留置場と拘置所のつらさ
カルロス・ゴーン氏が保釈中に日本を出国してから、そろそろ二十日になります(二〇二〇年一月二十二日の時点)。恐らくは、もう捕らえることは出来ないでしょう。
私は、ゴーンさんのやったことを擁護する気はありません。ただし、警察の取り調べや留置場および拘置所の処遇に関しては……ゴーンさんの言い分にも一理あると思っております。
以前にも書いた通り、私は喧嘩で警察にて取り調べを受け、留置場で一泊しました。
まず留置場ですが、あれはひどかったですね。狭い部屋に数人の男を無理やり押し込め、一日中放置しておく……この時点で、受刑者に対する処置に近いものがあります。また、会ったばかりの他人と狭い部屋で寝食を共にするというのは、人見知りの人には地獄でしょう。
まあ、私は一日だけで済みましたが……検事に起訴され被告の立場になると、裁判が終わるまで、この留置場で数ヶ月過ごすこともあるそうです。留置場で数ヶ月過ごすのは、本当にキツイそうです。狭い部屋の中で出かけることも出来ず、やることと言えば同じ部屋の人間と話すか、本を読むくらいしかありません。時間が過ぎるのが、異様に遅く感じられるそうです。
シャバと刑務所を何度も行き来しているような人になると、留置場の中で「早く刑務所行きてえよ」などとぼやいているとか。
ちなみに、私が留置場で一泊した時のことです。留置場担当の警察官に「大丈夫か?」と小声で聞かれました。私が「慣れないもので……」と答えると「こういう場所はな、慣れちゃいけないんだよ」と真顔で言われました……。
取り調べが一通り終わり、起訴が済むと拘置所に移送されます。ただ、この移送される時期は人によって違うらしいんですよね。すぐに移送される者がいるかと思えば、なかなか移送されず留置場で裁判を受ける者もいるとか。余罪があると思われている者は、移送されるのがかなり遅いようです。留置場に留め置かれた状態で「お前、なんか隠してることないのか? あるなら、ここで全部吐いちまった方がいいぞ」「なんかいい話ないのか? あるなら教えてくれよ」などと言ってくるとか。
そのあたりの事情はさておき、都内で罪を犯して逮捕され起訴されると、いずれは東京拘置所に移送されます。この東京拘置所は、かなり厳しいと聞きました。
留置場では、寝転がっていても怒られません。一日中寝ていても、係の警察官から注意されたりはしません。ところが東京拘置所は、寝転がっていると容赦なく注意されるそうです。規則も厳しく、いろいろ禁止事項があるようです。係の人間の口調も横柄で「おい、お前何やってんだ」「一度しかいわねえから、よく聞け」などという口調で接してくるとか。被告という、推定無罪のはずの人間に対する態度としては……褒められたものではありません。
また十年くらい前までは、拘置所に入る際に肛門までチェックされたとか。「ケツの穴広げて見せろ」みたいなやり取りがあったそうなんですよ。受刑者ならともかく、被告という立場の人間にこれはどうなんでしょうね……もっとも、現在はどうなのか不明ですが。数年くらい前から刑務所では、俗にいう「カンカン踊り」(全裸になり刑務官の前で両手を上げたり片足を上げたりする動き)も廃止されたと聞いていますので、拘置所での肛門チェックも廃止されたかもしれないです。
ちなみに、留置場では全裸のチェックはなかったですね。一応、入る前に警察官にボディチェックされただけです。もっとも、これも警察署によって違うのかも知れませんが。
さらに、ゴーンさんの場合は独房に入れられたそうですが……東京拘置所の独房は、もはや囚人の扱いらしいです。
まず凄いのが、房内のトイレに壁がないことですね。聞いた話によれば、室内に洋式の便器があり、その横に腰の高さくらいまでのついたてがあるだけだとか。受刑者ならともかく、この処遇を被告の段階で課すのは……ちょっと理解不能ですね。
また、周囲には頭のおかしい者も多いとか。一日中、ひとりでブツブツ呟く声が隣の房から聞こえてきたりするそうです。このあたりについては、『東京拘置所の恐怖』の章を見ていただいた方が早いでしょう。
さらに、独房は夏は暑く冬は寒いそうです。特に冬の寒さは異常で、とある知人は室内だというのに、ありったけの服を着こんでいたとか。
東京拘置所の独房に入れられると、室内で自由に寝転がることも出来ず、トイレに壁もない部屋での監禁状態にされます。周囲を頭のおかしい奴に囲まれ、冬は寒さに震えながら、狭い部屋でたったひとり耐えなくてはならない……推定無罪の人間に対する処遇としては、あまりにもひどいですよね。この点だけは、私はゴーンさんと同意見です。




