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エッセイ書いたんだよ!  作者: 赤井"CRUX"錠之介


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おっさんヤクザの末路

 以前に私は、おっさんでデビューする人のことを書きました。今回は、その実例を紹介します。恐らく、本人にしかわからない何かの事情があって、そっちの世界に足を踏み入れてしまったのでしょうが……なんでそうなるの? と聞きたい気分です。




 カンさん(仮名です)と知り合ったのは、かつての友人イーサンを通じてでした。イーサンとは、『半端は駄目だ』の章に登場した男です。彼はやたらと交遊関係が広く、あちこちに知り合いがいたんですよね。実際、イーサンは人懐こくて年上の人から好かれやすい男でしたので。

 話をカンさんに戻します。カンさんは、埼玉にある寮付きの建設会社で大工をしていました。当時、既に五十近い年齢だったでしょうか。詳しい年齢は聞いていないですが、四十過ぎていたのは間違いないですね。

 カンさんは、ちょっと気が荒くて乱暴な感じの人ではありましたが……とりあえずは、真面目に働いているようでした。それに、現場系の人たちは、乱暴なタイプが多いですからね。私はさほど警戒もせず、連絡を取り合う仲になっていました。当時はニートでしたし、暇だったので。



 ある日のことです。カンさんから、私のケータイに電話がかかってきました、何かと思えば、こんなことを言って来たのです。


「俺、〇〇〇〇に入ったからよ」


 〇〇〇〇とは、日本屈指の暴力団に所属している二次団体の組織名です。そっち関係にうとい私ですら、名前だけは知っています。そんな組織に、カンさんは入ってしまったんですよ。

 私は、唖然となりました。仕事もあり、ちゃんと真面目に働いていたのに、ヤクザになってしまうとは。しかも、四十歳を過ぎてからの転職(?)です。何を考えてそんなことをしたのか、全く理解不能です。

 しかし、カンさんは得意げでした。「俺は、天下の〇〇〇〇だからよ。困ったことがあったら、俺に言え」などと言っており、私は適当に受け答えして電話を切りました。直後に、困った人だ……と、大きなため息を吐いたのを覚えています。


 その後も、二月に一度くらいのペースでカンさんから電話がきました。内容はというと「誰かと揉めたら、すぐに俺に言え」「俺は天下の〇〇〇〇だぞ。誰が相手でも怖くねえ」などといった大人げないものです。私は「そ、そうですか。凄いですね」などと適当に言っていました。

 ところがです。ある日、カンさんから電話がかかってきました。その内容はというと、とんでもないものでした。


「赤井、俺は〇〇〇〇を辞めたぞ」


 それを聞いた時、私はホッとしました。やっと現実に気づいて、ヤクザから足を洗ったのだな……と。しかし、よくよく聞いてみると違っていました。どうやら、夜逃げのような形で逃げて来たようなのです。

 カンさんいわく、今までずっと運転手をやっていたが、殴られてばかりでいい思いをしたことがないし、金も儲からない。だから、兄貴分に黙って逃げて来た。

 さらに続けて、こう言いました。


「このことは、誰にも言うなよ。イーサンにもだ」


 それから数日経った日のことです。またしても、カンさんから電話がきました。遠くに逃げるから、金を貸してくれ……とのことでした。当時の私は文無しでしたので、すみませんが金はありませんと答えました。すると、こう言いました。


「そうか。じゃあ、最後に残った千円で、久しぶりに風呂入るよ」


 それが、カンさんの最後の言葉でした。以来、彼とは会っていませんし連絡も取っていません。




 こんなことは今さら書くまでもないですが、カンさんは何かとんでもないことをしでかしてしまい、追われる身となってしまったのでしょうね。いい年齢になってから、ヤクザなんかに転職すると……ろくなことにならないのは確かですね。それにしても、何があったかは知りませんが、四十過ぎてヤクザになった挙げ句に、これまで築いてきたものを全て失い逃げる羽目になるとは……もう、何も言えません。











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