自称ヤクザ
先日、こんな言葉を目にしました。
「自分は、インテリヤクザだからなあ」
見た瞬間、私は苦笑しました。この手の人は、どこにでも現れるんですね。本当に困ったものです。世の中には、未だにヤクザ映画なんかも作られていますから……ヤクザに憧れる人もまた、未だにいるのでしょう。本物のヤクザにはなりたくない、でもヤクザの持つ不良性には憧れる……まあ十代の頃ならともかく、いい歳してそんなことを言っているのは、かなりイタイですね。
ちなみに本物のヤク中は、自分のことをヤク中とは言いません。恐らく、本物のインテリヤクザも自分のことをインテリヤクザとは言わないと思います。私はインテリヤクザの知り合いはいないので、断言は出来ませんが。
さて、私の友人知人たちの中には、刑務所に入っていた者がいます。彼らが入っていたのはAの刑務所ですが(その後Bに入った者もいます)、その中にも、自称ヤクザがいたらしいんですよね。少なくとも十人にひとりくらいはいたと言っていました。
ここでもう一度、説明しますが……Aの刑務所というのは、いわゆるカタギの初犯が行く刑務所です。取り調べの結果、ヤクザと何の関わりもない純粋な初犯であると見なされた者が、Aの刑務所に行きます。ヤクザもしくはヤクザと関わりのある者、もしくは再犯はBの刑務所に行きます。要するに、Aの刑務所にはヤクザはいないはずなんですよ、本来ならば。
しかし知人の行っていたAの刑務所には、ヤクザと称する人間がいたそうです。いわく「俺は〇〇会の企業舎弟(平たくいえば一般の仕事をしているヤクザ)だ。ヤクザだけど警察を騙してAの刑務所に来た」とか、「俺はヤクザだけど、検察と司法取引してAの刑務所に来た」などと吹聴していたとか。
「その人たちは、本物のヤクザなんですか?」
と私が聞いたところ、知人は知らないと言いました。というより、刑務所の中では確かめようがない、と。これ、なんだかネットで武勇伝を語る人たちに似てますね。まあ、大半が嘘でしょう。司法取引できるような大物が、Aの刑務所なんかに送られるとは思えません。それ以前に「司法取引した」なんてことをベラベラ言っていたら、確実にまずい立場になるでしょうし。
ここから先は、私の想像ですが……こういう人たちは、塀の外でも嘘の武勇伝を語っていたのでしょう。「俺、ヤンチャしててよう」「俺はヤクザの組長にスカウトされた、とんでもないワルだぜ」というような武勇伝を語っていたのでしょうね。一般人にそうした武勇伝を語ることにより、注目を集めていた……というより、マウントを取っていたのでしょうね。
ところが刑務所では、そんな武勇伝など通用しません。なにせ、周りは犯罪者ばかりですから……そんな中でマウントを取ろうと思ったら、Aの刑務所にはいないはずのヤクザを持ち出すしかありません。
ちなみに、Bの刑務所よりAの刑務所の方が早く出所できる……という噂があるそうです。真偽は不明ですが、初犯の方が仮釈放をもらいやすいのは確かなようですね。ただ、検察と司法取引できるような大物が、仮釈放をもらうために身分を偽りAの刑務所に行き「俺は本当はヤクザだけど、司法取引してAの刑務所に来た」などと吹聴する……カッコよくないのは確かですね。
刑務所の自称ヤクザはともかくとして、我々のような一般人に向かい「俺はヤクザだ」などと吹聴する人間の大半は……まあ、大物でないのは間違いないでしょうね。こんな人間とかかわっても、損するだけで得にはなりません。『武勇伝を語る男』の章に登場した与太郎などは「俺はヤクザに顔が利く」などと吹聴してターゲットに近づき、あちこちの人間から金を騙し取っていました。ここまでいかなくても、マウントを取りたがる人間であるのは間違いないですから。
少なくとも私は、カタギでありながら「自分、インテリヤクザだからなあ」などと臆面もなく言えるようなイタイ感性の人間とはかかわりたくありませんし、近づきたくもないです。
ついでに言っておきますと、私は作品の中にヤクザや犯罪者を登場させています。が、不良性のあるカッコいいキャラとして書いているつもりはありません。どうしようもない卑怯者のクズか、人間をやめてしまった極悪な怪物として書いているつもりです。




