ヤンキーの歩む道
私の生まれ育った地域は、どちらかというと治安のよくない場所でした。
公園では、ヤンキーの中学生がタバコを吸いながらしゃがみこんでいます。私の友だち(小学生)は、そんなヤンキーにタバコを吸わせてもらい「俺、タバコ吸ったぜ。不良になったよ」などと自慢してました。
路地裏に入ると、明らかにヤバい雰囲気のおじさんたちが昼間から徘徊しています。さらに時おり、制服姿の警官が数人がかりで路地裏に踏み込んでいき、おじさんを連行している場面にも遭遇しました。
そんな中で、私は成長しました。周囲には、まともでない経歴の人間もいます。その大半が、今は連絡が取れませんが。
そんな者たちですが、今ではほとんどが世の中の底辺を蠢いています。昔はヤンキーだったけど、努力して夢をかなえ大物になった……そんな人は、まずいません。確率的には、ヤンキーにならずにコツコツと努力してきた人が大物になる方が圧倒的に高いです。こんなことは、いちいち書くまでもないことですが。
ところが世間では、昔ヤンキーだった人間が成功すると……マスコミなどで取り上げられやすいですね。これまた、いちいち書くまでもないことですが。日本人には、ヤンキー好きな層がいるのは間違いないですね。
しかし、忘れないでいただきたいことがあります。その陰には、ヤンキーがきっかけとなって本格的なチンピラやロクデナシの道を歩み……そして破滅していった人間が、その数万倍いるのです。
私が十代や二十代の頃につるんでいた連中は、その九割以上が今は連絡が取れません。逮捕されて刑務所に行ったり、ヤバい連中に睨まれて行方不明になったりしました。うち二人は、新聞などで死亡を確認していますが「あいつ死んだらしいぜ」という噂を聞いた者もかなりいます。
ちなみに、私はなぜそちらの方向に行かなかったのかと言いますと……運が良かったから、としか言いようがありません。私と彼らを分けるものは、ほんの些細な差です。私は、彼らより優れていたわけでも倫理観があったわけでもありません。にもかかわらず、彼らと同じ道を歩まずにすみました。
度々このエッセイに登場しているスミスは、私よりずっと真面目な人間でした。喧嘩早い部分はありましたが、他の連中と比べるとずっとまともです。にもかかわらず、刑務所に行っております。
私は彼が逮捕された時、留置場に面会に行きました。しかし、逆に私が逮捕されスミスが面会に来る……そんな事態になっていた可能性も、ないとは言えなかったのです。
ですから、私は世の中のお父さんやお母さんが子供の交遊関係に口うるさくなるのも、今になると分かる気がするんですよね。
幼い時から手のつけられないワルガキで人格的にも異常なサイコパスであり、後に成長して裏社会の住人になった……こういうパターンも、なくはないです。しかし大半は、幼い頃は普通の少年なんですよ。それが、些細なことから小さな悪事に手を染め、道を少しずつ逸れていき……気がついたら、他の者とはまるで違う地点に来ていた。これが、大半の犯罪者なんですよ。
しかも、日本の更生施設は更生よりも隔離に重点を置いています。仮に、まだ若く罪を犯したような者たちを隔離し、閉ざされた環境に入れておいたらどうなるか……ほとんどが、入る前より悪くなります。
こうした負のスパイラルにハマるのを防ぐには、やはり最初の一歩が重要でしょうね。難しいところですが、人間はいきなり悪くなったりはしません。最初の僅かなズレを、親が見逃さない……これは大事です。
かといって、あまりにも過剰に保護された環境にいると……そういったものに耐性がないまま育ち、いい年齢になってから薬物にハマったり犯罪に巻き込まれたりするケースもあります。人間、ほどほどが大切なんでしょうね。もっとも、そのラインを見極めるのも非常に難しいですが。
蛇足ですが、かつて元ヤンキーという経歴の女性タレントが「ヤンキーは友だちを大切にするんで」などと言っていました。この言葉は、嘘ではないかもしれないですが、真実でもありません。私の知る限りでは、大半のヤンキーは警察に逮捕されると、自己保身のためにあっさりと友だちを売ります。
書き終えてふと思ったのですが、ヤンキーという言葉はまだ通じるのでしょうか。ひょっとしたら、もう死語になっているかも知れないですね……。




