停電
先日、ちょっと変わったことが起きました。大したことではないのですが、皆さんの近所でも、こういう事態は起きる可能性があります。
午後五時近くなった時、私のケータイに電話がかかってきました。相手はというと、以前に仕事の関係で知り合った人です。七十歳を過ぎており、都内のアパートでひとり暮らしをしている、いわゆる「独居老人」でした。子供はなく、親戚は離れた場所に住んでいるそうです。
何事かと思い出てみると、こんなことを言われました。
「すぐに来てくれ!」
かなり切羽つまった声です。私は、何があったのか聞いてみると……。
「ブレーカー落ちた! 家の電気が止まった!」
詳しく聞いてみると、いきなりブレーカーが落ちて家の電気が全て止まり、スイッチを入れてもすぐに切れる……とのことです。電力会社にも電話したが、来るのは三時間かかるとのことでした。電力会社の人が来るまで、いてくれないか……と言われたのです。
確かに、ひとり暮らしの老人にとって停電になったら一大事です。何もすることがなく、暗い部屋で途方に暮れるしかありません。私は、すぐさま向かいました。
到着した私は、暗い部屋へと入って行きました。住人のAさんは、困り果てた表情です。
懐中電灯をつけ、ブレーカーを見てみました。すると、確かに降りています。ブレーカーのスイッチを入れてみましたが、すぐに落ちました。
私は、電気関係の専門家ではありませんが……念のため、部屋ごとのスイッチを入れてみました。すると、キッチン周り以外は全てつくことがわかったのです。
「すみません、ブレーカー落ちる直前に何をしてました?」
聞いてみると、電子レンジでご飯を温めようとしていた……と言いました。見れば、かなり年期の入ったものです。今までは普通に使えていた……と言っていましたが、いつ故障してもおかしくない見た目でした。
そこで電子レンジのコードを抜いて、ブレーカーのスイッチを入れたところ、明かりはちゃんとつきました。他の部屋も、問題なく電気が通ったのです。
その後、電力会社の人が来たので、念のためブレーカーを調べてもらいましたが、異常なしとのことでした。やはり、電子レンジが原因でした。そこで、私がその電子レンジを引き取りました。後で、ゴミとして捨てることにしたのです。
わかってみれば、実に簡単だったのですが……これ、よくよく考えれば怖い点がいくつかあります。
まずAさんは、私が到着する前に椅子の上に立ち、ブレーカーのスイッチを入れようとしました。暗闇の中で、七十歳を過ぎ足腰の弱った老人が椅子の上に立つ……危険な状態であるのは明らかですね。椅子から落ちて、頭を打ち死亡していてもおかしくなかったでしょう。
そんな危険な状況で何とかトライしてみましたが、ブレーカーのスイッチは入りません。Aさんは仕方なく電力会社に電話しましたが、来るのは三時間後でした。コロナで家にこもらねばならない時に、停電し明かりもつかない家で待っていなくてはならないのです。これは、ひとり暮らしの老人にとって心細い状況です。Aさんはいろいろ考えた挙げ句、知り合いに電話をかけてみました。結果、たまたますぐ近くにいた私が駆けつけましたが……誰も来なかったら、電力会社の人が来るまで三時間近く停電状態のまま放置されていることになったのです。
ちなみに、Aさんは隣近所とは付き合いがなく、隣の家に何者が住んでいるかも知りませんでした。介護サービスのようなものも受けておらず、週に一度看護師が自宅を訪れ健康診断をするだけです。それ以外は、基本的に誰も訪れない状態のようです。
しかも、Aさんはまだガラケーが使えたからよかったですが、ガラケーすら使えない老人もいるらしいのですよ。仮に、ガラケーを使えない独居老人が停電状態になったら、果たしてどうするのでしょう。隣近所との付き合いもなく、電力会社に電話も出来ない……これ、非常に危険な状態ですよね。
さらに付け加えますと、あと数年でガラケーは使えなくなります。Aさんは「スマホは嫌だ」と言っていましたが、このままだと、そうも言っていられなくなるでしょうね。
独居老人、特にケータイを持っていない人には注意が必要です。ブレーカーが落ちただけでも、彼らにとっては一大事なんですよ。我々なら、簡単にスイッチを入れられます。が、老人は暗闇の中ひとりでスイッチを入れなくてはなりません。挙げ句、事故に繋がる可能性も大です。
若い人たちは、独居老人について考えたこともないでしょう。しかし、地域できちんと取り組んでいかねばならない問題なんですよね。これから、独居老人の数も増えていくと思いますし。ひとり暮らしの老人には、最低限スマホだけでも持って欲しいものです。




