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エッセイ書いたんだよ!  作者: 赤井"CRUX"錠之介


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恐怖の忘年会

 今年(二〇二〇年)は、コロナの影響により忘年会が軒並み中止となっているようですね。もっとも個人的には、非常にありがたかったりします。なにせ、私の呼ばれる忘年会というのが「では皆さん、ひとりずつ自己紹介と共に好きな体位を発表していってください」などと言うような人が幹事だったり、気がつくと全裸で踊ってるオッサンがいたり……というような集まりばかりなんですよね。はっきり言って参加したくないですが、社会人になるとそうもいかないのですよね。

 ところが、昨今のコロナ騒ぎにより、忘年会は中止という流れになっているようです。ありがたい話ではあるのですが、飲食業界には大きなダメージになっているようでして、手放しで喜ぶことは出来ないですね。

 さて、今回は……そんな忘年会嫌いの私が参加した中で、最悪の忘年会について語ります。なお、少しばかり事実とは異なる描写をしております。が、嘘は書いていませんので。




 それは、十年以上前の出来事です。当時、私は無職ニートでした。師走などと言いますが、当然ながらニートには師走も何も関係ありません。部屋でコタツに入りテレビを観ながら「なんだコイツら、すげーつまんねー」などと罵詈雑言を浴びせていました。すると、いきなり電話がかかって来たのです。誰かと思えば、小英でした。このエッセイの『ヤクザ屋さん』の章に登場したヤクザです。


「赤井、お前暇だろ? ウチの主催する忘年会に出ろ」


 有無を言わさぬ口調です。私は困ってしまいました。


「えっと、あの、組関係の人が出席されるんですよね? 僕みたいな組と無関係の人が出席していいんでしょうか?」


「いいんだよ。半分以上が堅気だから。服装にも気ィ使わなくていい。会費も払わなくていいから、とにかく来い。出来れば、友だちも二人くらい連れて来い」


 完全に命令口調です。私は、仕方なくはいと答えました。




 当日、私はひとりで会場へと向かいました。知人たちにも声をかけてみたのですが、皆「忙しい」「ヤクザの忘年会なんか行きたくない」と断られてしまったのです。

 会場に着いた途端、私は来たことを後悔していました。ヤクザ映画に出ているような服装の人はいなかったです。ピコ太郎みたいな格好の者もいません。

 その代わり、独特の異様な空気を発している集団が受付にて手続きをしていました。皆スーツ姿で、静かに談笑しています。「おお、久しぶり」みたいな声は聞こえるものの、忘年会に有りがちな浮かれた雰囲気は微塵もありません。私はビビりまくりながらも、受付にて手続きを済ませ、隅の方でじっとしていました。早く帰りたい、と思いながら。

 やがて、会場に通されました。どうも所属団体によって座る場所が決まっているらしく、受付の人間に案内されて皆が次々と席に着いていきました。私はというと、会場内に数人だけの堅気の人たちと同じテーブルに着きました。ちなみに会場のイメージはというと、どっかの中途半端なタレントがディナーショーをやる時に使う場所、というような感じでしたね。

 そして、忘年会が始まりましたが……これほどまでに面白くない、というか緊張した忘年会は初めてでした。酔って騒ぐ人など皆無です。ピリピリとした空気が支配している感じでしたね。ヤクザ同士でひそひそ話している人もいましたが、腹の探り合いという印象を受けましたね。

 地方営業の多い三流タレントもしくは仕事のないフリーアナウンサーという風貌の司会者が中央にて、マイク片手にずっと喋っていましたが、これまた何を言っていたのかほとんど聞いていません。どっかの組長さんや幹部とおぼしき人、その他の偉い人や聞いたこともない演歌歌手が司会者に呼ばれて中央に出て行って語ったりしてましたが、私はほとんど見ていませんでした。

 はっきり覚えているのは「これからも任侠道を極めていってください」などと言う司会者の取ってつけたような言葉と、隣の席にいたニューハーフのお姉さんにスキンヘッドを撫でられたこと、同じく隣に座っていたおじさんに「人数合わせで呼ばれたんだろ? 大変だな」と苦笑しながら小声で言われ無言で頷いたことくらいです。

 ようやく忘年会が終わり、私は逃げるように会場を出ようとしました。ドアの前には数人のヤクザらしき人たちがいて、外に出ようとしていたのです。が、なぜか足を止めました。何事かと思い、ふとヤクザの足元を見ると玄関マットがめくれ上がっていました。

 ヤクザの中でも、一番年輩の男がなぜか振り返って私を睨み、こう言いました。


「お前、これ直しとけ」


 そういうと、外に出ていったのです。私は「えっ? なんで俺が?」と思いつつも「はい」と答えて玄関マットを直しました。その後は真っすぐ家に帰り、とっとと寝ました。

 最後になりますが、ヤクザという人種と付き合うとロクなことはありません。こんな風に、しょうもないことをさせられた挙げ句「おう、ご苦労さん」の一言で終わりだったりします。付き合っても損するだけです。損するのが嫌な人は、かかわらないようにしましょう。






 



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― 新着の感想 ―
[一言] 恐怖の忘年会、なんだか既視感があるなあと思い、記憶を辿ってみました。……あれは高校生の頃です。クラスメイトに頼まれ、ある講演会の受付を手伝った時に、同じような思いをしたのです。 まず会場に…
[一言] いや、本当にやくざだのハングレだのとはかかわらないのが一番だと思います。
[一言]  真の恐怖の忘年会。  それは、コロナ禍でも逞しく行われる忘年会なのでしょうね……。  こんな時期でも、忘年会をやる所はやってますから……。
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