公園でランニングしていた時のこと
昔、私は近所の公園でランニングをしていました。公園は一周が四百メートルから五百メートルほどあり、週に二回ほどスローペースで八周から十周走っていましたね。だいたい三十分くらいかかっていたので、時速六キロくらいの速度ですね。人の歩く速度が時速四キロ程度ですので、歩くより少し早いくらいの速度です。
公園を走っていると、信号で停められる恐れはありません。また、車や自転車などに気をつける必要もありませんが、思わぬトラブルに巻き込まれることもあります。
私は昔から、人間の女性と猫にはモテません。が、犬には妙にモテるんですよね。特に走っている最中は、犬の興味を引きやすいのでしょうか……鼻息を荒げ興味津々の顔で近づいて来るケースが、よくあったんですよね。
たいがいは飼い主さんがリードを引いて近づかせないようしてくれます。が、たまにリードを離してしまう人もいます。そうなると、犬は嬉しそうに追いかけてくるんですよ。「おい、お前。一緒に走ろうぜ」とでもいいたげな様子で、私の顔を見上げながら走るんですよね。まあ、可愛いものですが。私も犬は好きなので、嬉しかったりします。
が、飼い主さんは必死で追いかけて来たりします。「すみません!」などと言いながら。仕方ないので立ち止まると、犬も止まります……と思いきや、そのまま走っていってしまうことも少なからずありました。
まあ、犬ならまだいいです。一度だけですが、人間同士のトラブルに巻き込まれたことがありました。
その日、私はいつもの通りランニングをしていました。時刻は、確か二十三時半……以降だったように記憶しています。あたりは暗いですが明かりが設置されており、人の顔などは識別可能でした。
静かな公園内で走っていますと、突然とんでもない声が聞こえてきました。なんと言っているのかは不明ですが、獣の吠えるような怒鳴り声であるのは間違いありません。
私は何事かと思い、声の聞こえる方向に行ってみました。すると、外国人の女性と日本人男性とが何やら言い合っているのです。いや、正確に言うと……外国人女性が、日本人男性を一方的に怒鳴りつけているようでした。ちなみに、その外国人女性の外見は……バッタもののサルマ・ハエック(女優です。気になる方は調べてみてください)という感じだったと記憶しています。
これは、どうしたものか……と、私は困惑しつつ眺めていました。雰囲気からして、今にも手が出そうな勢いです。外国人女性は完全にエキサイトしており、ラップバトルでもしているような勢いで日本人男性のことを罵っているのです。もちろん、何を言っているのかはわからなかったですが、悪口を並べ立てているであろうことはこちらにも伝わってきました。
ほっといたら、外国人女性が先に手を出しそうな勢いです。そしたら、殴り合いになるのでは? 仮にそうなった場合、止めないとまずいよな……などと思いつつ、私は立って状況を見ていました。
その時です。外国人女性は、私の存在に気づきました。すると、彼女の攻撃の矛先は私に移ったのです。こちらを睨みながら、とんでもないことを言い出しました。
「オマエ! ナニミテル! コノヤロウ! コッチコイ! サッサトキエロ!」
こんなことを叫んだ……ように記憶しております。コッチコイとサッサトキエロは、明らかに矛盾しているのですが……私は唖然となりました。
一方、外国人女性は止まりません。私を睨み、何やら吠えながらズンズン近づいて来ます。すると、日本人男性が私の前に立ちました。
「すみません! 僕が悪いんです! 大丈夫ですから!」
泣きそうな顔で訴えながら、外国人女性を押し止めようとします。私は、仕方なくその場を離れました。
その後、走りながら何度か二人のそばを通りました。外国人女性は、少しずつ落ち着いてきているようでした。そこにきて、ようやく事態を飲み込めました。要は、ちょっと激しめな痴話喧嘩だったのです。あるいは、プレイの一種だったのかもしれません。
最終的には、仲直りできたようでして……私は、なんとなく負けたような気分でその場を離れました。以来、その公園を走らなくなりました。




