続・強盗だけはやめましょう
以前、このエッセイにて独居老人の家に営業マンが押しかけた時のことを書きました。それは、今年の四月のことでした。
それから半年が経ちますが……最近、ひとり暮らしの老人宅に強盗が押し入り、体をロープで縛り口を粘着テープでふさぎ現金を奪うという強盗事件が多発しているようです。まあ昭和の時代から、この手の事件は少なからずありました。昭和どころか、相手の持ち物を力ずくで奪う……という行為は太古の昔から存在していたのは間違いないでしょう。今さら騒ぐことではないのかもしれません。
ただ、昨今の強盗事件には気になるワードがあるんですよね。裏バイト、という単語が目に付くんですよ。どうやら、黒幕みたいな連中が「どこそこの家に行け」と指示を出し、金に困った人たちが強盗に入るようです。
私とて、絶対に「あちら側」の人間にならないとは言い切れません。むしろ、この御時世からして、いつ生活が破綻してもおかしくはないです。ただ、闇バイトの強盗だけはやりません。あまりに割に合わないからです。
以前にも書きましたが、強盗は五年以上の懲役刑です。百万円の被害額でも、窃盗ならば懲役一年半の執行猶予三年で済む(初犯の場合)こともあります。ところが強盗で百万円を奪ったとなると、恐らく求刑六年は来るでしょう。判決は、懲役四年半から五年半といったところでしょうか。もっとも、これより重くなることは充分に有り得ます。
ましてや、老人宅に押し入り粘着テープで縛り上げ……となると、強盗に傷害罪も付いて重くなります。最低でも、求刑七年は来るのではないかと。判決は、懲役五年以上にはなるでしょうね。
五年と一口に言いますが、人生の中の五年という歳月を刑務所で空費していいのでしょうか。ある人は刑務所について聞かれ、吐き捨てるような口調でこう答えました。
「人間のクズが行くところだよ」
別の知人は、こう言いました。
「人生を空費する場所。今まで生きて来て、あれほど無駄な時間はなかった」
また、見逃されがちですが……老人は、体が弱い人が多いです。襲われたショックで、心臓麻痺を起こす可能性も充分に有り得ます。ペースメーカーを使っている人など、突き飛ばされたショックで停まってしまうかもしれません。縛られ体の自由を奪われ、刃物を突きつけられたりしたら……恐怖のあまり、呼吸困難に陥るケースも有り得ます。
さらに、口を粘着テープでふさぐというのは、とても危険な行為なんですよ。鼻炎など起こして鼻がつまり鼻呼吸が出来ない状態だったら、口をふさがれた時点で息を止められたも同然です。その状態で放置すれば、確実に死を迎えるでしょう。
最悪、そのまま死んでしまったら、強盗致死傷罪で無期懲役もしくは死刑です。僅か数万から数十万の金のために、死刑になりたいですか? 私は嫌です。
闇バイトの強盗は、下手すれば死刑のリスクもある行為をやらされるんですよ。そのリスクを、きちんと説明しているのでしょうか。恐らくは、説明していないでしょうね。
そんな死刑のリスクもあるような恐ろしい行為を他人にやらせ、自分は手を汚さず安全地帯から上前をはねる……それが、闇バイトの黒幕の人間たちなんですよ。私なら、絶対にやりません。刑罰に対する怖さもありますが、それよりも顔も見たことのないような相手に利用された挙げ句、刑務所に行くのはごめんですので。




