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エッセイ書いたんだよ!  作者: 赤井"CRUX"錠之介


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『クロウ 飛翔伝説』 当時の厨二病を熱狂させたカルト映画

 今年(二〇一九年)のハロウィンは、去年と比べて平和だったようですね。もっとも、多少の騒ぎはあったようですが……まあ、たまに騒ぐのはガス抜きにもなるし、いいとは思います。私は、その騒ぎに加わろうとは思いませんが。

 さて、そんなハロウィン関連の映画といえば……そのものずばりな『ハロウィン』なんてタイトルのホラー作品もあったりします。が、今回は『クロウ 飛翔伝説』(一九九四年)という映画を紹介します。この映画は、ブルース・リーの息子であるブランドン・リーの遺作であり、有名ではありませんが……続編がいくつも作られているカルト作品なのです。二〇一八年にも、リメイクの話があったとか。企画の段階でポシャってしまったようですが……。

 実は、十月三十日の深夜(三十一日未明)に沖縄の首里城が火災に見舞われた、という事件が起きまして、この映画を思い出してしまったのですよ。まあ、確実に無関係ですが不思議な偶然ですよね。




 

 ストーリーを簡単に紹介します。

 舞台は、荒廃した近未来都市デトロイト。この街では、ハロウィンの前日が「悪魔の夜」と呼ばれ恐れられていました。この日の夜になると、悪党たちが一斉に暴れ出すからです。あちこちに火を放ち、喧嘩や略奪が繰り返されていました。

 札付きのチンピラであるティーバードと三人の仲間たちは、そんな悪魔の夜にとあるアパートの一室を襲撃します。中には、ロック歌手のエリック・ドレイヴンと、その恋人であるシェリーが住んでいました。ティーバードたちはエリックをアパートの窓から突き落とし、シェリーを暴行した挙げ句に凌辱しました。エリックは即死、シェリーも三十時間の集中治療の甲斐なく死亡します。

 それから一年後の悪魔の夜に、エリックは不思議なカラスの力により、不死身の肉体を持つ超人クロウとして蘇りました。エリックは、悪党たちに次々と復讐していくのです──


 この作品の魅力はといえば、やはり主人公のエリック=クロウでしょうね。白塗りの顔にピエロのようなメイクをほどこし、黒い革のロングコートにギターを背負い、肩にカラスを乗せ、不気味な笑みを浮かべながら次々と悪党を葬っていきます。しかも、殺した後は死体のそばにクロウの印を残していくのです。特にティーバードを仕留めた直後、オイルでクロウの印を描き、そこに火をつけるシーンは印象的ですね。さらに、革のコート姿で二丁拳銃を乱射したり、教会の屋根の十字架を引っこ抜いて切りあったり……厨二病の少年たちの妄想を、ガチで映像化したような感じでしたね。

 こんなクロウの姿は、当時の厨二病の少年たちを痺れさせました。かくいう私も、そのひとりです。噂によれば、公開から二十年以上経つ今でも、アメリカではクロウのコスプレをする中学生がいるとか。有名なアニメやゲームのキャラの中にも、このクロウに影響を受けたものは少なからず存在すると思われます。

 そんな主人公を演じたブランドン・リーですが、当時の彼を取り巻く環境がどんなものだったのか、私にはわかりません。が、客観的に見てよいものでなかったのは間違いないでしょう。

 カンフーアクションで一時代を築きながらも、若くして亡くなったブルース・リー。その息子であるブランドンも、最初はカンフーを主体としたアクションを武器に、映画に出演していました。

 ところが、当時のアクション業界には……シルベスター・スタローンとアーノルド・シュワルツェネッガーという二大巨頭がいます。さらに、スティーヴン・セガール、ジャン・クロード・ヴァンダム、ドルフ・ラングレン、ウエズリー・スナイプスといった筋骨隆々でガチの格闘家俳優たちが台頭してきていた時代でもあります。彼らに比べると、もともと線が細いブランドンは明らかに見劣りしていました。

 そんな中、『クロウ』にて主演することになったブランドン。他のアクション俳優の筋骨隆々な体では、クロウを演じるには不向きでした。彼のエキゾチックな風貌、細身だがしなやかな体つき、激しいアクションが可能な運動神経……全てが、クロウにぴったりでした。

 ブランドンは、この作品では得意のカンフーアクションを全て封印し、クロウ流のアクションを見せています。「これまでで最高の役だ」と本人は語っていたとか。


 この作品は復讐劇です。地獄から蘇り、復讐のために殺戮を繰り返す不死身の超人クロウを中心に、ストーリーが展開していきます。このクロウ、一歩間違えればホラー映画に登場するモンスターのようなキャラになりかねないですが……演じたブランドンの役作りと、撮影した監督アレックス・プロヤスの手腕により、哀しみを帯びたダークヒーローへと昇華されています。時おり映し出される寂寥感に満ちた街の風景や、要所要所で使われている音楽にも素晴らしいものがありますね。この監督、以前にはロック歌手のプロモーションビデオやCMの制作に携わっていたとか。その後は、ダーク・シティやアイ・ロボットといった作品を撮っています。

 あと、この映画を語るにあたって外せないのが、ラスボスのポジションであるトップダラーですね。クロウにもひけを取らない存在感を放つ大物ギャングであり、「哀れなるティンティン(クロウに殺された手下)に黙祷を捧げよう!」などと言いながら、大量のコカインを一気吸いする怪人物です。ハロウィンの前日の夜には「俺たちに習わしを変える力はあるか!」などと大勢のギャングたちに演説し、「面白いから」という理由で部下に放火を命ずる狂気のキャラなのですよ。不死身の超人であるクロウに興味を抱き、彼を殺すために日本刀のような刀剣を手に戦いを挑むのですが……この戦いの結末は、是非ともあなたの目で確かめてください。

 ちなみに、映画評論家のおすぎは「クロウは、映画を超えた映画」と評していたそうです。さすがに、それは言いすぎだろうと突っ込まざるを得ませんが。バランスを取るために反対の意見も書いておきますが、ある作家は「ストーリーには独創性がなく、空疎な映画」と酷評していましたので。

 この後『クロウ』には次々と続編が作られました。が、あまりヒットしなかったようです。一応『2』は観ましたが、印象的なシーンがひとつもなかったですね。主人公にも、今ひとつ魅力が感じられませんでした。ミュージシャンのイギー・ポップが出ているようですが、見所はそこだけでしょうか。ドラマ版はアクション俳優マーク・ダカスコスが主役を演じているそうなので、観てみたい気はします。




 あまり誉め過ぎて、ハードルが上がりすぎても困るので、このくらいにしておきたいところですが……最後に、これだけは書いておきたいです。

 偉大なるブルース・リーの息子として、俳優デビューしたブランドン。ところが、当時の彼に与えられた役は、ほとんどがカンフーを用いたアクションを要求されるものであり、ひいては父の劣化コピーでした。映画そのものも、B級以下のものばかりです。私のようなバカ映画好き以外には知られていないものばかりでした。正直、バカ映画好きの間でも、彼の出演作品はあまり評価は高くなかったかもしれません。ドルフ・ラングレンと共演した『リトル・トウキョー殺人課』という怪作は一部では有名ですが、これまたバカ映画好きなマニアだけが知っているというものでした。

 さらに、当時ブランドンが紹介される際には「ブルース・リーの息子」という言葉が付いて回ってもいました。彼は、ブルース・リーというビッグネームから逃れられずにいたのです。ブランドン自身、その事実に悩んでいたものと思われます。

 しかし、このクロウに出演することにより、ようやく父の劣化コピーという殻を破ることが出来たのです。ひょっとしたら、ブランドンはこの映画を機に、全く別の路線の俳優へと飛翔していたのかも知れません。本当に、飛翔伝説の始まりとなっていたのかもしれないのです。

 ところが、そうはなりませんでした。この父と息子は、悪魔に取り憑かれていたのでしょうか……ギャングとの銃撃戦のシーンを撮影中、空砲に混じっていた実弾による銃撃を受け、ブランドンは死亡しました。享年二十八歳、早すぎる死です。しかも、これから大きく飛翔しようとしていた時だっただけに、残念でなりません。今では、ブランドン・リーの名前を知る人も少なくなりました。この先も「ブルース・リーの息子」としてしか認識されないのでしょうね……。

 ブランドンは撮影中、こんなことを語っていたそうです。


「もし僕が死んで一年してから戻るチャンスを与えられたとしたら、それを誰と共有するだろう? 会いたい相手は? 会いたいとしたら婚約者のイライザだろうね。この撮影が済んだら、結婚することになってるんだ。エリックについてひとつ言えることがあるとすれば、彼の場合は生き返っても生を共有したい相手がいなかった。それが、エリックというキャラに絶えずつきまとう悲劇的な要素になった」







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