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エッセイ書いたんだよ!  作者: 赤井"CRUX"錠之介


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懲りない人

 かつて、私の知り合いにジョイ(もちろん仮名です)という人がいました。ジョイは私の先輩にあたる人物でして、なかなかのイケメンで女性にもモテていたようです。また、気のいい人物でもありました。

 実際、ジョイは付き合いやすい人物でした。チンピラに有りがちな「何かにつけてマウントを取りたがる」ような部分はなかったですね。

 ところが、ジョイには別の一面もあったのです。それも、ひどくタチの悪い一面が……。


 このジョイの職業はチンピラです。チンピラが職業? などと疑問に思った人もいるかもしれませんが、要は裏社会におけるフリーターのようなポジションだった、といえばお分かりいただけるでしょうか。仮にヤクザが裏社会におけるサラリーマンとするなら、彼のようなチンピラは派遣労働者もしくはパート従業員といったところでしょうね。ただジョイの場合、やっていることはセコかったですが。

 彼が一時期よくやっていたのは、タクシードライバー相手の恐喝です。例えばジョイが自転車に乗って狭い道を走っている時、タクシーが側を通ったとします。すると、ジョイはわざと派手にスッ転びます。その直後、痛そうな顔で立ち上がり、ドライバーに因縁を付けるわけです。


「てめえコラア! どんな運転してんだ! てめえのせいで、ポケットに入れといたサングラスが割れちまっただろうが! どうしてくれんだよ!」


 こんな展開になった場合、ほとんどのドライバーは僅かな金で済むのなら、金を払って終わらせようとするそうです。要は、体を張らない当たり屋ですね。ジョイは一時、この手口で稼いでいたと言っておりました。念のため付け加えますが、今はこんなやり方は通用しませんので。

 またジョイは、タクシーに留まらずあらゆる業界にクレームを付けまくっていたそうです。つまらないことで因縁を付け、いろんな物をせしめていたとか。大半はしょうもない粗品ですが、中には商品券など送ってきた企業などもあったそうです。

 しかし、悪い評判というものはすぐに広まります。やがてタクシー業界には、ジョイの手配書が回っていったそうです。その後、ジョイは恐喝で逮捕され刑務所へと行きました。



 時が経ち、ジョイは刑務所を出てきました。少しは反省したかと思いきや、彼は全く懲りていません。いや、前よりも更に悪くなっていました。彼は刑務所で作った人脈を基にして、あちこちで悪さをしていたようです。

 しばらくして、ジョイはまたしても逮捕されました。ただし、今回は覚醒剤です。当時、私は暇だったので新宿警察署の留置場まで面会に行きました。その時、私は身分証を持っていなかったため、担当の警官にぶつぶつ文句を言われたのを今も覚えております。

 ガラス越しに会ったジョイは、逮捕される前とさほど変わらない様子でした。ヘラヘラ笑いながら「今回は二年くらいで出て来られるから」などと言っていました。

 彼と言葉を交わしたのは、その時が最後です。以来、私とジョイは会っていません。それから十年以上が経過しましたが、連絡は取れていません。とっくに刑務所を出ているはずなのですが、何をしているのかは不明です。



 ジョイは、性格的には付き合いやすい人間でした。いつもニコニコしており、一緒にしょうもないバカ話をしたのを覚えています。

 同時にチンピラでもあり、覚醒剤もやめられなかった男でした。私は、いずれは彼もまともになるのでは……という淡い期待を持っていたのです。しかし、ジョイは変わりませんでした。彼が覚醒剤をやりたかったがためにチンピラとしての生き方をやめなかったのか、チンピラだったために覚醒剤をやめなかったのかは分かりません。

 ひとつ確かなことは、ジョイのようなタイプの人間を変えるのは非常に難しいです。薬物だけでも厄介なのに、犯罪で楽して稼ぐことを覚えてしまうと、これはもはや重病でしょうね。しかも、いつかはこういう形での別れが来ます。単なる疎遠になってしまった友人とは訳が違うんですよ。留置場のガラス越しに会話した後、行方の分からぬまま時が過ぎていき、気がつくと十年が経過していた……これは、切ない話ですね。






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