自粛期間中の出来事
これは、つい最近体験したことです。たいした事件ではないのですが、ちょっと驚いてしまいました。なお、あえて事実と異なる描写にした部分があります。
その日の私は、以前『停電』の章で登場したAさんのお宅にお邪魔していました。他愛ない世間話をしていた時のことです。時刻は、二時から三時の間であったように記憶しています。
突然、ドアホンが鳴りました。そこでAさんは、ドアを開けて訪問者と向き合います。私には、訪問者の姿は見えません。
が、私は唖然となりました。訪問者は、ドアが開くなり大声でまくし立ててきたのです。
「すみません! 私は※※(会社名を言っていたようですが聞き取れませんでした)のBです! どうですか、畳の交換をしませんか!」
いきなりの言葉に、Aさんはまごついているようでした。しかし、Bはお構いなしです。一方的に迫っているようでした。
「ね!? 何もしなくて、寝てていいから! ウチの人間が家具を動かして、パパッと替えちゃうから! 今だったら、格安ですむよ! ついでにコロナ対策の消毒もしとくから! ね!? ね!?」
男は、ハイテンションで喋り続けています。Aさんに、口を挟む隙を与えません。
私は、だんだん我慢していられなくなりました。こんな緊急事態宣言を出された時期にいきなり現れ、一方的に己の要求のみを押し付けてくる……あまりにも失礼です。それ以前に、このままだとAさんは押し切られた挙げ句、替えなくていい畳を替えることになるかもしれません。
そこで、私は顔を出しましたが……またしても、唖然となりました。目の前には、四十代から五十代のジャンパー姿の男がいます。とりあえず悪人には見えませんでしたが……マスクも手袋もしていなかったんですよ。七十を超える老人の家を訪れているというのに、何を考えているのでしょうか。
「すみません、今いそがしいので、帰っていただけませんか?」
私は、出来るだけ丁寧な口調で言いました。すると、男はペコペコ頭を下げつつ帰っていったのです。
その後、私はドアチェーンをかけておくように忠告しました。さらに、事前の連絡なくいきなり訪問しに来た者に対しては、絶対にドアを開けないようにも言いました。
この件ですが、今から考えると非常に怖い話なんですよ。コロナの感染以外にも、恐ろしい点があります。
独居老人のAさん宅に、何の連絡もなくいきなり訪れる。しかも名刺も何も出さず(まあデタラメの名刺はすぐに作れてしまいますが)、見積もりも何もなく、自宅に上がりこんで畳を取り替えようとしている……まともな企業のやることとは思えません。詐欺とまではいかないにしろ、それに近いものだった可能性が高いですね。
下手をすれば、Aさん宅にどかどか数人の男が侵入し、Aさんを縛り上げて「金を出せ」こんな展開になっていた可能性もあります。老人がひとりしかいないのであるなら、抵抗すら出来ないでしょう。
以前、アポ電強盗なる言葉をテレビなどでよく見かけた時期がありました。家に金があるかどうかをあらかじめ電話で聞いておき、押し込み強盗に入る……老人は、タンス預金をしている可能性が高いですからね。電子マネーなどとは無縁でしょうし。今回の業者も、強盗であったとしてもおかしくありません。
これからの時代、独居老人は増えていくでしょう。そうなると、犯罪のターゲットになる可能性も高くなります。詐欺まがいの商売や振り込め詐欺、さらには押し込み強盗などなど……。
とにかく、まずはドアチェーンをかける習慣とドアを開けない習慣を身につけてもらうことが大事ですね。今回の件で、私も初めて知りましたが……いきなり訪問してきた者に、一方的に大声でまくし立てられると、圧倒され何も言えず相手の言いなりになってしまうことがあります。我々ならば「帰ってください」と言えるかも知れませんが、ひとり暮らしの老人だと、何も言えないこともあります。特に、普段から会話をしていない人なら、なおさらですね。
ちなみに、私も念のため実家に電話してみました。怪しげな訪問販売は来なかったか、と。すると、一年ほど前に来たものの、二人で応対したらすぐに引き上げて行ったそうです。やはり、彼らのターゲットはひとり暮らしの老人のようですね。独居老人の名簿が、裏で出回っている可能性もあります。注意する必要があるでしょうね。




