エリート官僚の犯した罪に対する反応
気がつくと、このエッセイも一月ぶり……いや、それ以上ですね。他の作品を書くのに忙しく、こちらを更新する暇がなかったのですよね。まあ、最近は釣りやら炎上やら誹謗中傷などといったものばかりが、エッセイのランキング上位を占めているのですよね。そんなエッセイジャンルに、身と心を削り時には己のトラウマを引きずり出すような実話系の作品を投入する気になれなかったという理由もあります。今後は、さらに遅くなるでしょう。ひょっとしたら、そろそろ完結させてしまうかもしれないのであしからず。
さて、先日のことです。経産省のキャリア官僚ふたりが、詐欺容疑で逮捕されました。詳しいことはわかりませんが、実態のないペーパーカンパニーに給付金を支給させていたようですね。高い家賃のマンションに住み、高級な外車を乗り回していた派手な生活により警察に目を付けられたようです。
ただ、私はこの容疑者を非難する気はありません。むしろ、それに対する一部の人(であって欲しいですが)の反応に思うところがあるのですよ。
この事件に対し、私は「こいつらバカ」「得た金で豪遊するなんて逮捕してくれと言っているようなもの」「発想がチンピラと同じ」「しょせん高学歴の人間などこんなもの」というような意見を目にしました。
確かに、彼らのやったことは褒められたものではありません。愚かなことであるのも間違いないでしょう。ただ、忘れてはならないことがあります。容疑者のふたりは優秀な人間なんですよね。間違いなく、世の中の大半の人間よりも優秀な成績を残しているはずです。
そんな優秀なはずの人間が、何故にこんなバカなことをしでかしたのか……私は、そこに怖さを感じるのですよ。
急に派手な生活をし始めたら、周囲から怪しまれる……こんなことは、私のような愚かな人間でも知っています。彼らのような優秀な人間もまた、知識として知っていたはずです。にもかかわらず、彼らは高い家賃のマンションに住み高級外車を購入し、挙げ句に警察に目を付けられた……これは、金の魔力に憑かれてしまったとしか言いようがないですね。簡単に大金を手にし、その金で高級なものをばんばん購入していく。これは、麻薬のような効果をもたらすのかもしれません。大金を持ったことのない私にはわかりませんが。
あるいは、詐欺という犯罪をいとも簡単に成功させた体験が、彼らに得体の知れない万能感をもたらし「俺たちは、絶対に逮捕されない」という幻想のようなものに憑かれていたのでしょうか。
考えられる理由はいくつもありますが、確実なことは、彼らは優秀な人間であるということです。そんなふたりが、バカな罪を犯しました。そんな犯罪の報道を見て「あいつらはバカだから」という一言で終わらせるのは、ものすごく短絡的で簡単です。同時に、ものすごく危険な考え方である気がしますね。その根底には「自分は絶対に罪を犯さない」という根拠のない自信があるのではないでしょうか。
罪を犯すような人間は、自分とは全く違う愚かな人間である……そう決め付けることにより、自身が優秀で犯罪とは縁のない人間であることを確認し安心し、さらには優越感に浸れます。相手がエリート官僚なら、なおさらでしょうね。ただ、それは詐欺という罪を犯しながら、派手な生活を送り己を客観視できなくなった彼らと似たような罠に陥りやすい考え方である気がします。
とある元自衛官の方が、こんなことを言っていました。
「かつての日本軍は、バカな戦争をした。だが、これをバカな人間がやったこと、という一言で終わらせてはいけない。当時の軍部には、優秀な人間も大勢いたはずなのだ。その優秀な人間が、なぜバカな戦争を起こしたのか、我々はその点についてよく考えなくてはならない」
今回、官僚が起こした事件にも当てはまることだと思います。優秀なはずのエリート官僚であっても、こうした罪を犯してしまう……ならば、こうした罠にはまらないようにするには何をすべきか。少なくとも、自身もこうした罪を犯してしまう可能性があるのだ、という方向に思考を寄せていく方が有益でしょう。
蛇足になりますが、優秀な頭脳を持ちながらも金の魔力に憑かれ破滅していく人間……このあたりの心理には、非常に興味がありますね。じっくり考えて罪を犯し、その後も慎重に動いていたはずの人間が、やがて周囲から怪しまれるような金遣いをするようになる……この内面が徐々に変化していく様を描いてみたいですが、そもそも大金を持ったことのない私には無理ですね。




