やめる人、やめられない人
先日、タレント(?)の田代まさしが覚醒剤の使用所持で逮捕されました。これで、五度目の逮捕だそうです。
ただ私は、彼を糾弾するつもりはありません。罪を犯した人間を裁くのは、国が決めた機関です。ここで書きたいのは、昔に比べ今は薬物を入手しやすくなっている……ということについてです。
以前にもこのエッセイで書きましたが、昔は違法な薬物を手に入れるのには、それなりの手順が必要だったそうです。まずは、売人に連絡しなくてはなりません。
ところが、この売人という人種は……ちょいちょい連絡が取れなくなるそうです。まあ、当たり前ですよね。売人から薬物を買っている人がひとりでも逮捕されれば、あとは芋づる式です。あっという間に蔓を手繰られていき、売人へとたどり着いてしまいます。結果、逮捕されてしまうわけですよ。
売人が逮捕されれば、ほとんどの場合は供給元が断たれます。薬物を手に入れることが出来ません。そうなると、否応なしにやめることになるわけですよ。
もちろん、彼らとて最初は他のルートを探そうとはしてみます。が、そう簡単には見つかりません。繁華街をうろうろし「すみません、薬物の売人知りませんか?」などと聞くわけにもいかないですよね。十年以上前の渋谷センター街には、外国人の売人がたむろしている一角がありましたが……見知らぬ外国人に話しかけるというのは、かなり高いハードルですよね。ちなみに、今はもういませんので。
事実、私の周囲にいたポン中の中には、馴染みの売人が逮捕されたのを機にやめた人もいます。
ところが、今は売ってくれる人間を簡単に見つけられるんですよ。
これまた前に書いたことですが、今はスマホさえあれば、簡単に売人を見つけることが出来ます。キーワードとなる隠語を検索すればいいのですから。
以前にツイッターでその隠語を検索してみたのですが、いるはいるは……本当に唖然となってしまいました。「配達は応相談、お気軽に連絡してください」「ただいまキャンペーン中! お安くしますよ! 本日は終電まで営業中!」などといった文言が飛び込んで来るんですよ。はっきり言って、罪を犯しているという後ろめたさがまるで感じられません。むしろ、メルカリのようなフリマアプリのごとき雰囲気なんですよね。これには驚きました。
さらに、掲示板もあるんですよね。「郵送もOK!」「上質です! 一度お試しください!」などと書かれている画面を見ると、何かの通販サイトなのだろうかという錯覚すら覚えてしまいます。
聞いた話ですが、薬物を断つためには、以前の人間関係を全てリセットするように言われるそうです。昔の仲間と付き合っていると、ついつい薬物の話などしてしまったりすることがあります。そこから記憶が蘇り、また薬物を始めてしまうことがあるとか。さらには「どうだ、またやらねえか?」などと、そのものズバリな誘いの電話をかけて来る者もいます。そのため、以前の人間関係を断つように指導されるそうです。
ところが、今の時代はスマホさえあれば、簡単に薬物関連の情報を知ることが出来ます。売人と連絡を取ることも可能です。昔に比べると、その手順がずいぶん楽なんですね。かつての人間関係を断つだけでは不十分なんですよ。
ちなみにに、ダルクに入所するとスマホ禁止になるという話も聞きました。どのくらいの期間なのかは知りませんし、全ての施設がスマホ禁止なのかは不明ですが……今の時代、それはそれで問題ありな気もします。難しいところですが。
最後になりますが、以前にこのエッセイの『薬物を止める瞬間』の章にて「大麻を吸引すると統合失調症を発症しやすい遺伝的因子を持つ者がいる」という学説を紹介しました。この学説が、正しいかどうかはわかりません。ただ、薬物にハマる人間にも個人差がかなりあるんですよ。本作に何度も登場しているゴステロの変わりようは、本当に凄まじいものがありました。刑務所に入る前は、薬物とは無縁の生活を送っていたのに……薬物を始めた途端、二年ほどの間で「床から電波攻撃される」などと言い出すようになったのです。今どうしているかは不明ですが、まともな社会生活を営めてはいないでしょうね。
止められる人と、止められない人との違い……これは、まだまだ研究の余地がある気がします。仮に遺伝子レベルの問題だとしたら、これまでとは別のアプローチの仕方があるのかもしれません。




