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エッセイ書いたんだよ!  作者: 赤井"CRUX"錠之介


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とある作家の人生

 最近、ある本を読みました。

 作者は、かつてヤクザでした。人生の半分近くを刑務所で過ごしましたが、縁あって若者たちを更生させる活動を始めます。作者は盛り場を歩き、たむろしている若者たちを見かけると、親しげに声をかけていきました。ヤクザだった人生経験を活かし、大勢の若者たちと向き合い、時には厳しい言葉もかけながら、若者たちを見守っていきます。

 本には、様々な若者たちの人生模様が描かれていました。付き合っていた仲間の影響から、薬物依存となった少女。喧嘩に明け暮れ、荒んだ生活から足を洗い格闘家となった青年。幼い頃から問題児で、将来はヤクザになると決意している少年……などなど、実に多種多様な少年少女が登場しています。

 そんな少年少女たちと、作者は交流していきます。本の中には、実に多くの写真が掲載されていました。ニコニコしながら、写真に収まっている若者たち。その横では、こわもての作者も控えています。

 本は、こんな文章で締めくくられていました。この一年で、自分の元には千件の相談が寄せられた。これまでの人生で、さんざん馬鹿をやってきた自分だからこそ、残りの人生は少年少女たちの更生に命をかけてもいい……と。

 実に立派な生き方だと思います……この作者が、実際にどのような末路を迎えたのかを知らなければ。




 既にお気づきの方もいるでしょう。この作者は「夜回り組長」としてマスコミに取り上げられた石原伸司です。何冊もの本を出し、テレビにも出演しました。さらには、彼の半生をモチーフにした映画も作られたそうです。

 石原は社会からドロップアウトしヤクザになり、挙げ句に罪を犯し刑務所に入れられていました。まさに、ドン底と言っていいでしょう。しかし、石原はドン底からの大逆転に成功したわけです。

 ところが、またしても石原は転落してしまいます。二〇一七年、簡易宿泊所にて男性を殺害し腕時計を奪いました。さらに二〇一八年には、公園で別の男性とトラブルになり、刃物で切り付けた直後に川に飛び込み溺死しました。

 ここからは、ネットで調べた情報ゆえ真偽は不明ですが、石原は以前に資産家の女性と交際していたそうです。毎晩のように豪遊していた、とも書かれています。ところが、件の女性と別れてから、石原の転落が始まりました。昔の仲間やマスコミに「金を貸してくれ」という内容の電話を頻繁に入れていたそうです。「三千円でいいから」という切羽詰まったものもあったとか。さらには、いらない服を知人に送り付け「買ってくれ」などという押し売りのようなことまでしていたそうです。

 実際に何があったのか、私にはわかりません。ただ、この末路は残念だとしか言いようがないですね。ヤクザになり、刑務所に入った……ここから先は、ほぼ同じコースを皆が辿るんですよ。しょうもない罪を繰り返して刑務所の常連客になり、最期は野垂れ死にです。大半の犯罪者が、このルートを辿りますね。

 石原は、このルートを避けられたはずなんですよ。作家という肩書を持ち、夜回り組長なる異名もある……それらを上手く活かせば、食いつなぐことは可能だったのではないでしょうか。

 最悪、仕事がなかったとしても……生活保護で細々と生きていくことは出来たはずです。たまにネットなどで「生活保護もらうくらいなら犯罪やる」などとうそぶく人がいますが、これはとんでもない話です。犯罪をやれば、確実に自分以外の誰かに迷惑をかけることになるんですよ。犯罪やるくらいなら、役所の人間に土下座してでも生活保護をもらって欲しいです。少なくとも、支給してもらうための努力はしてほしいですね。

 話がズレましたが、石原はドン底にいたにもかかわらず、そこから一度は抜け出ることに成功しました。犯罪者には、特有の負のスパイラルというものがあります。罪を犯して刑務所に行き、長い懲役生活の末に出所したが職に就けない。さらに社会にも馴染めず、挙げ句にまたしても罪を犯す。そして、最期は野垂れ死に……このスパイラルに一度はまり込むと、抜け出るのは非常に困難です。

 石原は、このスパイラルから抜け出ることに成功したはずでした。作家として本を出し(ゴーストライターがいたにせよ)、マスコミにも取り上げられテレビにも出演しました。

 ところが、最期は多くの犯罪者と同じ末路を辿ったのです。人を殺して時計を奪い、さらに公園で人に切り付ける……著書で「喧嘩で刃物を使うのは弱い奴のすることだ」と書いていた石原。しかし、その弱い奴のすることを彼はやりました。

 挙げ句、川に飛び込み溺死……この時、彼は何を思っていたのでしょうか。最後の最期に、やっと今の己の惨めさに気づいたのでしょうか。せめて、人を殺す前に気づいて欲しかったですね。




 私は石原の人生を見るにつけ、本当に残念な気持ちになります。なぜ、こんな末路を辿ってしまったのか……と。多くの前科者たちは、自身の前歴を隠し世の中の底辺でひっそりと生きています。ところが、石原は己の前歴を武器に名声を得ました。なのに、またしても転落……彼のしくじりの分岐点がどこにあったのかは知りませんが、一度は人生のドン底を見て、その怖さや惨めさを体で理解していたはずなのに。

 最後になりますが……私は、石原という人間は好きにはなれませんが、嫌いにもなれないですね。何度も言って申し訳ないですが、彼に対しては残念という言葉以外、私には何も言えません。






 





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― 新着の感想 ―
[一言] 資産家の女性と一緒になって贅沢三昧を覚え、そこからハードルを下げることができなかった、あるいはすべてを失うかもしれない恐怖に耐えられなかったことがその作家さんの一因になったのかもと考察しまし…
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