エリシャと熊についての考察
※念のため書きますが、真面目な考察ではありません。空想科学読本のノリで読んでください。
最近、聖書について書かれたエッセイを読みました。
私はクリスチャンではなく、聖書についてあまり詳しくありません。幼い頃に『十戒』という映画を観て、サムソンが暴れたり、ダビデが巨人ゴリアテ(三メートルを超えていたそうです)をスリング(革製の石を投げる武器)で倒すなどといったシーンが印象に残っている程度です。
さて、聖書というと……個人的には、十戒よりも預言者エリシャのエピソードの方が印象的です。幼い頃に読んだ本に載っていたのですが、エリシャがとある地方を旅していたところ「ハゲ!」などと、子供たちにからかわれました。怒ったエリシャは熊を召喚し、子供たちは食われてしまうという話です。読んだ直後、なんてひどい話なんだと思いました。いくらなんでも「ハゲ!」と言われただけで子供を熊に食い殺させるなど、悪魔の所業に思えたからです。
冒頭にも書いた通り、私は聖書に関するエッセイを読みました。その時にエリシャの話を思い出し、念のためネットで調べてみたのです。すると、恐ろしい事実が判明しました。エリシャが熊に殺させた子供は、なんと四十二人だったのです。
まずは、ウィキペディアに載っている件の事件を紹介しましょう。
エリシャはそこからベテルに上った。彼が道を上っていくと、町から小さな子供たちが出て来て彼を嘲り、「禿げ頭、上って行け。禿げ頭、上って行け」と言った。エリシャは振り向いてにらみつけ、主の名によって彼らを呪うと、森の中から二頭の熊が現れ、子供たちのうちの四十二人を引き裂いた。
なんと恐ろしい話なのでしょうか。四十二人の子供が、熊に襲われ死んだのです。三毛別羆事件よりも恐ろしい事件です(気になった方は調べてみてください)。これは、もはやホラーですね。いくらなんでも、やり過ぎだろ……と言わざるを得ません。
しかし、そこで疑問が生じました。死者四十二人という人数は、普通ではありません。エリシャに向かい「ハゲ」と言った子供が四十二人もいたのでしょうか。ちょっと釈然としないものを感じます。
そこで、私は考えました。恐らく、預言者エリシャが町の近くを通るということは、だいぶ前から噂になっていたのではないかと。
「おい、この辺りにエリシャとかいう預言者が来るらしいぞ」
「預言者? どんな奴だよ?」
「よく知らんけど、なんか凄い奴らしいぞ」
「本当かよ。じゃあ、みんなで見に行こうぜ」
こんな話があちこちで飛び交い「ハリウッドスターが俺たちの町で映画の撮影するってよ」というような勢いで、周辺の町や村からも子供たちが集まってしまったのでしょう。
ところが、いざ本物のエリシャを見てみると、髪の毛の薄くなった冴えない男です。期待に破れた子供たちは、ひそひそと言い合いました。
「おい、あれが凄い預言者なのかよ」
「全然凄くないな」
「ただのハゲじゃん」
「おう、ただのハゲだよ」
やがて、ひとりのお調子者がエリシャに向かい「ハゲ」と言いました。恐らくですが、エリシャはそれを無視したのでしょう。「バカな子供の言うことだから」と、相手にせず先を急ぎました。
ところが、そうなると図に乗るのが子供という人種です。怒られないと知るや、子供たちは口々にハゲハゲ言い始めました。さらに、あちこちから別の子供が集まって来ます。やがて四十人を超える群集となり、「ハゲ頭よ、上れ!」という罵りの合唱が始まってしまいました。
一説によれば、この「上れ」という言葉は「天に上れ」すなわち「死ね」という意味を持っていたそうです。つまり「ハゲ死ね!」という言葉だった可能性もあるようなんですね。
言葉の意味はさておき、子供とはいえ、四十人以上の敵意を剥きだしにした者たちが追いかけて来る状況は、昔のアメリカ映画に出てくるリンチのようなものでしょう。子供たちは、二〇一八年のハロウィンで渋谷にて軽トラをひっくり返した若者たちのごとき勢いだったのではないでしょうか。これは、身の危険を感じたとしても不思議ではないでしょう。さらには、石くらい投げた子供もいたかもしれません。
そこでエリシャは、自分の身を守るために熊を召喚したのかもしれません。そうやって考えていくと、今も昔も暴走する若者はいたのでしょうね。さらに、そうした若者への教訓めいた話として、このエピソードは語り継がれているのかもしれませんね。もっとも一番の教訓は「熊怖い」ですが。




