とっても嘘っぽい都市伝説
私の十代の頃は、今のようにネットが盛んではありませんでした。信頼できそうな情報源といえば、テレビ、新聞、雑誌、本……といったところでしょうか。それ意外となると、もっぱら口コミでした。
その口コミですが、当時は怪しい情報があふれていました。
「昔、大ヒットを飛ばした一発屋歌手の〇〇が、ハローワークで泣いていた」
「パチンコ台の〇〇という機種は、実はある操作をすると大当りが止まらなくなる。裏の世界の資金源になってるらしい」
「この前来日した外国人ミュージシャンの〇〇は、実は偽物。本物は、ドラッグのやり過ぎで極秘入院し来日できなかったらしい」
「ジャニーズの◯◯が、数人のチンピラとモメて拉致され、身代金を要求されたことがあった。その時、某広域指定暴力団が動いて◯◯を解放したらしい。拉致したチンピラは、その後行方が知れなくなったって話だ」
こんなわけのわからない都市伝説が、当時はあちこちで飛び交っていたのです。上に挙げた噂は、全部嘘でしょうね……確認はしていませんが。
今回の話も、そうした都市伝説のひとつです。はっきり言って、信憑性は欠片ほどもありません。なので、どっかのスポーツ新聞のエロい投稿体験談と同レベルの話だと思ってください。「こんなこと、あるわけねえだろ。バカだなあ」とツッコミながら読んでいただければありがたいです。私は、自分で空想したことを「実話ですがなにか?」などと言い張るほど面の皮が厚くありませんので。
これは、私が高校生だった時の話です。
当時、地元からさほど遠くない町の商店街に、違法なカジノがある……という噂が流れていました。カジノというより、賭場といった方が正確でしょうね。
その賭場はギャンブルだけでなく、とんでもない金利で金も貸しているという話でした。ただし、返せない場合は……どこかの国に連れて行かれ、内臓を取られてしまうという噂も流れていたのです。
臓器売買……裏の世界を描いた作品には、かなりの高確率で登場する言葉ですよね。馳星周や新堂冬樹などの書くノワール作品には、ちょいちょい出てくる単語です。かつては某消費者金融の人間が、取り立ての際「内臓売ってでも金作れ」と言い社会問題にまで発展したとか。
そんな臓器売買が、私の住んでいる地域の近くにて行われているとは……これは大事件です。私は好奇心から、どこにあるのか聞き回ってみました。が、見つかりません。仮に実在していたとしても、私なんぞにおいそれと見つけられる場所にはないでしょうね。
さて、この臓器売買ですが……恐らく、そういう組織は実在するのでしょう。ただ、実際に手を染めている人間は見たことがないですね。刑務所を出た連中にも聞いてみましたが、実際に臓器売買の商売にかかわっていた……という人間は、ひとりもいなかったようです。「知り合いの知り合いに、臓器売買のビジネスをやってる奴がいたらしい」という話くらいしか聞かないんですよね。
事実、ヤクザにも臓器売買の業者について聞いてみたことがあるのですが「聞いたことはあるけど、実際に会ったことはない」とのことでした。まあ、私の聞いた人物はチンピラに毛の生えたレベルですが……確かなことは、どっかの消費者金融の一社員が、おいそれと連絡を取れるような存在ではなさそうです。
ですから、この臓器売買もまた都市伝説に近い部分があるでしょうね。そもそも、臓器を摘出するには……ひとりの医師では出来ません。数人の口の堅い医師と、それなりの設備が揃った病院が必要でしょう。それらを用意できるのは、裏社会でもかなり上の人間でしょうね。
仮にどこかのチンピラが、多額の借金抱えたおっさんを連れて来て「こいつの内臓を買ってくれ」などと言ったところで「何を言ってるんですか?」と返されるのがオチでしょうね。
ここからは余談ですが、かつてPS2が発売された直後「PS2は、外国人に五倍の値段で売れるらしいぞ」という都市伝説がありました。真相を確かめるべく、私は当時ヤバい仕事をやっていた知人たちに聞いてみましたが、これまた「聞いたことはあるけど、実際に会ったことはない」とのことでした。
後にわかったのですが、PS2は兵器に転用可能な部品が使われているとかで、輸出が制限されていたのです。そこから、件の都市伝説が生まれたのでしょうね。




