ヨーロッパくらいです。
ザンスで生まれた者は、ほとんどが特有の魔法を使うことが出来ます。ところが、主人公であるビンクは魔法を使うことが出来ません。おかげで、同じ年代の若者たちからはバカにされています。もっとも美しい幼なじみのサブリナは、彼をバカにしません。ビンクは、彼女に密かに想いを寄せています。
そんなビンクですが、二十五歳を迎えることとなりました。二十五歳を過ぎて魔法を使えない者は、ザンスを追放されるという掟があります。追放されたくないビンクは、己の中にあるかもしれない魔法の力を求め旅に出ました。
この時点で、どこかで見た話だと思いませんか? そう、少し前のなろうで流行った設定そのまんまなんですよね。無能、追放、ざまぁ……こういった要素は、一九七〇年代から使われていたのです。
話を戻します。道中、ビンクは様々な者たちと出会います。セントールのチェスターとチェリー、頭は悪いが絶世の美女ウィン、善い魔法使いのハンフリー、全てにおいてバランスの取れた女性ディー、目くらましの得意な魔女アイリス、気のいい幽霊たち、お世辞にも美女とは言えないが頭のキレるファンション、悪い魔法使いのトレントなどなど。
やがて、ビンクは自分が魔法を使えない理由を知るのです……。
以前、このエッセイにてドラゴンランス戦記というファンタジー作品を紹介しました。あちらは重くシリアスな内容でして、ギスギスした人間関係と血生臭い展開に満ちていました。種族間の争いなども描かれております。まあ、そこが魅力でもありますね。
このカメレオンの呪文は、ドラゴンランスとは真逆でして、かなりユルい感じで話が進んでいきます。そのあたりも、なろう作品と共通する部分ですね。一応、ビンクとトレントが剣で切りあったり、ドラゴンに襲われ命からがら逃げたりするシーンもありますが、緊張感はあんまり無いですね。もっとも、その緊張感の感じられないユルさが、この作品の魅力なのでしょう。
また、後半でビンクの秘密が明かされるのですが、誰もが「おいおい、〇〇じゃないんだから」とツッコミたくなることでしょう。この〇〇の中には、人によっていろんな作品名ないし主人公名が入ると思います。その挙げられた作品に、多大な影響を与えた作品なんですよ。少なくとも、とあるラノベの作者は絶対にカメレオンの呪文を読んでいたと思っています。
そしてラストにて、ビンクは上で紹介した女性キャラのひとりと結ばれます。ここに至るまでの伏線も、ちゃんと張られていたのですよね。このあたりは、見事だなあと感じました。
そんなわけで、このラノベの古典とも言うべき作品、読んでみると何かしら発見があるかもしれません。絶対に読むべき! とは言いませんが、気が向いたら覗いてみるのもよいかと思います。ひょっとしたら、有名作品のキャラの元ネタを見つけられるかも知れません。あるいは、創作のヒントになるかもしれませんね。ちなみに、このカメレオンの呪文が映画化されるという噂も耳にしておりましたが……その後、どうなったかは不明です。
最後に、このカメレオンの呪文と並び、現代のラノベや漫画やアニメに多大なる影響を与えていると思われる作品があります。クリストファー・ランバート主演の映画『ハイランダー』です。こちらも、いずれ紹介する予定です。




