ねほりんぱほりんと、スーパーハカーの続き
突然ですが、ねほりんぱほりんという番組をご存知でしょうか。
念のため説明しますと、Eテレにて放送されているトークバラエティーです。モグラのぬいぐるみに扮したふたりのタレントが、ブタのぬいぐるみに扮した訳ありなゲストを招き、訳ありな話を聞くという内容です。
少し前の話ですが、私が家に帰りテレビをつけたところ、この番組が放送しておりました。私は着替えたり持ち物のチェックなどをしながら、番組から洩れる声を聞くとはなしに聞いていたのです。
が、途中で聞き逃せない言葉が耳に飛び込んで来ました。んんん? と思い、次のエッセイのネタにしようと思っていたのです。
ところが、それから忙しくなり、すっかり忘れていました。そして最近になって思い出し、忘れぬうちに書いておこうと考えた次第です。
だいぶ前の話ですが、私はこのエッセイにて『スーパーハカー』という章を書きました。内容は、昔ハッカーが金融会社のパソコンに侵入しデータを消してくれるというデマが流れた、というものでした。二十年近く前に聞いた話です。ちなみに、件の章を書いたのは六年以上前でした。
それから年月は流れ、前述のねほりんぱほりんです。この番組の中で、自称・元ヤミ金がこんなことを言っていました。
「ハッカーを使って、街金とかで借りてる人の借り入れデータを消すんだよ。ゼロになってたら、また借りられるようになる」
聞いた瞬間、はい? と言ってしまいました。私が二十年近く前に、知人たちから聞いた話そのまんまです。ついでに、一応調べてみたのですが、ねほりんぱほりんにてヤミ金の放送があったのは二〇二〇年です。つまり、私が『スーパーハカー』の章を書いてから四年後に、この回は放送されたわけなんですよ。
別に私は「ねほりんぱほりんが俺のエッセイをパクリやがった」と言っているわけではありません。件の噂は、二〇〇三年から二〇〇五年あたりに聞いた話です(細かい年代はちょっと曖昧ですが)。しかも、全く別ルートの人間たちから聞いている話なんですよ。はっきり記憶に残っているのは三人です。住む場所も違い、接点もないはずの三人が、全く同じことを言っている……つまり件の噂は、業界では有名な話だったのでしょうね。一般人の私ですら聞いた話ですから、当時そっちの業界にかかわったことのある人間なら、誰もが一度は耳にしたことがあると思います。
ただし、詳しい話を聞いてみると「俺の友達の知り合いが、そういうビジネスをやっており手下のハッカーにデータを消させる」という、実にいい加減なものなんですよね。
昔、「俺の友達の知り合いの兄貴分が臓器売買のビジネスをやっている」などという話を数人から聞いたことがありましたが、よく聞いてみると皆「詳しいことは知らない」と言うばかりです。ハッカーの話も、それと同じようなものなのだろうと思っていました。都市伝説レベルの噂なのだろう、と。
それが今になって、まさかNHKの番組でこのハッカー話が聞けるとは思いませんでした。
正直、私はこのハッカー話を疑わしいと思っております。嘘と断定は出来ませんが、全てにおいてボヤッとした情報なんですよね。それに、今のところハッカーが逮捕されたとか、サラ金でデータが消されたとか、そんな話を聞いたこともありません。
さらに言うと、このハッカー話は流行りもののごとく一時的にあちこちを駆け巡った噂なんですよね。もし、本当にそんなハッカーがいるなら、今も噂を聞きそうなものなんですが……。
正直言うと、このハッカー話は「借りたデータはハッカーに消させてやるから、サラ金で金借りてこい。借りてきた額の半分をやるから」という詐欺……それが広まってしまったというのが真相ではないかと思っております。借りてきたはいいがデータは消えておらず、ひとりでまるまる借金を背負わされる……というパターンですね。
そんな又聞きレベルの話を、元ヤミ金が自身の武勇伝のようにベラベラ語り、ねほりんぱほりんのスタッフはそれを真に受けてしまったのではないでしょうか。
まあ、これまた断定は出来ません。ひょっとしたら、本当にデータを消せるハッカーはいるのかもしれません。何を信じるか、それはあなた次第です。




