マッドマックス2の話
今回は、映画『マッドマックス2』について語ります。先日、テレビ東京の『午後のロードショー』にて久しぶりに放送されていましたが、改めて観てみると感慨深いものがありますね。なお、今回はストーリーに詳しくは触れません。この作品が、私の周囲ではどのような評価を受けていたかについても語ります。
マッドマックス2。
この作品を初めて観たのは、小学一年か二年生の時でした。当時は夜の九時になると、ほぼ毎日どこかの局で映画が放送されていたのです。本来ならば、幼い私は寝ていなくてはならなかったのですが、その日はなぜか夜遅くまで起きていても何も言われませんでした。
で、私は最後まで観たのですが……その日は、異常に寝付きが悪かったことを覚えています。ものすごいものを観てしまった、その衝撃に頭と心を鷲掴みされていました。
実際、マッドマックス2は私がそれまでに観たことのある作品とは一線を画していました。重苦しい声のナレーションで始まり、全てが朽ち果てた砂漠の世界で展開される非情な物語。凶悪な暴力集団との戦いの果てに、次々と死んでいく仲間たち。そんな中、もっとも異色(当時の私にとって)だったのは主人公のマックスでした。
マックスは、劇中ほとんど喋りません。必要なこと以外は口を開かず、表情も変わりません。敵であるモヒカンの大男・ウエズやホッケーマスクの怪人・ヒューマンガスを見る目には、何の感情もありませんでした。怒りも憎しみもなく、ましてや正義感に突き動かされて戦うわけでもありません。ガソリンを手に入れる、そのためだけに戦います。
しかもマックスは、味方であるはずのジャイロキャプテンやパッパガルロに対しても何の感情も抱いていません。実際、ガソリンを手に入れたマックスは彼らと袂を分かちます。石油を運ぶためのトレーラーを運転してくれ、と頼まれますが、マックスは「取り引きは終わりだ」と言うだけで取り合おうとしません。
ところが、ウエズらに襲われたマックスは……重傷を負わされ、唯一の仲間だった犬と車を失います。その後ジャイロキャプテンに助けられ、かろうじて一命を取り留めたマックスは、パッパガルロに志願します。
「報酬はいらない。俺にトレーラーを運転させろ」
もはや今の彼にとって、ガソリンなどどうでもよかったのです。自分から何もかも奪い去ったウエズらに復讐するには、巨大なトレーラーが必要だった……そのためだけに、マックスは改造トレーラーのハンドルを握り、暴力集団たちに戦いを挑むのでした。
と、簡単なストーリー紹介をしましたが……この作品、当時はあまり評判が良くなかった気がします。
まず、私が小学生から中学生くらいの時は……この映画をよく言う評論家はいませんでした。少なくとも、故・淀川長治さんや故・水野晴郎さんのような有名な映画評論家が、この映画を褒めているのを聞いた、という記憶はないですね。。
今も覚えていますが、私が中学生くらいの時、夜中に放送されていた番組でマッドマックスシリーズが紹介されていました。ところが、シリーズを紹介していた評論家は、1についてのみ延々と語っていたのです。2以降に関しては、ほとんど触れていませんでした。「その後マックスは、孤独な戦士として荒野をさすらうのです」という説明で終わらせていました。
さらに紹介が終わると、司会者が「私も、マッドマックスは観たことがあります。1は、犯罪集団のリアルな怖さや社会的な問題を描いていました。ただ、2はちょっとね……」と顔をしかめながら言うと、別の評論家らしき人物もそれに同調するように「あれは、2以降は全く別の作品ですね」などと、馬鹿にしたような口調でコメントしていたのです。
私の偏見かもしれませんが、一九九〇年代あたりまでは「マッドマックスは1が最高。2以降はB級アクション」という評価が一般的だったような気がします。
念のため付け加えておきますが、マッドマックス2は公開当時、かなりヒットしております。でなければ、パクり映画が多数制作されたりはしないでしょう。
もうひとつ、当時のマッドマックス2の評価に少なからず影響を与えたな……と思える作品があります。それは北斗の拳です。
当時、少年ジャンプは凄まじい発行部数を誇っていました。そのジャンプの黄金期を支えていた人気作品のひとつ、それが北斗の拳です。今さら説明の必要もないでしょうが、核戦争後に無法地帯と化した世界で、悪の集団と闘うケンシロウの活躍を描いた世紀末救世主伝説です。
この作品の世界観ですが、マッドマックス2にあまりにも似ているんですよ。砂漠、モヒカン、バギーカー、革のジャケットなどなど。ストーリーそのものは全く違いますが、知らない人が見たら混同してしまうでしょうね。
この両作品ですが、どちらが先に公開されたかといえばマッドマックス2です。しかし、北斗の拳があまりに人気だったため……当時の小学生の中には「マッドマックス2は北斗の拳のパクり」と信じ込んでいた人も少なからずいたようです。実際、小学生の時にマッドマックス2がテレビで放送されましたが、翌日「あの映画、北斗の拳の真似してるよな」と言っていた子がいました。
しかも当時は、映画などの情報を調べるのが困難な時代でした。今ならば、公開時期はネットで簡単に調べられます。しかし、私が小学生の頃にはそんな便利なものはありません。したがって「マッドマックス2は北斗の拳のパクり」という話を友人から聞き、そのまま信じてしまった人もいたでしょうね。
余談ですが、九〇年代には「あれはエヴァのパクり」「これはエヴァの真似」「あの作品は、エヴァの影響を強く受けている」などと、事あるごとに主張する人がいたそうです。説明の必要もないでしょうが、エヴァとはアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』のことです。人気作品には、必ずこういうタイプの信者がいるようですね。
時が流れ、マッドマックス2はカルト的な人気を博した作品として知られています。シリーズ最高傑作、と評価する人も少なくありません。幼い頃に好きだった作品が、今も語り継がれている……これは、単純に嬉しいですね。そんなわけで、次回へと引っ張ります。




